第7話 何故彼女はVTuberになろうと思ったのか?

『まず訊きたいんだが、君は何故VTuberになろうとしてる?』


 パソコン内のパソコンのネット会議ソフトの中、推しの着ぐるみ姿の人物――かすみ内人ないとさんが問う。

 私・八重垣やえがき紫遠しえんは、緊張と共に考え、呟いた。


「えと、その、あの……」


 って、呟けてないし!


 うう、身内以外とは久しぶりに話すのを今更自覚っ。

 というか私、基本陰キャだしね……それプラス外への恐怖症でよりひどくなったし。

 それでもどうにかこうにか言葉を絞り出す。


「ゆ、由璃さんから聞いてませんか?」

『多少はね。だが実際の所は本人に訊ねるべきだろう』

「そ、そうですね……えっと……私が、VTuberになりたいのは……

 ひ、引き篭もったまま収入が得られる可能性があるから?」

『……』

「……」


 し、しまったー!? ストレートに答え過ぎました!?

 これだけだと若干世間を舐めた若者発言に聞こえるのでは!?


「あ、いや、その、私、色々あって外が怖くなってですね!

 だから、その在宅での収入源がないかなっと思ったものでして!

 けけけ、決して、家にいたまま楽してお金を稼ごうとは微塵も思っておりませんです!」

『……外に出られない事情は分かった。

 なら、それでも他になにかしら職種は選べるんじゃないか?

 初めてもいない状況では、そもそも収入があるかどうかもわからないVTuberを選ぶ必要はないだろう』


 うう、紛れもない正論でございます。

 実際、言葉どおりだと思う。


『さっきからの君の様子を見るに、明らかに人と話すのが苦手そうだ。

 それを考えるとそもそもVTuberとしての適性は低いんじゃないか?』

 

 そう、そうなんだよね、うん。

 私は明らかに向いていない、少なくとも今の私には不向きな道に進もうとしてる。

 それは私に、他に在宅で出来るようなスキルがないからなんだけど……。


『君は――VTuberをやるよりは今からでも何かスキルを磨いて、在宅でできる仕事を探すべきだと思う。

 最近はそういうオンラインで全てを完結できるサービスが幾つもある。

 余程怪しい企業でなければ利用に支障はないと思う、というのは年上としてアドバイスだ。

 何も一種博打のような業界に挑まなくてもいい』


 うん、本当に正しい。

 反論のしようがない、ただただ納得の言葉だ。

 その声音から、真剣にアドバイスしてくださっているのも伝わっている。


 そう、頭で分かっているからこそ――私は、それで納得出来ない自分に戸惑っていた。


 捻くれて反発したいとか、そんな気持ちはない。

 なのに、何故だろうか。


「は、はい、その、おっしゃるとおりだと思います」


 私の頭の中には、光莉ちゃんの活動する姿が浮かんでいて――


「で、でも、私――それでも……それでも、やってみたいなって、思ったんです……VTuberを」


 伏し目になり、まともに画面も見られない有様だけど……私は、そう答える事に躊躇わなかった。

 発端は褒められたものじゃないし、一本筋が通った理由は見当たらないかもしれないけど、私は……。


「光莉ちゃんみたいな、VTuberに、なってみたいなって……」


 そう。

 腐って俯いていた私が思わず顔を上げるような――そんな素敵な、VTuberひとに。


『……』

「いや、その、まだ初めてもない奴が烏滸がましいのは分かってるんですが……だ、ダメですかね?」

『――それを決めるのは俺じゃない。君はやってみたいんだろ?』

「は、はい」

『それを否定する理由は俺にはないからね。

 さっきのは、一応アドバイスしておきたかっただけだ。

 あと烏滸がましいのは誰だってそうだろう、目標が出来た一番最初は。

 あまり卑屈にならなくてもいいと思う』

「あ、ありがとうございます……」


 頭を下げながら私は思った。

 少し話しただけだけど……この人は、きっと良い人だなって。

 これなら、話し合いがどう終わったとしてもきっと納得出来るね、うん。


 私がそうして胸を撫で下ろしていると――かすみさんが、ポツリ、と呟いた。


『……いいだろう』

「へ?」


 訳が分からず、思わず間抜けな声で尋ね返す私。

 そんな私に構わず、かすみさんは衝撃的な事を告げる。


『――ひとまずは2Dモデル、その後次第で3Dモデルを無料で作ってもいい。

 だけど条件が一つある……【アストラ】を、

「えええええぇっ!? なんでそうなるんです!?」


 少なくともかつては純粋に推していたはずの光莉ちゃんを叩き潰せ、なんて。

 正直全く理解出来ないんですががががが。


 現役ヒカジューとしても、これは流石に訊ねずにはいられませんね、ええ。

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