十八話 検証
<ソラ歴一〇〇八年 四の月>
トリファが王都へ旅立って四カ月が経った。
相変わらず俺は、スキルの検証をやっている。
コアプレートを作ることでスキルが分かってからというもの、この不思議な力の魅力に取り憑かれてしまった。
父さんに相談したら、開拓途中の比較的安全な場所を訓練場として使わせてもらえる事になった。
もちろん、訓練場付近に必ず開拓団の誰かがいるというのが条件で、誰もいない時には入らないように言われている。
今日も、朝食をとってからまっすぐ訓練場へ来ている。
「おはようございます! 今日はハチェットさんでしたか」
「おはよう、今日も早いな。イロハ君」
今日はハチェットさんだ。
伐採部の長で、『お調子者のハチェット』という異名を持っているとかなんとか。
見た目が小柄な山男みたいな感じで、笑顔に面倒見のいいところがにじみ出ている……独身さんです。
ちなみにミコタンドウの発見者でもある。
「はい。ちょっと色々と試しているところなので……もう少しで何かつかめそうなんです!」
「そうか、そうか。頑張り屋さんだなー! おじさんには、眩しすぎるぜ……じゃ、ちょっとその辺で薪を作っているから、何かあったら声をかけてくれ」
「はーい!」
……わかる。
歳を重ねていくと、若い子の頑張っている姿がすごく眩しいんだよ……っと、俺は子供だったな。
見た目が子供になって気付いた事だけど、人の精神とは、自分の外見通りに扱われると、少しずつその外見に引っ張られていくものだなと、実感している……人によるだろうけど。
よし、今日も頑張ろう!
「フンッ!」
しばらくの間、俺のスキル『真強化』を、体の部位に対してどれくらいの精密さで、何か所くらいできるのかを試している。
最初のうちは、身体全体に行き渡ってしまい、体感で言うと五分程度で効果がなくなってしまった。
何度も使っているうちに、身体の一部分に集中し、限定できるようになってきた。
このように、一つずつ新たな発見があると、もう好奇心を抑えられない……。
「ふぅ~」
この一年で、ある程度の検証はできたな。
やはり、スキルは使えばどんどん馴染んでくるようだ。
領都の書庫で読んだスキル関連の本に、『特性とスキル』というものがあって、スキルは使用者との親和性を上げれば効果が上がる、という記述があった。
「ハッ!」
親和性を上げるには、単純に使い続ける事、想像し応用を試みる事などが挙げられていた。
また、スキルには複数の効果をもたらす場合もあるので研鑽を怠らない事、となっている。
まあ、俺の場合は、真強化の効果を考えれば、何かを強化する以外はあまり無さそうに思える。
例えば、父さんのように槍に炎をまとわせる事はできないのだろう……でも、槍自体を強化……まあ、強度を上げることならできるのではないだろうか? そう思っている。
「ふぉぉ~」
今日は、検証で得た事とこれまでに分かった事を実際にやってみて終わろうと思う。
俺のスキル『真強化』は、読んで字のごとく強化に関するスキルと考えている。
スキルの訓練一か月後くらいには、真強化の基本スキルが想像通り『身体強化』となって表示された。
いまのところできることは、身体全体を強化する身体強化、応用訓練で得た身体の一部強化の二種類となった。
親和性を高めることで変わった事といえばは、徐々に回数と効果時間が増えてきた事と、効果の上限が上がった事である。
「スーッハ!」
全身の強化について一度の訓練で使える回数は、当初で最高五回だったのが、今では十回程使えるようになった。
部位の強化だとそのおよそ倍は可能で、効果時間は、体感で五分程度だったのがかなり持つようになった。
木や石で試した結果、効果の上昇が少し強い程度から、全身も部位も共に数倍くらいの強さまで成長した。
今は、強度の調整ができないかを模索しているところ……でないと手加減ができなくなりそうで使いづらいと感じている。
ちなみに、最初からクールタイムのようなものは無かったが、同じことを二回、いわゆる重ね掛けのようなことをしても効果は変わらなかった。
全身の強化の後、腕の部位強化を使ったら、腕だけの強化になったことから、上書き関係にあるように思える。
正確に同じ効果かは分からないけど、他者にも使えると考えている。
「ふぅ~はぁ~」
こんな感じで、細かく検証してみた結果、『真強化』はかなり万能なスキルではないだろうか? と思えてきた。
最初に授かった時は、他の人と違うようだしなんだか地味だなーと思ったが、シンプルイズベストという言葉もあることだし、前向きに考えようと思う……あれ? ザベストだったかな?
スキルの上達のコツを早くも掴んだと手応えを感じている。
恐らく、本に書いてあったことは間違いないが、微妙に違うと思う。
使う回数が大事なんじゃなくて、こうなりたい、ああなりたいと想像する事が一番の近道ではないかと考えている。
「…………」
想像の訓練。
身体強化の効果検証の時、体表面の硬化、筋肉、骨格、神経、脳……と、細かく体の仕組みを想像しながら使う方が効果的のようだ。
ある程度、身体に関して日本での現代知識があってよかった。
それにしても、想像力って大事なんだな。
「………………よし!」
「スーッ……」
今では、身体強化を使うと全身に不思議な力が流れていくのが分かる……ほんのり暖かい。
以前、首が痛くて気功整体と言うものを受けたことがあるけど、こんな感じのことを言ってたっけ。
当時はなんにも感じず、しばらくして治ったので気にしていなかったけど、あの整体師って……まさかスキル使いだったのか?
意外と地球にも、本物がいるかも知れん……。
最後に、身体強化を全身に行き渡らせて、今日の訓練はこの辺にしておこう!
ハチェットさんに挨拶して帰ろう!
……どこかな?
ん? こっちから音が聞こえる。
あ、いたいた。
「ハチェットさん!」
「お、おう。もう終わったのか?」
汗だくだ……って今、スキル使ってた? なんか斧の表面が青く光って見えたような。
「はい、今日はこの辺にしようと思います」
「そうか、毎日がんばってるな」
「ハチェットさんは、まだ薪やるんですか?」
「そうだな……今年は、お祝い事で大量に薪使ったろ? 補充しとかないとな」
ああ、トリファの合格祝いか……ファイヤーしたもんな、しかも、来年はロディだし。
「ああ、そうだったんですね」
「それに、開拓事業も近々再開されるもんで、今のうちに雑務をこなしとかないと人が足りんのだよ」
へ~、開拓事業再開するんだ。
「手伝いましょうか?」
「おいおい、冗談はやめてくれって、団長に怒られるじゃないか……気持ちだけもらっとくよ」
「ハハハ、わかりました。では、僕は家に戻りますね」
「おう、きーつけてな」
ハチェットさんは、汗だくのシャツをパタパタ仰ぎながら手を振ってくれる。
家に帰ろっと。
我が家に帰り、昼食をとって自室へ戻る。
いまの所、訓練場では、木や石を相手に強化した拳で強さを変えたり、時間を計ったりしている……小型の時計があれば楽なんだが。
特にマイブームは、スピードアップだ。
最初は、度々関節を痛めてたんだけど、今では、身体強化でもスピードが乗っている……よしよし、スムーズに出てるな。
スキルは、使い方を誤ると自爆しかねないという危うさがあると思うんだけど、みんなはどうやっているんだろうか?
父さんに聞いたけど、「そんなもん、感覚でやっている。お前みたいに細かいことまで考えてやってないぞ」だって……母さんも、同じ感じだった。
そこで、自分のスキルを確認してみようと思う。
ん、コアプレートが少し光ったぞ?
コア:強化
■□□□□□
スキル:真強化
身体強化(真)○
部位強化(真)
…………増えてる。
部位強化? こんな項目は無かったぞ……毎月、変化がないか確認していたから、これは明らかにいつもと違う。
しかも、調べたのは三日前とかそんな感じだったと思うが、どういうことだろうか?
部位強化か、今取り組んでいる訓練の内容ではあるけど、悪い事じゃないし見えるのはありがたいな。
突然スキルが増えるのか……また疑問が出ててしまったよ。
とりあえず両親に聞いてみよう、何か知っているかもしれない。
スキルの成長のさせ方に、少し違和感を感じている。
俺の場合、感覚でやるとただの身体強化になってしまう……しかし、意識することで部位を指定できる。
そこで仮説だが、真強化というのは単純な全身の能力を上げるスキルで、その拡張版が部位強化ではないかと。
一応、表示された内容にも一致するし……。
いやー、これは楽しくてしょうがないな。
頑張れば目に見えて能力が反映されるなんて、素晴らしすぎるじゃないか!
後は、新しいスキルを覚えるタイミングだな……一年で何も覚えなかったので、これはしばらくかかるものなのかもしれない。
そろそろ、身体強化が切れる頃かな………………おお! 体感時間通り、自然と切れるタイミングも感覚でわかってきたぞ!
今日は、久々にロディから集合がかかったんだったな。
確か、昼過ぎ頃に『五彩樹』集合だったと思う。
母さんが洗い物をしている間、俺は、弟のリアムとしばらく遊んで、五彩樹へ向かって行った。
リアム……超カワイイ! なんか、子供が出来たらこんな感じなのかなあ。
ちょっと前まで「おにーたん」だったのに、もう「お兄ちゃん」だもんな~! 今は、なんで? なんで? の時期に入っててちょっとカワイイ。
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