(承) 二年次 冬
私たちが五人で行動するようになったのは、二年次になってからだ。私を含めた日本史専攻組の三人と、
決定的に仲良くなったのは、二年次の冬、二人で初詣に行ったのがきっかけだったと思う。
年末が差し迫る十二月。それぞれ県外から通学、あるいは親元を離れて下宿している私たちの話題は、地元についてだった。
「柑奈の地元、栃木なの?」
「そうだよ~。日光東照宮とか足利学校がある栃木」
「栃木のどこ?」
「
口々に尋ね、答える。いつもの光景だ。
「初詣来る? 佐野厄除け大師あるよ」
「冬休みは家族で旅行に行くんだよね」
「うちも沖縄のおばあちゃんの家行くから予定合わなそう」
「お土産期待してるわ。アタシはバイト入れまくったからパース」
旅行、帰省、バイト。みんな予定はそれぞれだ。私も帰省はするが、実家はそこまで遠くないし長居する必要もない。それに何より、今までの人生であまり縁のなかった栃木県を観光してみたかった。歴史ある寺社仏閣は大好きだ。
「私は予定空いてるよ。行ってもいい?」
「大歓迎~!」
嬉しそうな柑奈とともに、初詣の計画はとんとん拍子に決まっていった。
私の下宿先から鉄道を三回乗り換えて二時間と少し。ちょっとした旅行気分でやってきた柑奈の地元は、私鉄が走る平坦な市街地だった。丘陵と海に囲まれて育った私にとって、それが少しだけ新鮮に写る。
駅を出ると冷たい風が吹きすさび、思わず目をぎゅっと閉じてしまう。マフラーに顔をうずめたまま柑奈の姿を探すと、
厄除け大師までの道のりを二人並んで歩く。鉄道よりも車での来訪が多いのか、お寺が近づくにつれて人通りも増えてきた。三が日を避けて来たものの、関東の三大師だけあってやはり混雑している。
行列に並び参詣を済ませ、ゆるりと境内を見学した。やはりどこも初詣客でひしめいている。
「おみくじも混んでるね」
「じゃあ出店のほう行ってみようよ。食べもの以外にも色々あるよ」
柑奈の提案で出店が立ち並ぶ場所に足を運ぶと、ダルマを売っている店を見つけた。
大きさも色も様々なダルマが所狭しと積まれている。手のひらサイズの小さなものは特にカラフルだ。赤、青、黄、緑、橙、紫、金、銀、黒、白。色ごとに意味もあるようだ。家内安全、商売繁盛、恋愛成就、健康長寿、そのほか諸々。
「白色が合格祈願だって。教員採用試験の合格祈願で買っとく?」
柑奈が白いダルマを手のひらに乗せて言う。
「それもいいけど、私は青色にしようかな。まずは学業成就が大事だし」
「蒼ちゃん、教員免許だけじゃなく司書教諭の資格も取るもんね」
「うん。それに、青色には仕事運アップもついてる。教員採用試験に合格することがゴールじゃなくて、立派な教師になることが目標だから」
「その考え方いいな~。じゃあ、わたしは黄色にしよう! 黄色は夢の実現、それと金運・幸運アップだって」
こうして私たちは色違いの小さなダルマを買った。そういえば子どものころは友だちとお揃いや色違いのキーホルダーなんかを買っていたなと思い出す。二十歳になっても嬉しいものは嬉しくて、マフラーの影で頬が緩む。
それに手の中に納まる小さくも凛々しい顔のダルマは、私たちが切磋琢磨している証のような気がして。いつか四つの目すべてが黒く染まることを夢見て、心の支えにすれば困難な道も頑張れるような気がした。
参拝と買い物を済ませたあとは、穴場だというラーメン屋で遅めの昼食にした。佐野に来たのだから佐野ラーメンを食べるべし、という柑奈の背を追って
透きとおった綺麗な醤油スープに、青竹で打ったという柔らかなちぢれ麺。あっさりとした曇りのない味が、心と体にじんわりと
舌鼓を打ちながら私は、ふと地元のことを思い出す。
「うちの地元にもご当地ラーメンあるんだ。
カウンター席に並んで座っていた柑奈は、もぐもぐと口を動かしながらこちらに視線を向けた。
「海女さんや漁師さんが仕事のあとに体を温めるために食べてたのが名物になったんだって。スープが真っ赤になるくらいラー油がたっぷり入ってるよ」
咀嚼していたものをごくりと飲みこんだ柑奈が嬉しそうに口を開いた。
「からそ~。でも食べてみたい! 海にも行きたいな」
「栃木には海ないもんね。こっちに来たら案内するよ」
お箸を持っていないほうの手で小さくガッツポーズする柑奈を見て、私の口角も上がる。
学校でも、学校の外でも、柑奈とともに過ごす日々は本当に楽しかった。
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