十六話 門出:前半

 <ソラ歴一〇〇七年 十二の月> 


 ◇◆◇◆ 一年後 ◇◆◇◆


 明日はトリファが王都へ出発する日だ。


 トリファは、勉強の甲斐あってか、難なく王立メルキル商科学園へ合格したらしい。

 

 俺から見ても、とても十歳とは思えない話し方や振る舞いで、同世代の中では頭ひとつ抜けて大人びている。

 

 ここ一年は、王都の商会の方で勉強していたらしいので、あまり会っていない。

 くっついて回っていたミルメは、すごく寂しそうだったけど、頑張っているトリファを見て応援の立ち位置に落ち着いたみたい……偉いぞ。


 大変だったのは……ポルタだ。

「おら王都さ行くだ!」と言って、度々トッカーさんを困らせていた。

 根負けして一度だけ行ったらしいけど、レベルが高くて勉強について行けなかったらしい……落ち込んで帰ってからは、人が変わったように必死で勉強しているとの情報が。

 

 まあ、あと二年あるし、頑張ってほしい。


 ロディは、来年の試験に向けて、父親のカラックさんを捕まえては、剣の訓練をしているようだ。

 

 勉強の方は、母親のカルネさんが教えているらしい。

 カルネさんも開拓団員だけど、第一騎士学校出身で、勉学の方は好成績で卒業されていると言ってた。

 

 年長組のトリファとロディが、試験準備に入ったことから同世代の集まりも無くなり、レジーも最近ではミルメとよく一緒にいるようだ。

 

 あれだけトリファにベッタリだったミルメが、お姉さんしているところを見ると、なんだかホッコリしてしまうよ……成長って早いもんだ。


 俺はというと、この一年、スキルを進化させるために毎日毎日、ひたすらスキルの検証をしていた。

 特性とスキルの関係や、効果、与える影響なんかも、『イロハノート』にメモメモしている。

 

 領都に図書館という名の書庫があると聞いたため、一度連れて行ってもらい、本の情報からもいろいろ調べてみた。

 

 一応、普通校である『王立スレイニアス学園』と『王都総合学園』のどちらかを受験しようと思うので、試験対策のために図書館で『王都各校試験対策集』を見てみた。

 

 王立総合学園の試験内容はビックリするくらい低レベルだったため問題なし。

 

 王都の名門三校と言われる『王立ロイヤード騎士学校』、『王立スレイニアス学園』、『王立メルキル商科学園』についても、大人げなく言えば大学卒の俺としては、こんなもの余裕である。

 

 試験に関係ないかもしれないけど、元素や宇宙、細菌やウイルスの存在、色々な物理法則などが解明されていないこともあるため、正確に答えるとこちらの世界では間違いになることもあるのでそこだけ要注意だ……まあ、十歳やしな。

 

 勉強が必要な分野は、この世界ならではの歴史とか礼儀作法などである。

 歴史は、世界が違うので一からやり直しとなるが、大陸史で千年、王国史で五百年程度なのでそこまで大変ではない。

 

 作法がなぁ……日本で言う合掌は、右手は左肩へ、左手は右肩へみたいに自分を抱き込んで祈る感じだし、お辞儀はあるけど敬礼はない。

 おいおい覚えていこうと思うけど……。

 

 まあ、十歳程度がお受験するんだから問題ないと考えておこう。


 

 今日はこれから、トリファが就学するので、村をあげてのお祝いをするところである。

 

 この村の幼なじみ六人と仲よく遊んでいた約四年間を懐かしく感じ、いろいろあったなあと少し寂しい思いが出てくる。

 それと同時に、立派に巣立っていく幼なじみにエールを送りたい。


 近所の人たちも、村の中心の五彩樹に集まってきた。

 キャンプファイヤーと言うんだろうか、俺の身長より高く積んだ組み木に火がくべられ、盛大に燃え盛る。

 

 たくさんの料理が運び込まれ、ちょうどお酒や飲み物が行きわたったところだ。

 

 そろそろかな?

 

 おっ! トリファの父親のルブラインさんだ。


「みなさん、本日はお集まり頂きありがとうございます。この度、娘のトリファは、王立メルキル商科学園へ入学することとなりました。ゴサイ村の皆様には、娘ともどもお世話になりっぱなしで、感謝しかございません。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。心ばかりではございますが、日ごろの感謝を込めて、お食事をご用意させていただきました。皆さま、ごゆるりとご歓談ください」


「トリファです。たくさん勉強して、一生懸命試験に臨みました。村のみんな! 行ってきまーす!」


「「「おーー!!」」」


 一応、俺もちょっとだけ……「おー!」これでいいかな?


 それにしても、みんなノリいいな。

 あら、ポルタは隅っこでいじけている……のか?


「おい、ポルタ。トリファのところ行ってこいよ」


「うぅ……」


「わかった、わかった。寂しいもんな。いいじゃねえか、二年後にはお前もトリファと同じ学校に合格するんだろ?」


「ぅ……あ、ああ。おら合格する。勉強もいっぱいする。見ててくれ、イロハ」


「おう、ポルタは、なんだかんだで頑張り屋だからな。おまえなら楽勝で行けるって」


「うん。ありがとう」


 そう言って、お互いの右手と右手をパーンと合わせてハイタッチした。


「なにやってんの~二人で?」


「よう、トリファ。久しぶりだな。とりあえず、合格おめでとうな」


「ありがとう、イロハ」


「と、と、とっ、トリファ。お、おらからも、合格おめでとう!」


 おおー、盛大に噛んでるな、トットットッってニワトリかいっ!

 一応心の中で突っ込んでおく。


「トットリファって、誰よ? 相変わらず面白いわね、ポルタは」


「あ、ご、ごめん。焦って嚙んじゃった……」


「いいわよ。ありがとうね、ポルタ。とても心がこもってたと思うわ」


「あ、いや、あの……」


「どうしたの?」


「おらも、二年後には王立メルキル商科学園に、行く」


「ふぅん。じゃ、勉強頑張らなくちゃね。言っとくけど、簡単じゃないわよ。死ぬほど勉強しなさい、ね。後輩君」


 コイツ……もはや、十歳じゃねぇ、完全に小悪魔の領域だ。

 一体どこで覚えたんだ? 急に大人になりやがって……。


「こ、後輩は頑張ります!!」


「うん、うん。よろしい! じゃ、私はミルメのところに行ってくる、またね」


 小悪魔が去っていった……。

 後輩君は固まってしまった……。


「後輩君、いい笑顔だったなトリファは」


「こ、後輩君って言うなっ! でも、いい笑顔だった……」


 ポルタは、遠目に見えるトリファに……釘付けだ。

 よし、コイツはここに置いて行こう。


 さて、お腹空いたんで何か摘まむとしようか。

 おお、家では出てこない食べ物がいっぱいあるじゃないか。

 謎肉、いっただきまっーす!

 謎魚、食べちゃいまーす!


 もぐもぐ……しかしうまいな、塩焼きにこのタレ焼き。

 

 そういや、調理や味付けによってヤマドリの味が大きく変わるということに気がついた。

 塩焼きは、モモ塩みたいな感じだけど、タレ焼きは明らかに硬さとかが違う……まあ、塩派やね。

 この魚も美味いな、苦手だったんだが、味覚も生まれ変わったんかな?

 

 ん、これは……メロンのような外見をして、中身はパイナップルに見える。

 食べてみるか。

 ほー、水っぽい酸味の無いパイナップルだ……見事に混ざっとる、メロンパインって感じ。


 こうして見ると、混ざっている果物が多いな……ブドウの実の部分がイチゴのようになってたり。

 うん、味はイチゴだね、こりゃすっぺーや。

 他にも、外見が黒紫のナスなんだが、断面がキュウリになっている野菜、触感や味はキュウリ。


 お気に入りのフルーツ見っけた!

 サクランボの見た目で、中身は小っちゃくて甘いリンゴ、サクランボリンゴうまっ!

 まさに姫リンゴやん、でも酸っぱくなくて種も芯も無くあま~い。



 あー、結構食べたな~。

 もう、お腹いっぱいで食べきれないや。

 満足、満足。

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