第28話 ご近所大冒険の勇者、母に心配される

「よ、よーし、これでいいよね」


 自室の鏡に映る自分の姿を確認して、私・八重垣やえがき紫遠しえんは頷いた。


 全身を一先ずボディシートでしっかりと拭いて汗を拭い去った。

 シャワーすべきかもと思ったけど、お風呂は昨日ちゃんと入ったし、シャワーしてると時間がかかりそうだし、うん(言い訳)。


 その後、トレーニングウェアを着込み、その上にパーカーを着て、頭にフードを被る。

 その中身ではキャップを被った上にマスクを装備しております。

 ふふふ、これで気持ち悪い表情を見せずに済みますとも。


 財布と携帯端末だけポケットに入れて準備万端。

 さあ、大冒険の旅に出る時が来た――って、家五軒くらいの距離なんですけどね。

 いや、私的には大冒険なんですよ、マジで。


 目的は配信用の飲料水のゲット。

 あと、お菓子も少し買っておこう。


「うーん、今度から水はネットでまとめて注文をしようかな……でもなぁ」


 VTuberのことはさておき。

 私自身、外出恐怖症こののままじゃいけないのはわかってはおります。

 だからあえてコンビニを利用する余地を作って、時々外出のリハビリしていたり。

 でも、それはそれとして効率やまとめ買いのお得さを考えるとネット注文も捨てがたい……うぐぐ。


「そ、その辺りは後で考えよ。さ、さあ出発だぁ⤵」


 自分に気合を入れる為に、あえて声に出していく私。

 そうしておっかなびっくりで自室を出て、玄関に向かう。


「あの、母様。ちょっとコンビニに行ってくるね」


 その途中、リビングで掃除していた母様に声を掛ける。

 すると母様は手にしていた掃除機を半ば放り出して、私に全速力で駆けてきた――早い早い早い。


「そうなの!? 大丈夫、紫遠ちゃん!? 私が行きましょうか!?」


 私を心配してくれている母様は私の手を取ってウルウルと目に涙を滲ませて見上げてくる。

 ううっ、色々な意味で心が痛くなってくるぅぅぅ……あと、ちょっと誘惑に心が揺れました。

 

 でも掃除邪魔したくないし、あと甘え過ぎちゃいけないよね、うん。


「だ、大丈夫。うん。ちゃんと外に出られる練習しないとだから」

「し、紫遠ちゃん……!! が、がんばってね!!

 お母さんはいつでも紫遠ちゃんの味方だし、応援してるから!

 困った事があったら言ってね!」


 その気持ち、滅茶苦茶に嬉しいです……まあ、その分、引き篭もってる現状が心苦しいんですががががが。

 

 うーむ、これは頑張って少しでも早くVTuber活動で利益を出せるようにならないとなぁ。


 利益云々考えるのは少し悲しくなるというか、お金に囚われそうでどうかと思う部分もある。

 だけど、忘れちゃいけない。

 私は今の私に出来るコトの模索の結果、VTuberを選んだんだから。

 うう、それでも内心は色々と複雑なんですけどね。


 あ、ただ、これはあくまで現実逃避気味な後ろめたい私特有の事情や心情なので。


 素敵な活動への正しい報酬を得ているVTuberさん達には、私はむしろすごすぎる、と敬意を抱いております。

 今、私自身は全然駄目駄目なんで尚更にマジで尊敬してます、ええ。


 そんなあれこれを考えつつ、母様に見送られて、私はようやく外に出た……うう、気持ち悪い。


 空は青空、ほどよくあたたかな日光、風は爽やか――数年前の私なら良い気持ちになれていただろうなぁ。

 でも、今の私は散らかった、空気が若干淀んでる(時々換気はしてます)自室の方が落ち着くんだよね……。 


 今は少し吸血鬼の気持ちが分かる私でございます……うう、冷や汗出て来た。

 折角汗拭いたのになぁ。


 気のせいか周囲の視線が私に注目しているような……いやいやいや、錯覚錯覚。

 理性的に考えれば、わざわざ私に注目するような人間なんかいないのが当たり前。


「大丈夫大丈夫大丈夫、私は普通普通普通普通……うふ、うふふふ」


 言い聞かせてたらさらに視線が増した気がするけど気のせい気のせい。頑張ってそう信じよう。


 そうして私は気持ち悪さを抱えながら、電信柱に隠れたりしつつコンビニへと向かったのでした。

 ……ちなみに、この日の夜『近所で不審者が出没したらしい』と、ご近所の皆様と気さくに話せる妹・藤花とうかから聞きました。


 わ、私のことじゃないといいなぁ……。

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