十七話 門出:後半

 お気に入りのサクランボリンゴをちょいちょい摘まんでいると……。


「イロハ、ちょっといいか?」


 ん? 誰よ……ロディか。


「なに? ロディ」


「ルーセントさんがどこにいるか知らないか?」


「父さん? 父さんなら、ルブラインさんの挨拶が終わったら、一度家に帰るって聞いた。ここが始まるちょっと前に、弟のリアムの具合が悪くなって、母さんと家に帰っているらしい……僕は会場にいていいからって」

 

「そうなのか……お前はさ、その、ルーセントさんに稽古つけてもらってんだろ?」


「えっ? 稽古? 剣の稽古なら、去年辞めたよ」


「はぁ? なんでだよ、お前は騎士学校行くんじゃなかったのか?」


「うーん、僕さ、去年コアプレート作って、剣にあんまり関係なさそうな特性だったから……」


 まだ言ってるよ、余程俺を騎士団に入れたいらしい。

 こうなったら、できるだけ落ち込んだ感じで……しゅーん。


「それで辞めたのか。悪いが俺は、王立ロイヤード騎士学校を受験する」


 まあ、剣術系のスキルが出たんだよね? 父親のカラックさんが大はしゃぎで触れ回っているぞ。

 ここでも……しゅーん。


「そうか……僕は残念だけど、どこかの普通校を目指そうと思う」


「なんで、イロハに剣術が出なかったんだろう……俺は悔しいよ」


 あ、あれ? なんか面倒くさいこと言い出してない?

 だが……しゅーん。


「いや、これは生まれた時から決まっているようなもんだから、今更どうしようもないよ……」

 

「本当は、イロハと一緒に王国騎士団入りして、競い合いたかったのに。なんでだよ……」


「ごめん、ロディ。これからは別々の道に進むかもしれないけど、僕とロディはずっと仲間だ。幼なじみのみんなも一緒、仲間だよ」


「うん……。俺、イロハがかわいそうで……あんなに剣術頑張ってたのに……。あんなにすごい父親がいるのに……。なんで……」


 あー、完全に面倒くさいモードに突入しとるよ、この人。

 やりすぎたかな?


「ロディ、聞いて。僕はね、父さんのようにバッタバッタと敵をなぎ倒す戦士のようなタイプより、陰ながら戦略を練っている方が性に合ってる。だから、僕はココで勝負するよ」


 そう言って、こめかみ辺りを人差し指でツンツンする……我ながら嫌な奴よ。


「……フフフ。確かにな、わかった。俺はどんどん駆け上がるからさ、駆け上がった俺をお前の戦略に組み込んで使って見せろ。一騎当千の活躍をしてやる!」


 はー、カッケーこの人。

 要は、特性に恵まれない子に、希望を持たせてくれているんですね……ありがとです。


「うん、わかった。僕なりに頑張る。ロディも頑張って王国騎士になってね」


 そう言って、右手をと右手を……パーンって、あれ? ああ、えっと、腕と腕ね、はいコツン。

 ポルタじゃないと微妙に息が合わん。

 ロディって、昔からちょっと熱い男……ここは漢と書いておとこだな。

 

「いつも、イロハとはちょっとズレるよな~。手を上げすぎだって」


「ロディの方がズレてるよー。今のは、右手同士でバチーンでしょうよ」


「そうかぁ? まあいいや。今度さ、ルーセントさんに稽古つけてって伝えといて。頼むよ、イロハ。あと、あんまり落ち込むなよなー」


「わかった、伝えとくよ。父さんは手加減下手だから、頭に当たったら記憶喪失になっちゃうかも……あ、逆になんか思い出すというのもあるな。大丈夫?」


「え……。そこは、直撃だけは注意してもらうとか……」


「ロディよ、そんな甘いことで一騎当千になれるのかい?」


「っく……わかった。やってやるよ。ルーセントさんには伝えといてくれよ。じゃなっ」


 さっさと走って行っちゃったよ……熱い漢であった。


 

 さて、この流れで行くと……来るよな、来ちゃうよな。

 向こうから、ミルメとレジーが走ってきている。


「よー! 誰かと思ったら、ミルメ姉ちゃんにレジーちゃん」

 

「姉ちゃんって言うなー!」


「レジーは、レジーちゃんって言われると嬉しいよ」


 おおう、レジーは自分のことを名前で呼ぶ娘だった……他の者がレベル高いから、レジーはちょっと心配になってくるな。


「あはは、ゴメン、ゴメン」


「ねえ、イロハは王都の学校に行くの? あたしは勉強あんまり好きじゃないから……トリファ姉のところには行けないや」


「受験か? それならそんなに難しくないと思うぞ。頑張ればミルメだって行けるさ。ただ、何をするためにそこへ行きたいか、それが大事なことだと思う」


「レジーはね、またみんなと集まって遊びたいの。ロディがなんか話して、トリファがみんなの世話して、ポルタが居眠りして、ミルメが木に登って、イロハが難しいことを言うの。レジーはそれを見て楽しむの」


「ちょっとレジー! なんであたしが木に登んなきゃ行けないのよ!」


 あー、レジーの話を聞いててこども会議の光景を思い出すなぁ……もう、あの時は二度と訪れない。

 ちょっとだけレジーの気持ちがわかるなあ。

 

 それで、なるほど、ミルメは猿という認識だったか。


「ミルメは活発だからな、幼いレジーには羨ましかったんだろう? 悪い意味じゃないさ。なぁ、レジー?」


「レジーは、体力があんまりないから、かけっこや木登りもできないの。代わりにミルメかやってくれるの」


「も、もう。あたしだって、七歳になったからね、女の子らしくなるもんっ」


「うん、うん。二人共、とっても可愛いから大丈夫。活発だろうと、運動できなくてもちゃんと美人さんになるさ。間違いない」


 まあ、嘘にはならんだだろう。

 二人共、母親は綺麗な人だし、ミルメは健康的で美少年のようだし、レジーは可愛いお嬢ちゃんだし。


「うるさーい! バカにするな、イロハ。どうせあたしは男女だよーだ。今に見てろよぉ……」


 あらら……見事に逆効果やな。

 子供を持つことが叶わなかったから扱い方がわからぬよ……ぐぬぬ。


「バカって言われたねー? レジーは、イロハが余計なこと言ってみんなに怒られてるところ面白ーい!」


 なんだこのカオスな状況……全く会話になってない。


「はいはい。それじゃ、レジーも言ってたように、たぶんこの先、六人が揃うことはなかなか難しいと思うから、みんなのところに行こう!」


「「うん!」」

 


 幼なじみ六人が久しぶりに揃って、早速こども会議が始まった。

 いつものように、ロディが熱いことを話し出し、その後ろにはレジーがしがみついてみんなのマスコットになり、トリファが心配そうにロディを補足をして、ミルメが木の上からみんなを見て、ポルタがうつらうつらと船を漕ぎ、俺は……この光景をしっかり目に焼き付けながら、つい……。


「どんな事があっても、ずっと僕たちは仲間だ……」


 我ながら、ロディでも無いのに熱いことをつぶやいてしまった……トリファも顔を真っ赤にしてうっすら涙ぐむほど笑いをこらえているようだ……って、泣くほどかーい!

 なんか、キャンプファイヤーの光とこの光景が……そうそう、哀愁というやつだ、そいつのせいだ。


「「「「ハハハハハ」」」」


 みんなが笑ってくれてますよ……似合わんよな、でもちょっと言ってみたかったんだよ。


「笑ってごめんなさい。らしくないイロハの言う通りよ。私はひと足お先に学校へ入るけど、みんなのことを思っていればさみしくなんか無いわ、そうでしょ?」


「お、おらもそう思う。こんな自分でも嫌わず仲間と言ってくれた。こんな暖かい仲間どこにもいない」


 なに言ってんの、このすやすや坊ちゃんは……お前も、哀愁か? 哀愁の野郎か?


 っとにもう……グッときてしまったじゃねーかよ、普段は寝てばかりのくせに。

 その後も、まぁ、酔った大人が乱入してきたりといろいろあったけど、久々にみんなで盛り上がって楽しかった。



 火も小さくなり、月明かりが差す時間となっても、幼なじみ六人の絆を深め合う会は、会場がお開きになるまで続いた……大きな五彩樹のもとで。



 あれ?

 これってよく考えたら、みんな王都の学校目指すと、四年連続での開催あるんじゃないか?

 ……しみじみが台無しである。



 

 翌朝、村民数名が見送る中、俺らはいつも集まっていた五彩樹の元からトリファが旅立つのを遠目に見守った。

 トリファは、一瞬こちらに目を向けてからすぐに向き直り、家族に連れられ王都へ旅立っていった……うっすら目に涙をためつつ。

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