第5話 個性的な人々(自身も含む)

「VTuberか。まさかそうくるとは予想外だったな」


 そう呟いたのは私・八重垣やえがき紫遠しえんの元同僚にして友人のかすみ由璃ゆり


 ちなみに私の部屋の掃除問題については、

 今回は突然の来訪ということで、由璃ちゃんが行き来する場所だけ徹底掃除という事で同意いただきました。

 部屋全体のゴミはひとまずまとめて隅に置いております……はい、日常的に掃除が滞ってる私が悪いのです、すみません。

 だって、こう、居心地がそんなに悪くなくてですね……あ、本題に戻ります。

 

「しかもきっかけがみなもと光莉ひかりちゃん。

 因縁とまではいわないけど、なんか不思議なものを感じるわね」

「い、因縁?」

「こっちの話よ。それにしても……」


 由璃ちゃんがジーッと私の全身を眺めて来る。

 あの、その、なんか熱っぽい視線を感じるんですが……って、気のせいだよね、うん。


「なんでいつのまにシャワー浴びて来てるの!? 

 紫遠も私が綺麗にするって言ったじゃん!」

「気のせいじゃなかった!? 

 いや、その、約束はしてないですし……」


 流石の私も来客となればシャワーは浴びるのです。

 というか、間隔が若干人より長めなだけでお風呂は入っておりますし。

 ――妹の藤花とうかには毎日入れって怒られてるけどね。


 綺麗好きな由璃ちゃんを不快にさせないために、ひとまず汗を流してから掃除して、また改めて汗を流そうと思ってたんだけどね。

 急ぎシャワーして戻ったらもう大体片付いてました……手際良いなぁ、あと手伝えなくてごめんなさい。


「くっ、部屋の片づけに意識が向き過ぎたか……不覚」

「え、ええ……? そんな落ち込むこと?

 仮に一緒に入ってたとしてもガッカリするだけじゃないかなぁ」

「フッ――それを決めるのは貴女じゃないわ、私よ!

 まあ、湯上りの紫遠を見れたから良しとしましょう。

 あと、今日はいきなり来ちゃったのはごめん」

「ううん、こっちこそ部屋が汚くて申し訳なく」

「じゃあ、両成敗って事で……相談事はVTuberとしての身体を作る伝手はないかってことね?」


 流石できる女、由璃ちゃん。

 即座に本題に切り替えて、相談事の要点を口にしていた。

 私は、それにうんうんうんうん、と何度も頷く。


「えと、というか、私がVTuberやろうとすることについて反対とかは?」

「正直素質はともかく、向いてないと思うけどね。

 でも、

 なら私が言う事は特にないかな。

 で、話を戻して伝手だけど……私の従兄弟に丁度良いのがいるわ」

「う、うん。確か前にイラスト依頼引き受けてる人がいるって言ってたの思い出したから」


 由璃ちゃんは全方位に詳しいオタクな女の子なんだけど、そんな由璃ちゃんにそういう分野を最初に伝えたのがその人らしい……と前に聞いた事があった。

 今回由璃ちゃんに連絡を取ったのは、それが理由だったり。


 それに――引き篭もりになった私を心配してちょくちょく連絡してくれた由璃ちゃんに会いたかったし、うん。

 

「流石私の紫遠、良い記憶力だわ」

「えと、あの、私達は友達だけど、由璃ちゃんのって訳じゃ……」

「最近はその手の依頼が多いらしいのよ(スルー)。

 VTuberのデザインとか、モデルそのもの制作とか。

 けっこう評判良くて、よく仕事貰ってるみたい。

 だから紫遠が私を頼ったのは正解ね……ただ、お金はあるの?」

「い、一応相場の最低限は……でも、いきなりそれを全放出は厳しくて――」


 私としては、ちゃんとしたお仕事の依頼なので、積極的に値切りたい訳じゃないのです。

 ただ、今は資金的にいろいろと厳しい状況なのは事実。

 だから、ひとまず前金として払える部分、調整が効く部分だけ払わせていただきたいなぁと思っております。

 で、収入が入り次第、そういう部分を後から改めて払いたいなぁ、というのが私の考えです――うう、こういう考え自体申し訳ないなぁ。


 でも、そういう形で依頼をするには私に信用がないと思う訳で。

 向こうからすれば支払いを踏み倒すんじゃ、と疑念を抱かれても不思議じゃないというか当然というか。 


 だから――


「なるほど、その辺りを私が信用的な意味で仲立ちすればいいのね?」

「そ、そのとおりでございます! 流石由璃ちゃん察しが早いなぁ」

「ふふふ、紫遠に褒められた……うふふふ、それだけでも今日此処に来たかいがあったわぁ――」


 素直な感想を零すと、由璃ちゃんはすごく恍惚とした顔で体をくねらせた。

 う、うーん、私なんかの言葉で喜んでくれるのは嬉しいんだけど――ど、どう反応すればいいやらリアクションが難しいなぁ。


「そういう事なら内人従兄にいさんにひとまず連絡を取ってみるから。

 向こうも依頼で忙しいかもしれないからすぐに色良い返事は来ないかもしれないけど、いい?」


 私は由璃ちゃんのその言葉に一も二もなく頷いた。

 とは言え、そんなに忙しいなら望み薄かもなぁ、とその時は思っておりました。





 ――だったんだけど。


 その数日後に、私は件の由璃ちゃんの従兄さんと『会う』ことになった。

 ただ、その時の衝撃は、うん、割とすごいものだったなぁ。


『君が、由璃の話していた八重垣紫遠か』

「ひょええええ!?」

 

 何故なら、パソコンのネット会議ソフトを通じて現れた従兄さんの姿は、源光莉ちゃんの着ぐるみ型コスプレスタイルだったからでございます。


 いや、その、うん―――どういうことぉぉぉ!?

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