第18話 ゼロであるがゆえの利点

「と、というか! 霞さんは大丈夫なの!?」


 よもや自分がネット炎上するとは……。

 そうして呆然としていた私・八重垣やえがき紫遠しえんは、大事なことを思い出し、声を上げた。


 私の炎上は、霞さんこと有名クリエイターランスロット先生が、私のVTuber『クロス・ユカリ』としての姿を作ったことも少なからず影響しているという。


 であるなら私だけじゃなく、霞さんも炎上しているのではないでしょうか?

 うう、ついつい自分の事ばかり浮かんでいたけど、そっちが重要だよね……反省です。


 そんな私の疑問の言葉にスピーカー状態で通話が繋がっている、かすみ由璃ゆりちゃんが答えてくれた。


『まあ、そこそこ言われてるわね。

 本当に色仕掛けに屈したのかどうか、とか。

 でも、問題ないって内人ないと従兄にいさん、余裕だったわよ。

 そういう事は言われ慣れてるって』

「ほ、ほんとに!? やせ我慢とかじゃなく!?」

『うん、大丈夫よ。

 従兄にいさん仕事の拘りで時々やらかすから、実際慣れてると思うわ』

「霞さんが何事もなかったならよかったよ……はぁ」

『ただ従兄にいさんがすぐにコメント出したりしたら、それこそ勝手な憶測が出るからね。

 少なくとも今日中はノーコメントにしとくから、ひとまず自分で何とかするように、って言ってた』

 

 実際、霞さんの判断は正しいと思う。

 ここで急いでコメントを出したり、私を庇うようなことをしたら、それこそ関係性を疑われるだろうしね。

 だけど、それはそれとして。


「ううう、私どうにか出来る気がまるでしないんですけどォッ!?」

『そ、それはまぁ……出来ないとは思わないけど、それを実現するビジョンは中々浮かばないわね』


 おそるおそるくだんの投稿を再度見ると、さっきよりさらに反応が伸びていて、拡散してるのが眼に見えて分かりますね、ええ。

 このまま拡散が続いたら一体どうなるんだろうなぁ……って、んん?


「――あれ?」

『どうかしたの、紫遠』

「いや、確かに炎上は怖いことだよね、うん。

 今日も配信する予定だから、何か言った方が良いのかなとか、何言われるのかな、とか色々考えてたんだけど……

 それ以外って、何か影響が出るような事ってあるのかな」

『何かって……んん? あれ?』

「もしかして――ユカリには、VTuber始めたばかりの私には、炎上の直接的な影響は少ないんじゃ……?」

『あー……言われてみれば確かに。

 これが実績のあるVTuberの人達なら炎上はダメージよね。

 ファンや登録者が減る事もありうるかもしれない。

 だけど、今の紫遠には――』

「うん、そういう意味ではダメージが全くないね……なんせまだゼロだから――うぅぅ」


 そう、実はまだ私は動画サイト『Over The World Tube』での登録者数はゼロ。

 広報用に使っているSNS、エックスターではありがたいことに何人かのフォローは貰ってるけど、そっちはまだゼロなのです。

 いや、うん、実を言えば、まだ登録されてないなぁ、って地味に凹んでたんだけどね。

 

 でも、この状況でゼロであるということは――。


「うう、でも、もしかして、今の私……マイナスにはなりようがないって、ことかな」

『それは――そうかも。

 まあ、今回の件が将来的に響かない、とは言い切れないけどね。

 でも、それはまだ分からないっていうか……それこそ、これからの紫遠次第じゃない?』

「!!! 

 な、なるほど……!

 つまり明日を変えるのは今日の自分……な、なんかヒーローっぽい!」


 そう考えると、なんだか私の中で沸き立つものがあった。

 私、特撮好きというか、特に特撮ヒーロー好きなんで、ヒーローの皆様が語るような、そういうフレーズにめちゃ弱いのです。

 というか、実際これまで見てきたヒーロー達のそういう場面が幾つも頭を過ぎって滾るんですがっ!


 そして、そんな思考の連鎖の中で、私はVTuberを始める決意を固めた光莉ちゃんの配信を――共通の大好きなフレーズを思い出した。


『ただ、星を追いかける』 


 うん、そうだよね、ステラマクス、そして光莉ちゃん。

 夜の闇に迷った時、寂しくても辛くても、そこに立ち尽くしたままじゃ何も変えられないんだよね――!!


『なるほど、従兄にいさんもしかして分かって――』

「……ふふっ、ふふふふ!」

『紫遠?』

「うふっ、うふふ! うひふ、ふへへへ……うふふふふふ――ハーハッハッハゲホォッゴホォッ!?」

『ちょ、紫遠? なんか思う所あったみたいだけど、大丈夫? 色んな意味で』

「だ、大丈夫、うん、色んな意味で」


 ついテンションが上がって高笑いしちゃった結果むせちゃいましたが……そのお陰と言うべきか、私の頭はクリアになっていた。

 うん、正直先のことはまだ滅茶苦茶不安で、良いイメージは全く涌かないけど――今日の配信開始したら視聴者皆様全員に罵倒されるかも、とか思い浮かびまくっております――それでも、今は今で全力を尽くすしかないよね。自分次第でどうにか出来る事なら尚更に。・


「えと、その、ありがとう、由璃ちゃん。心配かけてごめんね。

 でも――なんとか頑張ってみるよ」

『……その様子なら、大丈夫そうね』


 やるべき事を決めたら、なんだかスッと心が軽くなっておりました……一緒に色々考えてくれた由璃ちゃんにはただただ感謝です。

 ――今度、どうにか頑張って外に出て御礼のスイーツを買いに行こう、うん。


 そして、同時に私は、この問題の解決策――とは少し違うけど。

 少し何かを変えられるかもしれない可能性を見つけ出しましたよ、ええ。


 それは――私がVTuber


「えと、その、でも、見守ってくれると、嬉しい、かな」

『……うん。分かってる。ちゃんと見守ってるからね』

「ううっ、ありがと由璃ちゃん――!!」


 ちなみに。


「……紫遠ちゃん――由璃ちゃんがいてよかった――

 でもお母さんもいるからね……いつでも相談してね――!」(ホロリ)


 今回も私の奇声を心配して部屋を覗いていた(勿論ドアはノック済み)母様に、私は気づいておりませんでした。

 そして、後から恥ずかしい場面ばかり見られていたのを知って、のた打ち回る事になるんだけど――それはまた別の話。

 

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