第20話 桁違いの舞台でも、やらねばならないこと
「マ、マスクド! ヴァーチャル!!」
私・
先日決まった配信開始の挨拶にしてVTuber『クロス・ユカリ』に代わる為の呪文で『変身』――どうにか心を整える……いや完全じゃないんですががががが。
なんせ今回の配信で集まっているのは、前回と文字どおり桁が違う1000人ちょっと。
うひぃぃぃ! 桁が2つ違ってるんですけど?!
もしバトルマンガの戦闘力的数値なら凄いインフレですよ、これ。
多分現在炎上してるVTuber(私)がどんな感じか見に来たんだろうなぁ。
でも、私が配信始めて3回目の無名VTuberだからこのぐらいで収まってるんじゃないかな。
私にとって1000人は破格というか、むしろ今の時点じゃどう逆立ちしても呼べない人数。
でも、現在超人気のVTuberの人達――
炎上と私の無名さが噛み合った結果が1000人ちょっと、なんだと思う。
まあわざわざネタの本人(ガチ無名)を見に来る人は少ないよね。
それでも私からすればもう、ただただ緊張する他ない人数でございます――なんだけど。
「あ、言ってくれてる人がいますね……ありがとうございます――!」
マスクドヴァーチャル。
前回の配信では自分達は恥ずかしくて
だけど、今回普通に乗ってくれてる人たちがいて、私はお陰様で勇気をいただきました。
そう、そうなんだよね。
動画サイト『Over The World Tube』での登録者数はゼロだけど、それでも視聴を継続してくれてる人はいる。
その人達のためにもがんばらないと。
……まぁマウス握る手はめちゃ震えて汗ばんでますけどね。
ともあれ、私は意を決し、画面の向こうにいる1000人へと向き直った。
「えと、その、ほ、本日は御日柄もよきゅっ」
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噛んだwww
噛んだ上に声が裏返ったw
というかもう夜だぞw
言葉のチョイスがなってないのは減点だな
なんか動画と違わないか?
あれ捏造らしいよ
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そうして流れていくチャット欄のコメント――前回とは段違いの速さと量だ――をどうにか目で追いつつ、私は改めて口を開く。
ははははは、リアルの顔は多分真っ赤っかですよ、ええ。
「し、失礼しました。ともあれ、皆様こんばんは。
はじめましてのかたははじめまして、クロス・ユカリと申します。
まず、配信を始める前に謝罪と伝えるべき事をお話させていただきます」
そう言いながら、私はメモ帳に記した、まず話す内容を確認しながら言葉を紡いでいく。
「わ、私は前回配信で動揺して感情的になり、1人の視聴者様をブロックしました。
私のこの身体を作ってくださったランスロット先生との関係をからかわれたのが原因です。
きゃ、重ねてになりますが、私と先生には、いいい、いかがわしい関係性はございません。
先生の名誉のためにその点は改めて強調し、その事について怒りを覚えた事については訂正するつもりはございません」
やっぱり、炎上騒ぎから来た人が大半なんだろうな。
真面目な話だけど、今の所は視聴者数に大きな変動はないみたい。
VTuberの視聴者には、そういう話は見ない見たくないって人も結構いるそうだ。
楽しいことを求めて配信を見るのが基本なので、当然と言えば当然なのかもですね、ええ。
「た、ただ、そのことで冷静さを失って言葉が荒くなってしまい、ブロックした人を傷つけてしまったかもしれないこと、
配信を見ている人達に楽しい時間を提供出来なかったことは深く、お詫び申し上げます。
ほ、本当に申し訳ありませんでした」
そうして私は2Dの身体で出来る謝罪として、瞑目した上で限界まで頭を下げた。
ちなみに、動画や炎上騒ぎについては、あえて明確に触れないことにしております。
なんというか……そこについては私の配信で直接触れる内容じゃないと思ったんだよね、うん。
その辺りの対処経験が全然足りない私だと逆に炎上を焚き付けかねないし。
でも、どうにか大事な部分――伝えるべき事はちゃんと伝えられたんじゃないかな、うん。
チャットのコメントでは強い反論は見当たらなかったし……なんだまともじゃん、つまんね、とかは言われてますが……うう、すみません、私はそういうキャラじゃないものでして。
「で、では、ここからは普通に配信をさせていただきますね。
今日は、その、配信者らしく?ゲーム配信をやってみようと思います」
そう告げた直後、一気に視聴者が減っていった……おおお、すごい勢いだ。
多分、謝罪した上、もう炎上について触れないなら興味ない、みたいな感じかな――うん、仕方ないよね……ううう、なんか複雑だけど。
最終的に配信に残ったのは100人と少し。
私に興味を持ってくださったのか、何か炎上的なことを期待されているのか、それは分からないけど……ぜ、前者だと嬉しいなぁ――厳しいですかそうですか。
なんにせよ、昨日よりも視聴者が多くなった点だけは良かった……のかな?
ちなみにチャット欄のコメントは、最初から今まで思ったよりずっと荒れなかった。
コメントする気がない、ただ見に来ただけの人が多かったんだろうね。
うう、不幸中の幸いでございます。
……その中で、初回から視聴してくださってる方々が、からかいつつ応援してくれたのは見えておりました――ううっ、泣きそうというか涙が実際零れてます。
「ううっ……グズッズビッ(鼻を啜る音)」
今回はミュートが間に合ったので、その上で急いでティッシュで鼻をかみました。
ここからはいろんな意味で可能な限り楽しい時間にしたいから、切り替えた空気をちゃんと守らないとね、うん。
どうにか出さなくていい部分を
謝罪は終えたけど、まだまだ私の正念場は続くのですよ……!
――うーん、今日こそは丸く配信が収まるといいなぁ。
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