幕間一話 ルーセント:若年教育
◇これは、イロハが、若年教育を受ける日の話
(ルーセント視点)
仕事を終えて、帰宅したところで、王都から若年教育の指導に来るとの連絡があったらしい。
そんな話を部下のハチェットから聞き、すぐに開拓団の応接室へと向かった。
開拓団の施設は、我が家に併設されているのですぐ隣である。
一応、来客の準備でもしておこうと片付けていたら、トッカーがやってきた。
「どうしたんだ? トッカー」
「いやな、なんか王都から若年教育の指導員が来るって話を聞いたんで断ろうと思って」
「そうか、ポルタもうちのイロハと同い年だからな」
「そういうこった」
そうやって、トッカーは肩をすくめた。
「うちもイロハの教育は俺がするつもりだから……こりゃ、王都の指導員さんは無駄足だったようだ」
「そうだな、ポルタも俺が教育するし、他にはここに住んでいる同い年の子はいないだろう」
二人で話していたら、事務所の入り口から五十歳くらいの見知った顔の男性と、若い騎士のような者が入ってきた。
その後ろから、ラミィが入ってきて、お茶を置きつつ耳元で「追い返すの頑張って」とか囁いて行きやがった。
まあ、その後いろいろあって王都の指導員さんには帰って頂いたよ。
その際、結構グチグチと教育方法や情報の整合性やら……グラームス爺めが。
さて、これでやっと帰る事ができるよ。
トッカーと二言三言話したあと、無事に我が家へと帰還できた。
……今、我が家の入り口の前でドアを前に、何と切り出そうかと悩んでいる俺がいる。
自然で、かる~い感じでお話しようぜ! みたいにならないものかね……ふぅ、改めて考えると、他の家はどうやってんだろう。
イロハは妙なところ勘が鋭いし、この前は剣術の訓練中に気絶させてしまったし……はぁ父親らしいところは見せないとな。
軽く咳払いをして……。
「ゴッボボ……」
あ、しまった! 変な咳が出てしまった。
まあ、ここはドアの外だし聞こえないか……いざ、我が家へ。
「ただいまー、ちょっと遅くなった」
家族は笑顔で迎えてくれた。
それから夕飯を終え、イロハへ父の威厳……もとい、若年教育するべく、リビングへ向かう。
およそ二時間くらいかけて、若年教育を終えた。
イロハは、そのまま自室に戻り、俺はステラとお茶飲んでくつろいでいるところだ。
「イロハ、どうだった?」
唐突に、ステラが聞いてきた。
俺も、薄々気づいてはいたが、最近のイロハは何というか……考え方が大人に近いと言うべきか、気にする事柄が大人びているというべきか。
とにかく、質問が鋭すぎるのだ。
とても五歳の子がする考え方ではない……と思うけど、ステラの血もひいているから、すごく賢い子という線もある。
うーむ……。
「ああ、イロハは、スキルにすごく興味を持ったようだ」
「そうなのね。最近は、好奇心旺盛な子のようで、よく周りを見ては名前を聞いてくるのよ」
「それでなんだが、なんというか、質問がな……質問の内容がすごく答えにくかったり、なんで、なんで……とキリがない」
「なにか、おかしいの?」
「それが、ちゃんと答えると、その答えをすでに予測していたかのように次の質問が来るんだ」
「賢いんだねーイロハは」
「いやさ、賢いというか、考え方が大人すぎるだろう……まるで、俺が以前いた王国騎士団でお世話……になった文官みたいだよ」
「いいじゃない、私とルーセントの子よ、天才に決まってるわ」
「そ、そうだな……確かに、鋭い質問や回答の予測、人を問い詰めていくような……いや、答えに導くような話術。これは天才にしかできないことだな、うん」
「でしょ、ご飯食べるときなんかね、うまー! とか言って食べてるの……可愛い」
ああ、ステラに話しても意味がない。
そうさ、イロハはまだ五歳じゃないか、今からいろいろなことを経験していくんだ。
父として、大きな背中を見せる事こそが俺のやるべきことだ。
しかし……天才か。
さすが俺の子、いや、俺とステラの子だ! いや~将来が楽しみだな。
その後、ステラが妊娠していることを勝手に話した件について激怒されたことは言うまでもない……。
◇◇◇おまけ◇◇◇
(メルキル王国若年教育指導官付王国騎士 ロレット視点)
私は、メルキル王国騎士団所属で、この度、王国若年教育指導官付王国騎士を拝命しました。
もちろん、指導官様も私も、臨時の職務となるため、仕事が終わり次第持ち場へ戻ることとなります。
今回は、我々の大先輩であるルーセントさんがいらっしゃる開拓村へ、子供たちの若年教育を指導するための訪問らしい。
ああ、騎士団憧れの『赤槍のルーセント』に会えるなんて。
そんな期待に満ちた旅ではあったが、ほとんど話せずとんぼ返りとなってしまった……。
開拓団での話し合いでは、ルーセントさんともう一方がいらっしゃいました。
お二方は、自分の子は自分で教育するの一点張り、こちらはこちらでルーセントさんの騎士団時代からの知り合いらしくて、売り言葉に買い言葉の応酬。
……まぁ、外で聞き耳を立てていただけなんですがね。
私はというと、話し合いの最中は建物の外で警備を行っていましたので、結局ルーセントさんとは、一言も話せず……残念でなりません。
同期のみんなには「羨ましいー!」とか「必殺技を見せてもらってー!」などと言われ、張り切って来たのに。
近所で、好青年ともてはやされていた私でも愚痴の一つも言いたくなります。
結局この村には、他に教育する年代の子もおらず、王都へ戻ることとなりました。
そういえば、王国若年教育指導官であるグラームス様が、ずっと無口ですこぶる機嫌が悪いようです。
すごく気まずいので、私が話しかけて場を和ませる努力を、と。
「グラームス様、本日は、騎士として同行させていただきありがとうございました。無駄足とはなりましたが、騎士団でも有名なルーセントさんが開拓した村を拝見できて大変光栄でした」
「……そうか、奴は有名か」
「はい、我々二十代の若い騎士たちにも人気があります」
「……人気だと? あ奴は騎士団のトラブルメーカーじゃ。何をするにもやりすぎて……結局力技で……ガサツで…………もういいわっ!」
「……はい」
ああ……会話が続きません。
騎士団時代からの知り合いと聞いていたので、和むかなと思っていた次第ですが、踏んだ地雷が大きくて二の句が継げません……散々です。
早く王都に着かないかな……帰り始めてそう思ったのは、今のを入れてもう十二回目です。
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