十一話 ネイブ領:二

 ……。


 …………。


 あと一人待ち。


 ………………。


「ほら、ポルタ行ってこい、トッカーに土産話するんだろ?」


 父さんが、ポルタを励まし……発破はっぱをかけている?


「い、い、行ってきまする」


 あーあー、今日もポルタは噛み噛みやね。



 

 しばらくして、ポルタが戻ってきた。

 しかし、父さんはさっきから無口だな……なんだろう。


「作ってきたよ、じゃあ次はイロハの番だ」


「おう、父さん、ポルタ行ってくる」


「うむ」


 俺ん時はなんも言わないんか、父さんよ。

 スタスタと中に入り、女性の担当官の言われるがままに手順通り進める。


 へ~、血を取るのか。

 そして、手を入れる機械に腕から差し込む、血圧を測定する機械を思わせるなあ。

 

 血液は、腕を入れた機械のような物の上の方に塗る? 感じで……ああ、蓋を閉められちゃった。


 …………。

 

 腕から、振動というか目に見えない何かが体の中を伝わる感じがする……ちょっと気持ち悪いな。

 

 あっ! なんか心臓の辺りがモヤっとしたぞ、少し体の中心が暖かくなっていく。

 この辺りにコアというものがあるんだろうな。


 謎が多すぎて、分かりたくても分からないのが悔しい。

 じっとしてて暇なんで、何をやっているか無理やりこじつけてみようか……うーん、こんな感じか。


 血液を採る、その成分を本人特定用に使用。

 機械で、コアの情報? これも本人特定用。

 もしくはコアへアクセス的ななにかを行っており、その二つの情報をマージメタルに書き込む。

 その作業を、血圧測定もどきで行い、コアプレートが出来上がる……どうかな?

 

 まあ、もっとややこしい何かが行われているのは確実だね。

 熱も引いてきたみたいだし、もう終わるのかな?


 ………………。

 

「はい、終了です……少し長かったですね……? 気持ち悪くはないですか?」


 なんだろ?

 歯切れ悪いし、マジマジと見られているんだけど……。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。ところでコアプレートはどこに?」


「作成まで……少々時間がかかりますので、あとで受付にて順番にお渡しします」


 えー?

 時間がかかるのか。

 ということは、さっきの機械は、単純に記録装置だったのかもしれないな。


「はい、わかりました。お世話になりました」



 部屋を出て、父さんたちと合流する。


「ねえ、父さん。コアプレートってどのくらいでできるの?」


「そうだな、今日はそんなに多くないみたいだから、外で買い物でもしていたら出来るんじゃないか?」


 ふ~ん、なんと曖昧な。

 受付でも特にいつできるとか言わないし、あとで取りに来てくださ~い……だって。

 

「イロハ、ポルタ。ちょっと俺はここの領主に用事があるんだが、行ってきてもいいか?」


 あら? そういえば父さんの用事のついでに来たんだったな……確か、開拓進捗報告会だっけか。


「えっ! もう行っちゃうの?」


「待ち時間もありそうだし、用事を済ませてくるさ。あまり領都には長居したくないんだよ……」


 本当に嫌そうな顔をしている。

 団長、頑張ってきてください。


「うーん、じゃあポルタとこの辺で時間をつぶしておくよ。せっかく初めて領都に来たんだし。ポルタもそれでいいだろ?」


「お、おらは大丈夫だぞ」


 なんか、コイツ久々にしゃべったな……これまでの緊張はどこへ行った?


「父さんは、このネイブ領主館の中にいるから、何かあったら領主館の人にルーセントの息子ですって話せば俺に伝わるから。じゃ、ちょっと行ってくる」


 そう言って、父さんは足早に本館の方へ向かって行った。


「さて、僕たちも行こうか」


「う、うん」

 

 まもなく俺らは、領民登録所を後にした。



 あれから、二時間くらい経っただろうか、二人とも最初ははしゃいであっちこっち見て回ったけど、お金を持っていないことに気づいて途方に暮れていた。

 そんな時、ポルタが念のためにって銀貨を一枚持ってきていたみたいで、屋台のヤキトリ串みたいな物を二つ買って近くの広場で休憩中……。


「美味いな、この焼き串」


「うん、ヤマドリでもないし、何の肉なんだろう……おら、食べたことないよ」


「うーん、僕もわかんないや。かかっているタレが美味しいんじゃないか? 村ではだいたい塩味だしさ」


「……ト、トリファの家に、新しい香辛料が入荷したっておらのかーちゃんが言ってた、ぞ」


 ん? 顔が赤いぞ……なんだ?


「えっ? あ、ああ、ルブラインさんとこの店か~、もしかしてトリファのとこに通ってんのかぁ?」


「そ、そ、そんなことない……たまにお使いで行くだけ、だ」


 はは~ん、こりゃ……アレか、アレなんだな。


「なに? たまにお使いを口実に……なんだって?」


「な……な、なにを言っているのかな…………イ、イロハ」


 動揺しまくりじゃないかよ、ポルちゃん。

 耳までまっかっか。

 まあ、このくらいにしておこう……でもまさかな、ポルタがトリファって、ぷぷぷ。


「そんなことよりさ、そろそろプレートを取りに行こうぜ」


「そ、そんなことって……あ、ああそうだった、うん、戻ろう」


「今日はありがとよ、ポルタが銀貨持ってて助かった! 焼き串は美味かったし……そっちも上手くいくといいな」


「な……イロハー!」


 そんなやり取りをしながら、かけっこして領民登録所に到着。

 父さんはまだ来ていない、か。


 父さんから言われた通り、受付のお姉さんに伝えたところ、プレートの引き渡しは保護者同伴でとのことで、再び父さんを待つことに……。



 ポルタと並んで待合室のイスで大人しくしていたら、五分くらいで寝息が聞こえてきた……コイツ。

 プレートは貰えないし、お金ないし、父さんは帰ってこないし、まったくどいつもこいつも……あーもう、俺も寝るか。


 友達と肩を寄せ、意外な初恋? が聞けてほんわかしてしまった……がんばれポルタ、きっと敵は多いと思うぞ。


 色恋沙汰なんて……ええな~若いって。


 

 ◇◇


 

「おいっ!」


「…………」


「おい、起きろっ!」


 ……なんだろ、俺の肩をツンツンしている奴がいる。


「…………ん? 誰?」


「おまえが、イロハか?」


 何だコイツは……突然、中学生くらいのオレンジ髪スポーツ刈り少年が絡んできた。

 人が気持ちよく寝てんのに……。

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