第19話 荒らした『彼』の思う所

 『彼』――VTuber『クロス・ユカリ』の配信を荒らした人物は、今になって焦っていた。


 最初はたまたま配信し始めたVTuberを少しからかうだけのつもりだった。

 からかいがいがありそうなリアクションばかりで、

 ついつい見続けながら、煽っていたのだが、向こうは中々乗ってこない。


 業を煮やした『彼』は、彼女の姿について弄る事にした。

 正確には、ユカリの姿を作ったとされる有名クリエイター・ランスロットとの関係を。

 すると、それまでスルーしてきた状態から一転、否定の為に声を上げてきた。

 その様子が面白くて『彼』は更に煽る……が。


『あの、なんだか、そちらの方が必死に見えるんですが。

 えっと、その……も、もしかして、私の気を引きたい、みたいな感じです?

 ランスロット先生が形作って下さった今の私の姿は素敵ですからね。

 でも、そういう方法はちょっとデリカシーに欠けてるんじゃないか、と……』


 最終的に、ユカリがそんな言葉を返してきて『彼』はプッツ―――――ンッ、と切れた。


 は?

 はぁ?www

 何w言wっwてwんwだwかw

 誰が誰の気を引きたいって?w

 自意識過剰も大概にしろよwww


 と『彼』は脳内で嘲笑っていたつもりだった。


 だが現実の『彼』の顔は憤怒で赤く染まっていたし、

 行動ととしてはムキになってユカリの配信を大いに荒らしていた。


 そして、それだけでは『彼』の気は収まらなかった。


 だから得意の技術……動画や音声の編集テクニックを駆使して、ユカリの言動を捏造する動画を作成。


 ちょっとからかっただけの視聴者に図星突かれておとなげなく切れる女、のように仕立て上げたのである。


 元々『彼』のエックスターのアカウントは、面白動画編集者としてそこそこフォロワーがいた。

 対する『クロス・ユカリ』はまだ両手で数えられる程度のフォロワーしかいない。


 結果、捏造動画を見た大半に真実だと信じられ、ユカリは嫌なVTuberとして拡散されていった。


 ただ――多少だが、その流れに逆らう動きも起こった。


 動画を見た大半は一時の娯楽が欲しかっただけで、真実はどうでもいいと深掘りしなかった。

 自分の推しでもない新人VTuberへの興味など、基本はそんなものだろう。


 だが、世の中には、与えられた情報を疑い、情報ソースをしっかり確認する者も存在している。

 そういう人間が元配信を見て『彼』が嘘をついていると気づき、一部追及していた。


 さらには、捏造動画の返信欄に正しい経緯を動画化したものが張り付けられた。


 それは、ユカリの初配信を見た時点で、配信の一部を切り抜いた動画を作っていた人物によるもので、

 その人物は捏造についてはあえて触れず、ただユカリが面白リアクションしている動画として、捏造動画の真実を露わにしていた。 


 そうして、気づいた人々が多少声を上げてはいたが、そもそも数が違う。


 真実などどうでもいい人々+『彼』のフォロワー>>>>>真実に気づいた、あるいは知っている人間――なのだ。

 

 だからネット上は、『彼』が作った捏造動画こそが正しい、という方向に傾いていた。


 だが『彼』自身は平静ではいられなかった。


 ――あーあ、訴えられても知らねw


 ――最近は結構情報開示求める人多いけど、いいの?


 ――ランスロット氏、こういうの嫌ってるぞ。訴訟間違いなしだw


 真実を指摘した人々はそう言って『彼』に忠告した……いや、煽っていたのかもしれない。

 最初こそ『何を言ってんだw』と憤慨していたが、後から『彼』は不安になってきた。


 たかが新人VTuberと思って勢いでやってしまったが、

 ユカリ自身はともかく、彼女の体を作ったランスロットはそれで済まされるだろうか?


 少し調べると、彼は自身や自身の作品関係への謂れなき誹謗中傷へしっかり対応している。

 自身への、イラストやVTuberの身体の制作などの依頼を安心して行えるように、だそうだ。


 元々クリエイターとして優秀な上、そうして厳格に対処している事への信頼もあり、彼に依頼する者は後を絶たないらしい。

 

 そこまで調べて『彼』はようやく自身の行動に後悔の念を抱いた。

 このまま自分の肯定する意見が多かったとしても――訴えられたら、そんなものどうでもよくなる。

  

 情報開示されて自分の素性が世間に明らかになったらどうすればいいのか。

 誹謗中傷への慰謝料請求が行われたりするのだろうか。

 そうなってしまえば、家族に迷惑を掛けてしまう――。


 今からでも、形だけでも謝罪をしておくべきだろうか?


 いや、そうすれば今度は今自分を肯定し、味方している多数が反転、敵になってしまうだろう。

 その上で情報開示やらが重なれば、現状のユカリの炎上よりも大きな炎上になるのは間違いない。

 

 そうして『彼』が頭を抱え出した――そんな時だった。


「え……!?」


 『彼』のエックスターのアカウントに、一通のダイレクトメールが届いた。


 それを送った人物は他でもない。

 『彼』が先日からかって、現在炎上中のVTuber『クロス・ユカリ』だった。




 ――そんな事があった数時間後の20時少し過ぎ。

 



「えと、その、はい!

 そ、そそ、それではここからは、皆さんと一緒にゲームをプレイしていこうと思います……!

 わ、私、誰かとゲームなんてあまりしたことないから楽しみです……うふ、うふふふ――」


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笑い方少しキモいぞw

ユカリん……辛い、辛い人生だったんだね……

目算が甘過ぎる。誰も来なかったらどうするんだか。

おい、馬鹿やめろ

誰か来てくれるといいな、うん……


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 件のVTuber『クロス・ユカリ』は視聴者参加型のゲーム配信を行おうとしていた――。

 

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