第14話 配信中は何が生まれるか分からない

「え、えっと、さっきのマスクドヴァーチャルなる単語はですね……」


 私・八重垣やえがき紫遠しえん――今はVTuber『クロス・ユカリ』だけど――は、赤面しつつ思考を巡らせる。

 なんについてかというと、今回二回目の配信冒頭において私が口走った単語についてですね、ええ。


 マスクド・ヴァーチャル。

 陰キャ引き篭もりの私が、元スーパー変身ヒロインのクロス・ユカリに『変身』する為の呪文。

 つまり、私が私自身を鼓舞させる為の言葉――でいいかな、うん。


 本当は配信に乗せるつもりは毛頭ない言葉だったんですけどね。

 私のミスで思いっきり聞こえてたみたいででででで。

 

 これ、どうしたらいいんでしょうね、説明が――と、そうか。

 ある意味ストレートで良いかもね、これ。


 そうして思考を巡らせた末。

 私はちゃんとした理由が思い浮かんだので、それをそのまま口にすることにした。


「わ、私の現在の姿は一応『変身』した姿なんですよ。

 前回配信でも少し話したんですけど、私は色々あって世界恐怖症みたいになってて。

 このままじゃ世界を守れないんで、リハビリの一環として配信、皆さんとお話してるんです」


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そう言ってたね

という設定かw

でも恐怖症はガチっぽいじゃん

確かに前回そんな感じの大暴れだった


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 図らずも初回で大暴走した結果、私の言葉に視聴者の皆様は説得力を感じているみたい。

 設定発言は正直言いたい事はあるけど……うん、スルーしておこう。

 下手に触れる余裕はないしね。


「で、でも、元の姿だと正直勇気が出てこなくてですね。

 だから恥ずかしながら配信のためだけに、この姿に変身してる次第です。

 その変身への掛け声が、マスクドヴァーチャルなんですよ」 


 正直、良い感じに説明できたんじゃないかな。

 まるっきり嘘を言ってるわけじゃない……というか半分以上は事実だし。


「でも、それはこっちの都合で、えーと……舞台裏、って言った方が良いのかな?

 皆様に見せなくてもいい部分なので、すみませんでした。

 次回からは――え?」


 次回からはちゃんと配信に乗せないよう留意します、そう言おうと思ってたんだけど。


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え?なんかそれ勿体なくない?

折角だからそれを最初の挨拶的なのにしたら?

確かに、なかったことにするのは惜しいな


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 という意見がちらほら67人の視聴者の皆様の内数人から出ております。


 な、なるほどー……正直、その発想は全然なかったですね、ええ。


 それに……元々、今回の配信では雑談を交えつつ、色々な事を決めようと思っていた。

 その中には、始まりの挨拶や終わりの挨拶もあったんだよね。

 一応幾つかの候補は私が練ってきてて、それを視聴者の皆様の意見で決める感じの予定でした。


 ちなみに、誰も来なかった時は一人寂しく呟きながら決めるつもりでもありましたよ、ええ。

 というかそうなると思ってたんだけどなぁ……色々と予想外です。


 まあ、その辺りはさておき。

 実際、視聴者様方からの言葉は、とても素敵なアイデアに思えた。

 私が考えていた諸々は正直ちょっと没個性的だったので……うふふ、私そういうセンスゼロナンデ(ドヤァ。


 そういう諸々を含めて思考した上で、私は改めて視聴者の皆様に向き合った。


「な、なるほど、確かにそうかもしれないですね……

 挨拶代わりに使うのはありかも」


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ユカリんも視聴者も仮面を被り合う、的な意味で?

闇深いな、それw

まあ確かに我々は皆仮面を被ったようなものだが

真面目かw


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 ユカリんかぁ……あだ名的な感じ呼ばれるのちょっと嬉しいなぁ。

 って、それはさておき。

 実際私達は皆仮面を被ってこの場に集まってるのかもしれない。

 ただそれは……きっとネガティブな意味ばかりじゃないよね、うん。


「仮面か、うん、そうですね……私はその仮面で勇気を振り絞れてます。

 みんなは、えと、どうですか?

 仮面を被ることで話せる事とかあったりしません?」


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確かにそういう所はあるかも

素の自分だとここにはそもそも来ないな


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「なるほど……じゃあ、その、ここはそういう場所にしましょう。

 なんというか、皆が仮面を被る事に、躊躇いを感じずに済む、楽しい場所というか。

 そ、その合言葉を――マスクドヴァーチャル、ってことにする、なんてどうです?」


 皆様のコメントを読んで、その言葉に込められた考えを推し量り、私は言った。


 正直現在進行形で、わたくし心臓バクバク汗ダラダラの緊張状態ですよ、ええ。

 でも、こんな臆病な私でも『仮面』があるからこそ、今ここにいる。


 私含む、そんな人達の居場所、憩いの場所になれたら。


 そういう考えを口にすると――。


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いいんじゃない?

挨拶としても独自性あるし悪くないと思う

否定できる要素はない

ツマンネ、帰るわ


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 快く肯定してくれた人達が結構いてくれた反面、

 こういう会話の流れがつまらないと感じたのか10数人が配信から去っていった。

 うう、面白くなくてごめんなさい。


 でも、それでも――残ってくれる50人近くがいる。

 一緒に、ある事柄について考えて、結論を出して――受け入れてもらえる。

 私にとってはそれがただただありがたくて……正直感動しております。


「み、皆さん、ご意見ありがとうございます……グズッズビッ(鼻水を啜る音)」


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今そんなに感動する要素あった?w

ちょろいというかなんというか……

これ、マジで心配になるな

これが天然なら大したものだ


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「うう、私的には感動ですよ……人とお話しできるっていいですね」


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このガチの陰キャ感よ

そ、そっか……よかったな……


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 うう、何か若干引かれてる気もしますが、それはそれ。

 私は音声をミュートにした上で鼻をかんで、心も整えた上で決定する。


「じゃあ、マスクドヴァーチャル、最初の挨拶にさせていただきますね。

 皆さんもよろしければ使って合言葉的な感じに……え!?」


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あ、俺はいいんで……

ぶっちゃけこっちが言うのはダサ……ゲフンゲフン

恥ずかしいのはそっちだけにしてくれ


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「こ、この流れで梯子外すのはひどくないですぅっ!?」


 視聴者の皆様のあまりのリアクションに、私は思わず大声で突っ込んでしまいましたとさ。

 で、ヘッドホンとかで聞いてる人もいるから、ちゃんと音量を考慮しろとご意見賜りました……本当にすみません。反省です。


 でも、正直思った以上に良い会話、配信できてるかも、って私は思っておりました。

 実際、皆様とのやり取りで結構和やかな雰囲気になってたんじゃないかな。




 だけど、その数十分後。


「――――ごめんなさい、その発言は許せません」


 私は、自らの手でそれを台無しにする道を選ぶ事になるんだよね……後悔はないけど――悲しいです、ええ。

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