幕間三話 ルーセント:舞台裏
◇これは、トリファが王都へ出発する前日の舞台裏
(ルーセント視点)
いやー、トリファちゃんもルブラインさんに似たのか、王立メルキル商科学園に合格するなんてな。
このゴサイ村では、初の快挙じゃないだろうか。
ルブラインさんが、村をあげてお祝いしたいって言ったときはビックリしたなあ。
全額持つからお願いって言われて引き受けたんだけど……まあ、あるところにはあるもんだ。
おっと、そろそろ始まりそうだな。
会の開始は、ルブラインさんの挨拶からだったな、確かその辺に……いたいた。
「ルブラインさん。この度はおめでとうございます」
「これは、ルーセント団長。ありがとうございます」
「トリファちゃんも、頑張ったね。凄いよ、村の快挙だね」
「あ、ありがとうございます。精一杯がんばったらなんとなっちゃいました」
テヘッと舌を出しておどけて見せる……大きくなったな、トリファちゃん。
「そりゃあ凄いな。うちのイロハにもそんな能力があってくれたら……」
「えっ? イロハは、私なんかよりずっと頭がいいと思いますよ。普段はぼーっとしているけど……」
「アイツは、いつも何考えてんだか分からん……賢そうで、抜けていて……勉強もしていないようだし」
「ハッハッハッ。それは、近くにいすぎて分かりにくいだけですよ。商人は人を見ます。トリファもその目を持っています。私も、少しだけ話したことがあるのですが、何というか、抜け目のないという印象、とでも言いましょうか。そういう人は、どこかで必ず頭角を現します」
随分とうちのイロハを褒めてくださる……やっぱり、ルブラインさんと言えどご機嫌は隠せないようだ。
「や、やめてくださいよ大げさな。冗談が過ぎますって。イロハはちょっとぼーっとした普通の男の子ですよ」
「まあ、そのうち分かりますよ。それで、今日の会の事なんですが……」
「ああ! そうでした、今からルブラインさんが皆に挨拶を行ってください。その後で、トリファちゃんが、そうだな……感謝の意みたいな言葉で締めくくってくれれば、そのまま勝手に始まるでしょう。みんな、今か今かと待っていると思いますから」
「私、緊張するな~。一応、短めの言葉は考えてきたのだけど……」
「大丈夫だよ、トリファちゃんなら問題ない。かしこまらなくっていい、自然な感じで言えば皆に伝わるよ。気持ちが大事だ」
ドンと自分の胸を叩く。
「では、トリファ。行こうか、早く始めてやらないと暴動が起きてはかなわんからな」
「うん……では、行ってきます」
「お二人とも、行ってらっしゃい。そして、会を開けたことに感謝します」
そう言って、二人の背中を見送る。
ルブラインさん、凄く買ってたな……イロハの事。
周りにはそんな風に見えているのか?
んー、とてもそんな風に見えんがなあ……頭角ねぇ。
しばらく待っていたら、挨拶も終わり二人が戻ってきた。
ここは裏方なんで、少ししか聞こえなかったけど、ルブラインさんは慣れてるな、という印象だった。
一応、ルブラインさんには労いの言葉でもかけとくかな。
「お疲れ様です、ルブラインさん。無事開催できましたね」
「はい、後のことはよろしくお願いしますよ、ルーセント団長」
「もちろん、警備から撤収まで我が開拓団にお任せください」
「団長〜! 今日はありがとうございます! 私、みんなの所に行ってきます!」
っと、元気いっぱいなトリファちゃんは、さっさと舞台裏を出ていってしまった。
「ああ、いってらっしゃい!」
「では、私もこの辺で失礼します。会場では妻のホーシャも待っておりますので。後でまた改めて夫婦でご挨拶に伺います」
「いえいえ、お気になさらず。私も先ほどから妻を待たせておりますので……」
「そうですか、では後ほど」
軽く会釈をして、ルブラインさんは会場の方へと歩いて行った……すごくいい笑顔で。
ルブラインさんとこも、最初はごたごたしてたもんな……前妻さんに先立たれて、王都で身も心も疲れ果ててようやくたどり着いたところがこの開拓村だったって言ってたな。
当初は前妻さんとのお子さんと一緒に住むつもりだったようだけど、学校への入学と重なって、結局来ることは無かったな……なんでも、卒業と同時に王都の方で商会の手伝いをしているとか?
そんな時に、ホーシャさんと再婚して生まれたトリファちゃんは、さぞ愛されていることだろう。
この村に永住を決めてくれたことは、本当にありがたかった。
開拓が始まったばかりの小さな村に、王都の商会が拠点を作ってくれるだけでどんなに助かった事か。
しみじみと開拓村の歴史を振り返っていたら……。
「団長! 団長! あ、ここでしたか。奥様から伝言です。リアム坊ちゃんが調子を崩したから、先に帰ります……とのことです」
「そうか、わかっ……なにぃ!! おい、ハチェット! リアムは大丈夫なのか? どこにいった、ステラはっ?」
「お、落ち着いてください。奥様はすでに戻られています。安全のためにラミィが同行しましたので、問題は無いと思います」
「そ、そうか。すまん、ちょっと焦ってしまったようだ……イロハに伝えて、俺も戻ることにするよ」
「はい、後はお任せください。責任もって、我々開拓団が会場を見守りますので。それと、イロハ君には、別の者が伝えていると思うのですが、何か他に伝えることがあれば何でも言ってください」
「では、リアムが心配なので先に俺とステラは家に戻っておく。お前は楽しんで来い、と伝えてくれ」
「はっ! ではお伝えしておきます」
「うむ、ではよろしくな。私は戻るとするよ」
「はい、お任せください」
俺は、リアムが心配になり、駆け足で家へ向かった。
家では、ぐっすり眠ったリアムと、落ち着いたばっかりのステラが迎えてくれた。
「リアムは大丈夫なのか?」
「ええ、ちょっと会場に人が多かったからかしら……急に具合が悪くなったみたいで」
「そうか。大事なかったならよかった」
「今、ちょうど寝付いたところよ」
「ん……ラミィは? 一緒じゃなかったのか?」
「家までついてきてもらったけど、レジーちゃんもいることだし、戻ってもらったわ」
「一言お礼でも……いや、いいか。うん、これも開拓団の仕事のうちだ」
「あなたは、またそうやって……そこは素直になってもいいんじゃないかしら?」
「そ、そうだな。アイツとは腐れ縁だが、なんだかんだと世話になってるし……」
「そう言えば、イロハはどうしたの?」
「いやー、焦って置いてきてしまったよ……ハッハッハ。でも、大丈夫だろう、ハチェットに「お前は楽しんで来い」って伝言も頼んだから」
「そうね、仲良くしていた友達が旅立つ日ですもの、きちんと見送ってほしいわ」
「大丈夫だろ? その辺あいつは、分かっててやってる感じがあるだろ?」
「フフフ……なんだかんだ言って、あの子しっかりしてきたわね」
「そういうもんかね……フフ」
結局、イロハが帰ってきたのは、会がお開きになってからだった……本当にしっかりしてるのか?
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