第27話 彼ら、マスカレード

 私・八重垣やえがき紫遠しえんがとんでも状況になる前。


「うふふふ……やっぱり、嬉しいなぁ……うふふふふ」


 私は、VTuber『クロス・ユカリ』として今日の夜に行う配信の告知をSNS・エックスターで行って、にやついておりました。

 誰かが見て、何かしら反応を返してくれやすいと思われるお昼に投稿したんだけど、それにちゃんと反応が来たのが嬉しいのです。


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『暇だったら見に行く。』


『悪いが今日は仕事だ。あとでアーカイブを見る。』


『切り抜きしやすい見栄えのある配信を頼むよw』


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 直接のコメントは3つで、拡散は8回ほど。

 人気のVTuberと数で比較したのなら、比べ物にならないくらい少ないのは事実。

 だけど、そうしてリアクションを返してくれる人がいるのは、私的に数云々は関係なくただただありがたいのです、ええ。


「うひっ、うふふうふうへへへ……」


 思わず笑いを口から零しながら私は返事を入力していく。

 今はマスカレードさん達が少ないから返せているけど、応援してくれる人が増えて、そう出来なくなる時が来るんだろうか?


 うーむ、正直数が増えるのを全然想像出来ないですね、ええ。

 いや、活動の結果として増えていくべきなんで、想像出来ないのは駄目な気がしますががががが。 


 あ、ちなみに『マスカレード』というのは私のリスナーさん達の総称です。

 前回配信で候補として考えていたのを挙げたらすんなり通りました。

 てっきりみんなもっと弄って来ると思ってたので意外です、ええ。


 マスカレード。

 仮面舞踏会とか見せかけとか、仮装するとか、そういう意味の単語。

 

 私の配信は『皆が仮面を被る事に、躊躇いを感じずに済む場所』となるよう目指しております。

 仮面を被る事で色々なしがらみを忘れて楽しく過ごせる、みたいな感じです。


 その為の場所であり催しであり、意識。

 そういう意味合いにふさわしいって事でマスカレードにしたわけです。


 私は少し緊張しつつ、そんな『マスカレード』さん達にメッセージを送信、っと。


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☆ユカリ


『ええ、暇な時で全然OKです。

 皆さんの生活が最優先ですから。

 でも、その、よかったらお願いします』


『お仕事お疲れ様です。

 アーカイブを見て癒しになるよう頑張って配信しますね』


『今日はアクションRPGですから、多少はなんとかなるかも……努力します』


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☆マスカレード


『ユカリん、エックスターじゃドモらないなw』


『ユカリんは意識し過ぎない方がおもろいからほどほどに頼む』


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 すると、数分後にいいねや重ねての返信が返ってきた。

 うーん、リアルの私八重垣紫遠ではこういうやりとり殆どないんで、ドキドキしますね、ええ。

 どう返せばいいか思考を巡らせてから、いいねと返信文章を入力、っと。


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☆ユカリ


『う、うーん、流石に文章まで常に動揺するのは違うんじゃないかと……』


『そ、そうですか……が、頑張ります』


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☆マスカレード


『今まさにドモってるwww』


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☆ユカリ


『あ、はい。私の心情をそのまま打ったらそうなったいました汗』


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☆マスカレード


『さらに誤字っとるwまあまあ落ち着いてw』


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「えっと、流石にこれ以上返すのは向こうの迷惑になるかな……

 ぐぐ、もうちょい反論したかった」


 そう考えて、私は最後にいいねだけを返して、やりとりを一区切りした。

 こういうやり取りってどこまで続けていいか悩むなぁ……。

  

 今後経験を重ねながら、こういう所も改善してかないとね。

 ……経験を重ねるほどマスカレードが増えない可能性は――うん、今は現実逃避で。


 さて、次は夜の配信に向けて準備しないと。

 ゲームの動作確認やらも大事だけど、他にはえっと――。


「……あっ!?」


 そこで私は思い出した。

 配信の際の水分補給、そのためのペットボトルの水を切らしていたことを。


 普通に水道水をコップで注げばいい――多分、多くの人はそう思うだろう。

 だけど、私の場合はそうもいかないというか。


 一度コップで準備してたんだけど、前々回の特撮雑談でヒートアップして手を振り回してたら、コップに手が当たって水を零しちゃったんですよ、ええ。

 幸いにも機材へのダメージは無かったんだけど、次もそうなるとは限らない訳で。


 なので配信用のお水は、ペットボトルでその都度蓋を開けて飲むようにしたのです……うう、なんとも恥ずかしい。


 で、問題はそのお水が手元にはもうないということ。

 家族の誰かに頼んで買ってきてもらう……?

 いや、その、現状の私はまだ無職に近しい存在というか、今の所収入の気配がないので、頼むのがめちゃ心苦しいのです。


「う、うぐぐぐぐぐ……し、仕方ない、コンビニに行こう……」


 外は相変わらず怖いので、出来れば外出は避けたかったが止むを得ないよね、うん。

 

 そうして私は超近くにある近所のコンビニへ大冒険に旅立つ決意を固めたのであった。

 ……そこで何が待ち受けているのか、知る由もなく。

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