幕間四話 トリファ:胸懐(きょうかい)

 ◇これは、トリファが王都へ出発する前日の裏話


 (トリファ視点)


 ほんとによかった……『王立メルキル商科学園』に合格できて。


 ふぅ、緊張するなあ。

 まさか、こんなことになるなんてね。

 父はまだなのかな……待っている身にもなってよ、もう。

 



 周りには強気で絶対合格するようなことを言って、自分に言い聞かせていた部分はあったけど、不安もあった。

 でも……自分が不甲斐ないと母が責められるはず。

 兄は優秀なので、私がもっと頑張らないと……そう思ってしまう。


 兄と言っても、父の死別した前妻の息子なので、歳も離れていてまともに会う機会もない。

 ただ……何かにつけて兄が優秀だと周りは言う。


 私との違いは、母親が違うだけ。

 私が……私が兄より出来が悪いと思われたら、それは母のせいだと周りは言う。

 幼いころ、朧気にある記憶……。

 

 王都の商会関係の人たちは、父の前妻のリタさんを知っている人が多く、兄のセントルスをかわいがってくれていたようだ。

 私はと言えば、王都にはほとんど行ったことが無く、商会関係者にもあまり会ったことがない。

 うっすらとしか記憶にないけど、二歳とか三歳頃までは王都に行っていたんだと思う。


 母は、あまり気負う必要はないだとか、自分が悪く言われるのは気にしていないだとか言ってはいたが、そんな話ではない。

 子の能力を、母親のせいにするな……と、そう思う。


 今までで一番頑張った気がする。

 正直に言えば、私は兄ほど優秀ではないことを自覚している。

 でも、そんなことは関係ない、努力に勝るものはない……父が日ごろから言ってくれる。


 あー、ホッとした。

 本当に、本当に、合格してよかった。


 

 それにしても、あの仕事一筋な父がことのほか喜んでくれた。

 なんと、村を挙げてお祝いをしたいって、イロハのお父さんにお願いしていたのにはビックリした。

 おかげで、母はお祝いの準備で王都を往復する羽目になり、兄は王都の商会関係者に打診をしたりと手伝ってくれていたらしい。


 合格発表の日に王都の別宅へ顔を出すと、久しぶりに兄に会った。

 凄く喜んでくれて、自分の同僚とかに自慢していた……ちょっと嬉しかったなあ。

 

 本当は私のことが目障りだから、ゴサイ村へは移住しなかったと言われるのが怖かったから、聞いたことは無かった。

 まあ、会う機会がそもそも少なかったんだけど、今日の感じでは……父と同じ匂いがした。


 その日の夜、合格してホッとしていたのか、これまでの私の気持ちを兄に話してみた。

 

 兄は……号泣し、「ごめんな、ごめんな」って言われて、一緒にワンワン泣いてしまった……。


 結局、兄も私と同じような気持ちで、自分が新しい家族に入ると邪魔になるかもしれないと考えて、そのまま王都で働き始めたらしい。

 兄は、これからはもっと家族との時間を大事にしたいって「早く王都に来いよ~」と言っていたのにはちょっと笑ってしまった。

 

 これから入学すると言うのに……過去の色々なことから卒業できた気がする。


 私の人生はこれからだ!


 これからは、家族を大事にして楽しく過ごしていこう。


 舞台裏で父を待っていたら、ここ数日のことをいろいろと考えて笑みを浮かべてしまった……フフフ。


 

 どうやら、いつの間にか父とルーセント団長が話し込んでいるみたい。

 

 

 はぁ〜「感謝の意みたいな言葉で」って簡単に言ってくれる……こんなに大勢の前で話したことなんてないよお。

 一応、一応ね、考えてきてはいるけど……。


「私、緊張するな~。一応、短めの言葉は考えてきたのだけど……」


 そう答えて、舞台へ…………。




 父と私は挨拶を終えて、舞台裏へ戻ってきて、ルーセント団長といくつか言葉を交わし会場の方へと足を運ぶ。


 会場では、父の商会関係者に紹介されて、最後は商会長へ挨拶に行きいろいろとありがたい言葉をいただきました……。

 やっぱり、母と兄は来られなかったみたい……会場を探したけど見当たらないし、準備関係がかなり押してるって聞いていたから。


「お父さん、お母さんと兄さんは来られなかったの?」


「そうだな、準備に手間取って、後始末が大変だったみたいで……私もこの後、王都から戻る荷車の対応に行くつもりだ。もちろん、トリファは会場で楽しんでくれ。主役だからな」


「えっ? そんな……」


「大丈夫だ、いろいろ片付けたら戻ってくるし、改めて家族でお祝いをしよう。それより、村の友達と会えるのもあとわずかだぞ。しっかりお別れをしてきなさい」


「うん……。ありがとう、お父さん」


「……と言っても、みんな優秀だから数年後には王都の学校に来そうだな」


「うん、うん。私もそう思う。じゃあ、みんなの所に行ってくるね」


 父の元から、友達の所へ向かう……お父さん、お母さん、兄さん、ありがとう。



 イロハ、ポルタ、ロディ、ミルメ、レジーの順に挨拶をして、久々のこども会議をしよう! となった。

 これが最後の集まりだと思うと悲しくなってくる……ミルメ、大丈夫かな?


「どんな事があっても、ずっと僕たちは仲間だ……」


 ……やばい。

 イロハはなんてことを言うの? この状況であんたに似合わない言葉をかけられたら……泣いちゃうじゃない。


「「「「ハハハハハ」」」」


「笑ってごめんなさい。らしくないイロハの言う通りよ。私はひと足お先に学校へ入るけど、みんなのことを思っていればさみしくなんか無いわ、そうでしょ?」


 耐えた~!

 危なかった……ほんとに泣き出すところだった、上手くごまかせたよねぇ?

 普段はぼーっとしているのに、こういう大事なところで突いてくるのは反則だよ、イロハめ。


 あー、これで心置きなく王都へ行けるわ。


 

 翌朝、近所のおじさんおばさんや、開拓団数名に見守られながら家族みんなで王都へ出発する事となった。

 

 王都までは半月くらいかかるので、入学準備も含めて早めに出発しなきゃ……はぁ、しばらくみんなとお別れね。

 

 いつもみんなで集まっていた五彩樹を振り返ったら、五つの影が見えた。



「みんな、行ってきます!」

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