第11話 初配信、大成功!……だったらどんなによかったか
「え、えっと、音声が入ってないのは、デスクトップ音声が、既定に……なってる、と、そそそ、それじゃ……!?」
私・
それというのも、VTuber『クロス・ユカリ』としての初配信の初っ端から音声が入ってないという有様ゆえ。
ううう、まさか初手からミスなんて――。
こうならないように準備とかしてたのになぁ――とほほ。
き、気づかない内に設定弄っちゃったかな。
それでも機器の接続の時に再設定しなくちゃだった……?
気ばかり焦るけど、こういう時は冷静にマニュアルを読んで、原因を潰していく。
そう長くない社会人生活で学んだ数少ないことでございます。
あ、一応チャット欄に『音声トラブル中! もう暫しお待ちを!』とはお知らせしてます。
まあ、そうしてる間にリスナーの方が一人いなくなったんですけどね……うぐぐ、折角来ていただいたのに、本当にすみません。
――って、なんでかマイクが接続扱いになってない!?
原因に気づいた私はどうにかこうにか解決、改めて画面に向き直った。
「……お、お待たせいたしました。
私の声、そちらに聞こえてますか?」
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お、きたきた
聞こえてるよー
結構可愛い声だな
声質はともかく、喋り方が下手
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私が話しかける事で、チャット欄に視聴者の皆様の言葉が流れていく。
よ、よかった……って、安心してる場合じゃなかった。
私は画面に写っている『クロス・ユカリ』が確かに動いている様子を目の当たりにする。
変身ヒーローと変身ヒロインの中間のようなスーツを纏った、紫がかった黒髪の女性。
そのスーツは一部破損している有様だけど、これが今の『クロス・ユカリ』であり、私そのものだ。
一緒に頑張ろうねと、もう一人の私であり、私の仮面となる存在になんとなく目配せ。
そうして心を整えた私は自己紹介を開始、いや、再開することにした。
今から私は『クロス・ユカリ』になる……!
「――初手からトラブル申し訳ありませんでした。
それではまず、自己紹介を。
私の名前はクロス・ユカリ。
こちらの世界の表現で簡単に言えば、元変身ヒーロー、いえヒロインですね」
思いの外、スラスラと言葉が出てくる。
練習の成果もあるけど『仮面を被っているゆえの安堵感』もあると思う。
VTuberとして活動するにあたって、私はロールプレイを徹底することを選んだ。
ロールプレイ、すなわち役柄を演じること。
この場合、『クロス・ユカリ』本人がこの世界で生きている姿を見せ続ける、って感じかな。
最近は普段の自分そのままをVTuberの姿で表現していく人が多いらしい。
けど、それだと私は配信どころの騒ぎじゃないですからね、ええ。
だから私は『クロス・ユカリ』という仮面を被る事で、かろうじて配信できる私を演じている次第でございます。
勿論だからって緊張してない訳じゃないですよ、ええ。
今もめちゃくちゃ震えまくりながら声を絞り出しております。
それでも『普段の八重垣紫遠』じゃないからこそ、私は画面の向こうにいるリスナーの皆さんと向き合えている訳で。
……本来の私は、外が怖くて引き篭もってる陰キャなのに。
改めて『VTuber』である事の意味、というか素敵さを実感しております。
そうして自己紹介を続けてたんだけど。
「――で、この世界の依り代に……って、え?」
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zzzzz
設定語り長くない?
そういうのはいいからw
気になるけど、今は話す事あるだろ
独りよがりだな
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じ、自己紹介(設定)の長さに痺れを切らされてるぅぅぅー!?
これでも大分削ったんだけどなぁ……長かったかぁ。
えっと、えっと、じゃあ、この場合は――
私は事前に準備していた対応を書いたメモ帳を確認。
予定変更というか前倒しで、次の話題に移る事にした。
でも、自分がユカリって自覚は忘れないように気をつけて、っと。
「あ、あははは。すみません。前置きが長過ぎましたね。
今は名前を覚えていてくれたら嬉しいです。
じゃあ、そろそろ配信終了と――」
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終わるな終わるなw
まだ何もしてないじゃろがい
何が好きとか、今後何するとかは?w
段取りが下手過ぎる
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って、しまったー!?
話題をかっ飛ばし過ぎ……いや、ここはクールにいこう、ユカリ。
ここはあえて、わざと言いました感でリスナーの皆様の笑いを掴む感じでいこう、うん。
私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ。
「な、なーんてね! じょ、冗談ですよ、えへへへ」
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流石にそうだよなw
可愛いじゃん
媚びてキモいわ、萎える
誤魔化し方が下手糞過ぎる
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こ、肯定半分否定半分くらい?
って、何人か視聴やめちゃった!?
うぅぅ、聞き苦しかったかなぁ……こ、心がグリグリゴリゴリ擦り減っていくぅ――やっぱり、私じゃ……いやいやいやいや、まだ見てくれてる人がいるんだし、ちゃんとしないと!
どうにかこうにか心を整えて、私は改めて次の予定……質疑応答しつつの、趣味や好きな事の紹介へと移る事にした。
勿論ユカリとしてね、うん。私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ……。
「じゃあ、
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噛んだw
声裏返っとるw
配信向いてないんじゃね?
事前にちゃんと練習すべき
wwwww
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「あ、う、え、っと……ぁぁぁ……」
そうして思いっきり噛んでしまった事と、
コメント欄のあれこれ、
そしてこれまでの緊張が重なって思考がグルグルした結果――私の中で、何かがポキンッと音を立てた。
何かが折れたのか壊れたのかスイッチが入ったのか、それは私にもよく分からない。
でも、うん、
「……う、うふふふふふ――
すみませんすみませんすみませんすみません……うひ、うふっ、あはははははっ!」
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え?
ヒエッ!?
あ、その、ご、ごめんね?
お、落ち着け。初配信だぞ
あわわわわ、壊れちゃったー!?
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「うふふふ、大丈夫ですよ、ええ――でもその、なんというか申し訳なくて……ううぅっ!
わたし、ダメな女です……せっかく、折角素敵な姿をもらって、
皆さんが来てくれたのにこの体たらくぅぅー!!?
私のゴミッ! 人間のクズッ! それでも元ヒーロー!?
あ、あはっ、あはははははははっはははははっははっ――――うう、うぅぅぅぅ……ぐずっずびっ(鼻水を啜る音)」
――――その後。
大暴走した私は、残ってくださったリスナーさんのお言葉でどうにか正気に戻り。
平謝りしながら当初の予定に戻るものの、グダグダのボロボロで。
私の初配信は、それはもう目も当てられないものになりました(号泣)。
うううう、ホントすみません――もうこれ、次の配信からは誰も来ないよね。
いや、もう、なんというか、どうすればいいやら……。
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