不死 7

 どこから風が吹いているのか分からないが、流れるような金の巻き髪を優雅になびかせて、扉を開け放つポーズを決めたままキリッとこちらを見やる女。

 3人は突然の訪問者を三者三様の表情で見つめるが、示し合わせたかのように同時に視線を切り会話を再開させた。


「魂の……何だっけ?」


 佐久間は足を組み直し、馨の方へ顔を向ける。馨のはるか後方に金髪女の立ち姿が見えたので、目だけをアヤに向け口を開く。


「魂とは何に宿るのか。ひいては、魂とはどこから生まれて、何処へ行くのか……」


 佐久間の問いを受けてアヤが答える。


「悪魔が魂について分からないとはね……君たちの主食だろうに」


 馨はこう言った会話が面倒なたちで先ほどから辟易としていた。佐久間とアヤが向き合い会話を始めたため、これ幸いと茶菓子をつまみ紅茶を口にする。

 馨の思考は、もう今晩の夕食の献立に移行していた。


「食べているわけではないからなあ……よく分からんモノをガソリンとして活用している、というのが正直なところだ。大妖怪、お前は魂の詳細が分かるのか? であれば是非とも教えてもらいたい」


( 「ちょっと……」 )


「ふん……悪魔よ、君は何か勘違いをしているね。ワシが賢そうなのは、この話し方のせいだよ。実際は大して賢くないんだ。ワシが知るわけがない」


( 「ねえ……」 )


「ああ、そうだった大妖怪。お前は大して賢くないのだったな。お前の話し方はいつも俺を惑わせる。だが、何故かな? 俺は思うのだ、お前が敢えて知性を放棄しているのではないかとね」


( 「ねえったら!」 )


「買い被りすぎさ。ワシなどより、よほど馨の方が賢い子だよ……多分」


「おい、そこは自信もって言えよ」


「ちょっと! いい加減にしなさい! わたくしを無視するんじゃなくてよ!!」


 会話の合間、合間に入ってくる女の声に気づいていなかったわけではない。3人は無視を決め込んでいたのだが、テーブルの上に乗って叫ばれては仕方がなかった。

 三者三様の非常に面倒くさそうな顔が女を見る。

 注目を集めた女は満足そうにし、そして佐久間を指さす。


「貴方たち、騙されてはいけませんわ、この男は悪魔でしてよ!」


 テーブルの上に立つ女のワンピースは丈が短く、馨は目のやり場に困る。アヤは普通に覗き込んでいた。


「あー……佐久間、知り合い?」


 女の足の間から顔を覗かせた佐久間は気怠そうに、そして諦めたように答える。


「マデリーン・グレゴリー、鉄の魔女の異名を持つフリーの退魔師だ……何故かは分らんがな、執拗に俺を狙っている」


 佐久間と馨を交互に見るマデリーンは、途端に何かに気づいたような顔をした。


「まさか……この男は悪魔の手下? ハッ! わたくしはいつの間にか敵の術中にハマっていたとでもいうの? あら、あなたいい男ですわね」


 馨は、とりあえず見えそうなのでテーブルから降りて欲しいと思いながら、「どうも」と頭を下げる。


「見ての通りの馬鹿だ。だが腕は良い」


 佐久間に視線を戻すマデリーンは表情を引き締め、戦いの構えを取る。


「お馬鹿さんは貴方でしてよ、悪魔。私を異界に引き込んで、どうにかしようと思ったのでしょうが、そうは行きませんことよ!」


 ああ、この人は馬鹿なんだなと馨は確信する。

 佐久間は深く座り、足を組んだままマデリーンを手で制す。


「マデリーン、一つ確認なんだがな……」


「何ですの?」


「ここのルールを知っているか?」


「悪魔の決めたルールなど知らなくてよ」


 食い気味のマデリーンを相手にし、佐久間にしては珍しく非常に面倒そうな顔になる。

 疲れたように息を吐き、いつもの陰気さよりは少し声を上げ、佐久間は言った。


「違う、違うぞ、マデリーン。悪魔のルールでは……」


「問答無用ですわ!『T・B・O・E』74頁<緊縛の鎖>!!」


 佐久間を遮り、マデリーンは何らかの術を使用した。彼女の手に「本」が現れ、ページが開かれる。そして彼女の足元に魔法陣が輝きを放ちながら出現した。

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