第24話 愛と恩讐(ゲームの話です)の果てに

「このギミック、何度やっても苦手なんですやっぱりぃぃぃ!?(天高く空を舞うキャラ)」


「み、皆さんゴール前で待っててくれた……って先にゴールするんですね、ええ。

 いや、その、いいんですよ、見せつけるようにゴールされても。

 これはレース、勝者と敗者は生まれるものですから――グズッズビッ(鼻を啜る音。

 ううっ、そのプークスクスってジェスチャー、よくできてますよね……」


「や、やっとジャンプのタイミングを掴めて来ましたよ、ええ。

 見ててください、私だって……ほらっ! って隙を生じぬ二段構えぇぇっ!?

 (物陰に隠れていた妨害ギミックで転がされ落下)」


 私・八重垣やえがき紫遠しえんこと、

 今現在配信中のVTuber『クロス・ユカリ』は現在配信中。

 初めての視聴者参加型ゲーム配信に大苦戦しております。


 概ねは苦手なゲームそのものなんですけど、一緒に参加してる視聴者様方がフリーダム過ぎて。

 あ、というかこれまで余裕がなくて決められなかったけどファンネーム考えないと。

 いや、まあ、まだ登録者ゼロだし、と思ってた面もありますがががが。


 ともかく視聴者の皆様も結構はっちゃけてるからなぁ。

 視聴者同士でバトルしたり(止めようとして近付いたら吹っ飛ばされました)。

 変なコンビネーションジェスチャーでわたしをからかうし。

 あ、でも時々、あの阿久夜さんって同業者(仮)や一部のヒトは私を助けてくれましたね、ええ。

 うう、思わず涙ぐんでた所も何度かありましたよ、ええ。


 現在最終第7ステージなので、そんな濃厚な時間もあと少しで終了です。

 正直辿り着けるか超不安でした。

 いや、うん、ホントずっとプレイし続ける事になるんじゃないかって思ったなぁ、割と本気で。


 でも、最後まで気は抜けない。

 というか最後の難関が私を待ち受けているのですよ。


 なんせ最終ステージゴール前は、空中をスライドする足場の5連続。


 慣れてきたとはいえ普通のジャンプでも割と落ちる私にはまさに難所。

 練習でもここをクリアできたのは恥ずかしながら1回だけです。


 しかもラストステージだけは時間制限がある仕様なんですよね。

 練習で難所をクリアしてあと少しでゴールって所でタイムオーバーになったんで結局クリアできてないんですよ、私。

 残された時間は僅か、どうやって乗り越えるか……そう思いながら難所直前の妨害ギミックが入り乱れる坂道を上り終えた時だった。


「ええっ!?」


 そこに広がる光景に私は思わず驚きの声を上げていた。

 移動する足場それぞれに、視聴者の皆様が操作するキャラがそれぞれ乗っているんですが。


「えっと……こ、これは一体? え?」


 足場の前で待っていた視聴者さんの操作キャラがなにやらジェスチャーで自分を指す。

 

「そ、それって……わわわわわっ!?」


 直後そのキャラが私のキャラを持ち上げて――放り投げた。


「えええ!? って……ああ――!」


 放り投げられた私は、足場で待つキャラに受け止められ、更に次の足場のキャラへと放り投げられる。

 こ、これは、よもや不慣れな私を見かねて、皆様による協力プレイでゴールまで運ぼうと!?


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おおー!

これは良いプレイ

たまたま見に来たけど、いいじゃん


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 視聴者の皆様の言葉に、投げられながら私も心から同意でございます。

 うう、今日はこれまでロクな目に遭わなかったけど、こんなにも嬉しい展開が待ち受けてるなんて……!


 そうして投げられていき、最後は今日多分一番私にちょっかいを掛けてきた灰色のキャラが。

 こ、これはもしやこの方が見事私をゴールに投げ入れて感動の和解&結末が……!


「って、そうじゃないかと思ってましたよぉぉぉぉ!?

 に”ゃあ”ぁぁぁぁっ!?」


 と一瞬は思いましたが、そう甘くない事はすぐに思い知らされました。

 私を受け止めた灰色のキャラは方向転換、私を明後日の方向に投擲――当然私は虚空へと落下。


 そして、それと同時にタイムオーバー……


「ヴァァァァァァ!? み、皆さんごめんなさいいぃっ!!」


 ううっ、あと少し、あと少しだったのにぃぃ!

 いや、他の人の力借りてクリアとかどうなんて言われればそうなんですけどぉ!

 それでも、こう、クリアしたかったんですよ……折角はじめて皆様と遊べた配信ですし――うふ、うふふふ……泣いていいですか?


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wwwwwww

ちゃ、ちゃうねん……コイツ、土下座ジェスチャーして任せてって……

やっぱり任せない方が良かったかなぁ(棒

一部のヒト分かってて任せましたわよね……

配信的な面白さ的にはあり

これは酷いw


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 と、こうして私の『ライジング☆アワーズ』初クリアは夢と散ったのでした……うぐぐ、いずれリベンジしますとも、ええ。




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『えーと、はい。正直とても協力してもらった皆様に申し訳なく、悔しいのですが。悔しいのですが。悔しいのですが。

 じ、時間的にもう2時間程経ってしまっておりますし、今配信は終了させていただこうと思います。

 うううう、いやもう、ホント情けない限りです――すみません、ホントすみません』


 ゲーム画面を閉じ、通常の配信画面に戻したユカリの表情は落ち込み絶望顔となっていた。

 『彼』――前回のユカリの配信を荒らし、今回も灰色のキャラクターを操作して彼女を妨害しまくった人物は、ざまぁ見ろ、とほくそ笑んでいた。


 上から目線で謝罪した罰はこんなものでいいだろう。

 後は、最後の報いを受けさせるまでだ。


 『彼』はユカリがこのゲームを通じて自分と――荒らした人物と和解した、と勝手に決めつけて演出しようと目論んでいると推測していた。

 だから、ユカリが自分に――前回配信を荒らした人物について触れる瞬間を今か今かと待ち侘びていた。 


(早く言えよ――『実は前回配信を荒らした人物も呼んでいて、一緒に愉しく遊んだ』ってさぁ……!)


 そうしたなら、配信後遠慮なくユカリの欺瞞と偽善で再び炎上させる事が出来る。

 自分は徹頭徹尾配信の妨害をしてたのに、それを利用しようとしていたんだと嘲笑出来る。


 そうして『彼』は待ち侘びていたのだが。


『うう、グズッズビッ――絶対いつかリベンジしますよ、ええ……。

 で、でも、今日皆さんが一緒に遊んでくれた事はとても、すごく、嬉しかったですし楽しかったです。

 視聴者の皆様も楽しんでくれてたら何よりです、はい。

 えと、その、コメントもありがとうございましたっ』


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ユカリんならもっと上手くなれるさ(後方理解者面

次は絶対手伝いませんからね

リベンジ楽しみにしてる

俺も参加してたけど楽しかったw

配信としては及第点

↑お前は何様なんだw


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『じゃあ、今回はこれにて。

 えとその、私はこうして不手際ばかりですけど、その頑張って精進していきますので。

 皆様に楽しんでいただけるよう、頑張りますので。

 も、ももも、もしよろしかったら、チャンネル登録、高評価を――お、お願いいたします。

 ではその、前回決めた終了のご挨拶で締めますね。

 ま、まま、マスクド、アウト!』 


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……

ごめん、そっちはまだ慣れてないw

次は言うから(言わないフラグ

みんな梯子外すの好きで草

――ますくどあうと

↑なんだ優しいなお前www

ユカリちゃん、お疲れ様でした。すごく頑張ってて素敵でしたよ。


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『え!?ちょ!!最後!?光莉ちゃんっ!!?

 どどどどど、ど、どういうことです!?!?

 こ、こっこ、これ配信終わっていいんですか!?

 このまま締めたら失礼になっちゃうんじゃ……光莉ちゃん!光莉ちゃんっ!?』


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おおー!?

これは驚き

というか、うるせぇw

興奮するのはめちゃ分かるがww

はよ終われw

次にしろ次にww


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 チャット欄でのまさかの人物の登場に沸きながらもツッコミを受け、ユカリは配信を終了させた。

 終わらせていいかを最後の最後まで悩んでいたが、それは名残惜しさからであって、言い忘れた事があったからではない。


 

 

 

(――は?)


 次の動画に自動ジャンプする画面を気にも留めず『彼』は呆気に取られていた。


 ワケが、ワケが分からない。

 ユカリはただ、自分を配信に呼んだだけ? 本当にただ、遊ぶために呼んだだけ?

 何の企みもしてなかったというのか?

 

 そうして呆然とする中、ログインしていたSNSの一つ、エックスターの通知音が鳴り響く。

 困惑する『彼』の元には1通のダイレクトメールが届いていた。 


「……なっ!?」


 その送信者名を確認し『彼』は思わず肉声を零していた。

 そこには『ランスロット』……VTuber『クロス・ユカリ』の身体のデザインをした人物の名前が記されていたのだった――。

 

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