十話 ネイブ領:一

 <ソラ歴一〇〇七年 一の月>

 

 ◇◆◇◆ 二年後 ◇◆◇◆


 俺は今、領都に向かう客車の中にいる。

 

 この世界の遠距離移動手段は、主に、今乗っている客車という乗り物となる。

 客車は、俺が知っている感覚で言うといわゆる馬車みたいなもので、馬ではなく恐竜のような見た目の動物が客室部分と荷台を引いて運んでくれるというシステムだ。

 当然、乗り心地は……最悪である。


 客車に乗るのが初めての俺は、期待を胸にゴサイ村にあるゴサイポートと呼ばれる客車の駅へ父さんと向かった。

 乗り合いもあるけど、今日は、三人なので借りることになった。

 まず、客車を選んで、引いてくれる動物を選び御者をつけてもらえるうようだ。

 

 『コリトー』……ネイブ片道三日

 『ベロキラ』……ネイブ片道二日

 『サウロ』……ネイブ片道一日半


 聞いたことのない動物の名前だし、途中で一泊する必要もあることが分かってしまった。

 俺は、一番早く到着できるサウロを父さんにおねだり。


 出てきたのは、言わばでっかいアルマジロのような感じかな、カバにも似てるかも、色も。

 とにかく、動物も決まったんで出発! と意気ってみたものの、物の数分で車酔いならぬサウロ車酔い……。

 道路なんてないし、もちろん舗装もされていない。

 あぜ道みたいな状態の道路? をガンガン走っていくサウロ君、運転荒いよ……危ないよ……これで一日半か。


 一応、休憩時間を調整すれば短縮もできるらしい、御者さんが「お任せください」って言っていた。


 途中で夜になるので、野宿かな? と思ったんだけど、元々ネイブ領の北部を少しずつ開拓していったので、開拓村を南下すればそこはネイブ領内だった。

 つまり、ゴサイ村より開けている町が続いているってことだね。


 車酔い……いや、サウロ車酔いがひどくて、晩飯は遠慮して、身体を拭いて寝ることにした。


 寝ようと思ったら……高ぶっているのか、なかなか眠れない。

 そういえば、スキルって結局何なんだろうか?


 五歳の時に若年教育を終えて、正式にスキルというものを知った。

 その後は、気兼ねなく父さんにいろいろなことを聞きまくったのだった。


 なんでも、父さんのコアの特性は槍に特化したもので、槍から炎が出るというすごいスキルを見せてもらった。

 王国騎士団にいた頃は、さぞ活躍したんだろうなぁ……父さんには悪いけど、槍はちょっとな~って思ってしまった。

 剣術の稽古を毎日やっていたのは、できれば使い勝手のいい剣術系の特性が俺に出てくれれば……という思いが込められていたらしい、ありがとう父さん。

 自分は槍特化だったんで苦労したんだと。

 

 母さんは水を扱うスキルのようで、水を出したり、水の中の不純物を取り除くというような事が出来ると言っていた。

 普段使いはあまりしていなくて、旅をしたりする場合重宝するって。

 でも、詳しくは聞かなかったけど、開拓団の開拓作業に母さんが手伝わなかったら数年遅れていたと、団員の方が言ってた……なんか凄そうなスキルの予感がしている。

 確か、メルキル初代国王も水関係じゃなかったかな?


 他にも、時間がある時は団員の方に聞いたりしていたけど、ほんとにみんながスキルを持っているようだった。


 ちょっとこの二年間、色々あったことを考えていたら、だんだんと眠くなってきたので、いい加減に寝ようかな。

 父さんは、まだ戻ってないけど、ポルタはすでに夢の世界へ旅立っているようだな。

 コイツはコイツで妙に大人しいというか、客車でも寝て……ほんとよく寝る奴。


 

 翌朝、早い時間から御者、父さん、俺、ポルタの四人の貸切客車で向かっている。

 

 母さんは弟がまだ小さいのでお留守番。

 そうそう、俺が若年教育を受けた年の十二の月に弟リアムが生まれたんだったな。

 俺が一の月生まれなので、ほぼ六年違いの五歳差というややこしい年齢差となっている。

 髪の色は、母さんを受け継いだのか青っぽい感じだ……まだ小さいので毛がほやほやしててよく分からん。


 ちなみにこの世界は、年度という概念はなくて普通に一の月で年が切りかわるし、学校も一の月からの入学だ。

 そういや、なんで日本は四月からなんだろう……春だから?

 以前、同じクラスの留学生が言ってたなぁ、地元の学校は九月からだって。

 国によって違う感じだったのかもしれん。


 こちらの世界において、俺の知っている元の世界の常識と異なることがある。

 

 元の世界では妊娠後約四十週間、まあだいたい二百八十日で産まれるという認識だった。

 十月十日とはよく言うが、四週間で一か月のカウントとして計算するので、実際は九か月とちょっとくらいになるから誤認している人もいるんじゃないかな? ……俺も、妊活してから知ったし。

 

 弟が誕生して知ったんだけど、こちらの世界では一週間が六日として約五十五週間……およそ三百三十日となっているようだ。

 なんでも、日本で言う『十月十日とつきとおか』が『三百三十日さんのさん(産の算)』と言うらしい。

 微妙に、日でいうところの五十日ほどこちらの世界が長くお腹の中だということだが……人間ではなくヒュームだからなのだろうか。

 まぁ気にしても仕方がないことだけどね。


 ポルタのところは、トッカーさんが例によって山籠もり中なので、うちの父さんにお任せってことでついでにコアプレートの旅へ同行している。

 トッカーさん、狩猟成果のおこぼれに期待しとります。


「イロハ、ポルタ、そろそろ領都が見えてくるぞ」


 ぼーっと思考に耽っていたら、父さんに呼び戻された。


「ほんとだ、見えてきた」


 ポルタと二人で、ワクワクしながら外を見ていた。


 ふぅ、いよいよだ……やっと自分のスキルがわかる日が来た。

 かれこれ二年もねだり続けて、最近は父さんもあきらめモードだったもんな。

 そんな時にちょうどネイブ領主様より、開拓進捗報告会の打診があったので、急遽便乗してコアプレート作成の旅となった。


 では、コアプレートはどこで作るのか? これは、領の役所みたいなところで、領都中央の『ネイブ領主館』の『領民登録所』で行うことになっている。

 ちなみに有料で、一人当たり一万ソラスかかるらしい。

 税金では賄わないのかと思っていたけど、確かに他領の者も利用する以上、有料は納得。

 

 素材は、えっと……『マージメタル』だったかな? 強度がある希少価値の高い金属みたい。


 おっと、もう領主館に到着だ。

 えーっと、領民登録所は……っと、向かって左の方だな。

 中央には奥へ続く廊下が続いているようで、多分そこが本館なんだろう。

 


「父さん、ここで僕たちはコアプレートを作るの?」


「そうだぞ、さあ中に入ろうか」


 そう言って、俺とポルタの背中を押してくる、なんか急いでんのかな?


「お、おら緊張してきたよ、イロハはなんで緊張してないんだ?」


 眉を八の字にして、ポルタが話しかけてきた。


「緊張はしてるさ、これでも待ちに待ったんだからね」


「そ、そんな風には見えないな……いいスキルが出ないとどうしようってことばかりで頭いっぱいだ」


 なるほど、さすが小心者のポルタ君だ。

 ここまで来たらなるようにしかならないってのに、全く往生際が悪い。


「なあポルタ。ここまで来て、帰るってわけにもいかないし、一年後に来たら結果が変わるわけでもないだろ?」


「そ、そうだね。うん、少し落ち着いた」


 


「二人ともいいかな? それじゃあ、行こうか」


 父さんが、俺らの掛け合いを静観してくれてたみたいだな。


「お、おらが先に行くよ……待つ方が辛いんだ」


「おいおい、辛い方押し付けんなよなー! まあ、別にいいけどさ、行ってらっしゃい」


 

 

 『領民登録所』に着くと正面に受付のようなところがあって、順番に別室へ進んでいく。

 受け付けはすでに父さんが済ましてくれた。

 どうやら三人待ちのようだ。

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