変身

 ぴぃひょろろら ぴぃひょろら

 かっかっひょろら しゃんしゃらん


少し遠くの方から聞き覚えのある音が聞こえた。

……そうだ。さっきまでいた祭りの音。

「……気づかない内に寝てしまっていたのかな。」

そんなことを思いながら、重い瞼を開ける。


 どんっどどんっ


「わっ!!!!」


目を開くと、僕のすぐ右に何か大きなものが落ちてきた。僕はとっさに左に避ける。

すると今度は上から何かが落ちてきた。前に避けようと、とりあえず体を動かして見ると、何故か僕の視界は前ではなく上へと上がっていく。


「なっ、なんだ!!?」


目まぐるしく変わる目の前の風景に酔いそうになりながらも、段々と目が慣れてきて、そこで僕は初めて気づく。


「ぼ……僕、飛んでる?」


視界の下は屋台の間に吊り下げられた提灯と、その下を歩く人だかりで一杯だった。

さっき地面にいた時、上から落ちてきた大きな何かは人の足だったのか。


……ん?何で僕は人の足に踏まれそうになっていたんだ?


そんな時、水溜まりに移った僕が見えた。

真っ白な腹に、それと対照的な黒色の翼。それに顔の前側は赤い色。

身体の形はさっき飴売りに貰った飴細工にそっくり。


「つ、ツバメになってる!?!!」




 さっき見た自分は紛れもなくツバメの姿だった。冷静に身体を見てみると、濃藍の羽と黒の嘴も、しっかり自分の目で確認できる。

やっぱり僕はツバメになってしまったのか。


「でも、なんでツバメになったんだ?」


寝る直前、僕は何をしていたんだっけ。

記憶を手繰り寄せて思い出す。

その時、自分の口の中にほんのり甘い味が残っているのに気づいた。

そうだ。僕は飴売りにもらったツバメの飴細工をなめてて──


 ……ツバメ?


『あっそうそう。今見せたわざは少し面妖でね。"飴が現すはまことの自分"…その飴細工は君にとって重要なものだから、大事にするんだよ。』


確か飴売りが最後に、こんなことを言っていた。僕は今ツバメになっていて、僕がなめていた飴細工はツバメの形。


「十中八九、あの飴細工が原因みたいだな…。」


不可思議な力によってこんなことになっているのには変わりないが、とりあえず原因が分かって僕は「ほっ」と息をつく。


「まぁ、悩んでてもなっちゃったもんは仕方ないし、今はこの姿をめいっぱい楽しもう。」


前から鳥の翼には憧れていた。自由に素早く空を駆け回る翼。前までは、空高くに映る鳥を地面から眺めることしかできなかったけど、今は僕自身が、この翼で、自由に飛べるんだ。


「……よし。いっっけぇぇぇえ!!!!」


 うずうずしてる体に従って、一気に空高く飛び上がる。飛ぶのが少し怖くて瞑っていた目をゆっくりと開けると、そこには綺麗な、本当にきれいな景色がいっぱいに広がっていた。

 頭上に広がる鮮やかな星の雲は辺りを微かに照らし、道いっぱいに並んだ提灯が視界の下に妖しげで朧気な赤い光を広げている。祭りの音楽も人の喧騒も、ほとんど聞こえないほどに遠く高いところまで来ていた。


「わぁ……綺麗だ。」


 そんな景色に見とれていたのも束の間、下から何かが勢いをつけてこちらに上ってくるのが見えた。それは「ひゅ~~~」という音を立てながらどんどんこっちに向かってきている。

 何だ?と凝視していると、何かは僕の目の前に来たと同時に大きな音と光と共に破裂した。

「眩しい!!!あっつ!!!」


目の前で響く大きな破裂音と、光、そして火傷したような熱さに、僕は自分が空高くから落ちていくのを感じながら、また目の前が真っ暗になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る