閒岸祭

浅葱

飴細工

 ぴぃひょろろら ぴぃひょろら


過ぎ行く人の賑やかな声と妖しくも心踊らせるような笛の音が聞こえる。

目を開けると、色鮮やかに仄めいた夜空に、沢山の真っ赤な提灯が煌めいていた。


「………夏祭りに来てたんだっけ、、」


夜にも関わらず気が滅入るように暑いせいか、頭の中がぼんやりしている。

何故か不思議と、心地良い。


 ぐぅぎゅるる


屋台の匂いに誘われて、僕の腹の虫が鳴いた。そういえば、ここに来てから何も食べてないことに気づく。


「お腹空いてるし、何か食べたいな……甘いもの。」


すると、前から僕と同じくらいの年の子達のはしゃぎ声と共になにやら独特の音色を奏でる笛の音が聞こえた。


 ぴゅうしゃらるら ぴゅうしゃるら


やって来たのは飴売りだった。

飴売りの着ていた瑠璃色の亀甲模様の浴衣が珍しかったので、つい立ち止まって見入ってしまっていたら、気づいたら飴売りは僕の前に止まっていた。


「おや少年、この飴細工が気になるのかな?」


飴売りの男が両の手に持った、動物を象った飴たちを目いっぱいに広げて言った。


立ち止まってしまったのは浴衣に目を奪われたからだったが、甘いものが食べたかったのも事実なので、僕はこくりと頷いた。


「よしっ。それなら、とびきりのわざを見せようか。」


そう言うと、飴売りは葦の茎を口に咥え、「ふっ」と一吹き。すると、ぱちぱきと音を立てながら瞬きの間に1匹のツバメが出来上がった。


まるで魔法のような光景に、僕は思わず「わぁ」と声を漏らして、きらきらと輝く飴細工を見つめていた。


「さぁ、君にはこのツバメをプレゼント!」

「……ありがとう…!」

「喜んで貰えて良かったよ。」


そう言うと、飴売りは広げた道具をささっと片して、移動の準備をし始めた。そして去り際に思い出したように、

「あっそうそう。今見せたわざは少し面妖でね。"飴が現すはまことの自分"…その飴細工は君にとって重要なものだから、大事にするんだよ。」


そんなようなことを言って、飴売りは笛の音と共に人混みの中に消えていった。


 渡された飴細工を近くでまじまじと見つめる。飴に含まれた気泡の部分がまだゆらめいていて、今にも動き出しそうなほどだった。

お腹も空いてることだし早速食べてしまおうと、飴を一舐めした瞬間、陽炎が更に濃く歪んだかのように視界が回り、果てには目の前が真っ暗になった。

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