第4話 友人、襲来。

「うん、VTuberとしての姿、どうにかしないとね……」


 VTuberへの道を歩み出した私・八重垣やえがき紫遠しえん

 その道を歩むのなら、最優先に手に入れたいのはまさにだと私は一人自室で呟いた。


 ネットで調べた所、今はVTuber黎明期よりずっと『姿』を手に入れやすいそうです。

 既存の素材を組み合わせて制作できるソフトも結構あるみたい。


 なんだけど――。


「う、うーん、しっくりこないなぁ……うう、贅沢ですみません」


 幾つか作らせていただいて試してみたんだけど、今一つ呑み込めないでいる私。

 うーむ、『作りたい仮面』のイメージが我が儘過ぎるんだよね、うん。

 でも、拘るのが間違いって訳じゃ……多分、ないと思う、うん、きっと。


 となると、方法は2つ――自分で作るか、誰かに作ってもらうかになる。


「――――だめだぁぁっ!?」


 まず自分で作れるかどうかを試す為に、仮イラストを描こうとしたけど。

 パソコン画面上に生まれているのは、世にも恐ろしい奇怪なキメラ。

 これは多分世界に生み出しちゃいけない存在だ。

 

「ううっ、私が生み出したかった存在から遠過ぎる――ごめんね……これは封印せざるを得ない」


 手を合わせて供養してから私はお絵かきソフトを閉じた。

 うん、分かってたけど、私が作るのは不可能でございます。


 となると、誰かに作ってもらうしかないわけで。

 でも、誰かに作ってもらうとなると依頼料がかかるわけでございます。


「うぐぐぐぐ……」


 自分で計算した貯金残高の残り金額とにらめっこする私。


 もしVTuberの姿をプロアマ問わず誰かに依頼するなら最低十万円はかかるそうだ。


 一応、ギリギリ最低ラインは支払える。

 だけど、VTuberとして軌道に乗るかどうかも分からないのに殆ど全額投入は危険すぎるよね。


 いや、お金をケチりたいわけではないのです。

 依頼するのであれば正当な報酬はちゃんと支払いたい。

 でも、どうにかギリギリまでお金は節約したい気持ちもあって……うむむむ、どうしたものか。


「……やっぱり、相談してみようか」


 悩みに悩んだあげく、私は携帯端末を取り出した。

 色々試行錯誤したり調べ物をしている内に日は傾いて、赤い日差しが部屋に差し込んでいる。

 であれば、そろそろも仕事が終わった頃だよね、うん。

 メッセージアプリを起動した私は、少し悩みつつ、ひとまず軽く尋ねることにした。


『ちょっと相談したい事があるんだけど、いいかな?』


 送信先は――私のかつての同僚で……数少ない私の友人。

 アニメや漫画などのサブカルチャーに詳しく、もあると話で聞いた覚えがある。

 うう、出来れば可能な限り問題は自分で完結したかったんだけどね。

 そこに拘り過ぎて、そもそもスタートラインにすら立てないのは悲し過ぎるので。


 それに、客観的な意見を貰えるだけでもありがたい。

 ……久しぶりに会いたい気持ちもありましたしね、ええ――立ち直ってから会いたかったんだけど。

 そんな想いで私はメッセージを送信した――その結果。


「……え?」


 それから三十分も経ってないだろうか。

 家の前に車が停まる音がした。

 うふふふ、引き篭もるようになってそこそこなので、そういうのに敏感になってるんですよ(ドヤァ。

 さておき、家の前に止まったのはタクシーらしい。

 ドアの開閉音からなんとなく分かる。

 じゃあ、誰が来たんだろう――そう思った矢先だった。


『こんばんは、お久しぶりですおば様。

 ――ええ、紫遠さんから連絡を貰ってですね……』


 どうやらメッセージを送った相手が来訪したようだ……って、早い早い早い早いっ!

 彼女の職場の位置を考えると、仕事終わって直行したとしか思えない速度じゃないです?

 いや、というか家に来てほしいって頼んだわけじゃないんですがががが。


「っていうか、ま、マズい!?」


 私は散らかりに散らかった部屋を見て冷や汗をダラダラと流しまくる。

 彼女は綺麗好きだ。それも相当なレベルで。

 そんな彼女がこの部屋の惨状を見れば――やばいやばいやばい。 

 私が慌てに慌て、パニックで右往左往している内に、部屋の扉が開かれた。


「お待たせ!!

 あなたの大親友、かすみ由璃ゆり、ご期待通りに只今到ちゃ――って……」


 そこに立つのは、肩にかかるほどの黒髪を一つの三つ編みに纏めた、スーツ姿の女性。

 普段は理知的な風貌の彼女は、私の部屋を眺め、一瞬理性をかなぐり捨てた無となっていた。

 だけど、すぐさま笑顔(無慈悲)を浮かべると私に向けて告げた。


「紫遠。相談事、ちょっと待ってね。

 先にこの部屋を徹底的に片づけるから。

 まずは床にあるもの、全部処分でいいわね?」


 彼女の手には何処から取り出したのか、除菌スプレーと小さなモップが握られている。

 それらをギリギリと力強く握っておられる様子から理解しました――この部屋を大掃除する気なんだ、と。


「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!?

 ぜ、全部がゴミじゃないから! 散らかってるけど、ゴミじゃないのぉー!?

 というか、この部屋の在り様はですね、私自身割と落ち着く所もあって……」

「紫遠……可哀想に――部屋の汚さに心まで汚染されたのね。

 うんうん、貴方も部屋同様に全部綺麗にしてあげるからね、身も心も……❤」

「ひぃぃぃっ!?」


 それからの数十分。

 私は来訪者とすったもんだの問答を繰り返し、妥協点を探る事となりました。


 ううう、こんなんで本題は無事相談出来るのか、スゴイ心配。

 ……でも、来てくれたのはとても嬉しいです、はい。

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