第10話 やってきました初配信!

「えっと、これで、よし、かな?」


 私・八重垣やえがき紫遠しえんは、眼前の諸々を確認して呟いた。


 パソコンは必要ソフト含めて起動済み。

 マイクも設置完了。

 カメラも問題ない…はず。


「ううぅ、い、いよいよかぁ」


 時間を確認する。

 もうすぐ19時。

 予告した初配信の時間が刻一刻と迫っていた。

 正直、思ったよりもずっと早く初配信にこぎつけられたと思う。


 あれから……

 由璃ゆりちゃんの従兄いとこであり、

 有名クリエイター『ランスロット』であるかすみ内人ないとさんにVTuberの身体を作ってもらう約束を交わしてから三週間。


 霞さんは、私からのアイデアを受け取った後、超速かつ最優先で形にしてくれた。

 動作調整、設定もしっかり行ってくれております。

 ちょうど仕事と仕事の隙間で時間が空いていたから、だそうだけど感謝しかないです、はい。


 その間、私はただ待っていた訳じゃない。


 メインの活動の場所となる動画サイト『Over The World Tube』や、

 広報用の各種SNS、特に日頃の呟きなどにも使用する『エックスター』の登録をしたり、

 そのアカウントで、初配信に向けての広報活動を行っておりました。


 その際、私はもう一人の私の在り方を確認していた。

 私の仮面の被り具合を確認していた、とも言えるかも?


 VTuber……クロス・ユカリ。

 デザイン・設定含めたテーマは、傷を負った変身ヒロインです。


 インターネット全体を含めた世界――電脳界を守っていたけど、長く激しい戦いの末に強敵と半ば相打ち。

 暫し電脳界の平和を取り戻したけど、

 戦いのトラウマで世界に恐怖を感じるようになって、

 精神的リハビリのために現実世界の依り代を通じて配信するようになった、という感じ。


 あ、はい、お気づきかと思いますが、

 大体私の現状をモデルにして、かっこよくした次第でございます。

 

 この辺りはVTuberクロス・ユカリに私・八重垣紫遠が同調しやすくする為の設定だったり。


 で、ユカリは世界に対して恐怖感があるから、

 私が配信にビビりまくっててもユカリとして間違ってないって感じにもなる御得仕様。


 この辺りの設定構築に関しては霞さんに褒められましたね、ええ。


 ふふふふ、伊達に幼少期から自分を主役にしたヒーロー妄想してませんから(ドヤァ。

 そう言えば、そういう妄想って最近はしてなかったなぁ……心が現実に負け気味だったのかも。


 まあその辺りはさておき、

 その広報活動内で、私はユカリとしての言動や行動を意識しながら動いておりました。

 それもあって、イメージングは割と出来てると思う。


 そうして迎えた今。

 準備もちゃんと出来ている……はず。

 トラブルへの各種対応方法を書いたメモ帳は準備してるし、声の調子も悪くない。 


 そして、所謂親フラ……親が入って来るフラグも事前に部屋に入ってこないよう伝えて対応済み。


 多分事前に出来ることはちゃんとやってきた、と思う。


 だから後はただ、本番に挑むだけだ。


 ありがたいことに、エックスターのフォローは現在46人。

 その内の10人でも、いや、1人でも来てくれたら、ただただ感謝。

 

 ――と思ってたんだけど、22、いや23?

 それだけの人達が待機してくれているみたい。

 ううっ、緊張してきたぁ……!

  

「やれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれる。

 私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ私はユカリ…」


 そうして念じている内に……時刻は19時。


 エックスターで配信開始を告知して、私は――クロス・ユカリは配信を開始……したんだけど。


「は、は、はじめまして! クロス・ユカリと申します!

 本日はお忙しい中……って、え?」


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初手ミュート芸かw

声出てないよー!

ちゃんと設定できてないとか、萎えるな。 


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 などと皆様のコメントがががががが。


「ぎゃああああ!? 音声届いてないぃぃ!?」


 クロス・ユカリの初配信は早速暗礁に乗り上げたのでした。

 こ、これどうやってリカバリーしよう……!?

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