第3話 ただ星を追いかけて
「V、Tuber……? VTuber、なら――!?」
それは、引き篭もりになった私・
VTuberになったなら、なれたなら……一歩踏み出せるかもしれない。何かを変えられるかもしれない。
実際、外が怖くて外出もままならない今の私に挑戦できる数少ない事柄の一つだと思う。
だけど、即座にそれを全肯定できる程、私は楽観的じゃなかった――陰キャだもの私。
頭をブンブン思いっきり振りながら私は思う。
「――あ。いやいやいや、私に出来る訳ないよね、うん」
というか。ならってなんだ、ならって。
そんな簡単に出来る事じゃないでしょうがっ!――と思わず虚空にセルフツッコミを入れる私。
そういうの、VTuberというお仕事に対して失礼な考えだよね。
そもそも光莉ちゃんは『プロ』。
企業に所属しているVTuberで、音楽ライブとかもこなしてる人気な存在だったりする。
少なくとも、光莉ちゃんと同じ、なんて夢のまた夢、そのまた夢だ。
「それに……動機不順過ぎるし」
うん、投げ銭の流れを見て、VTuberになろうって思い浮かぶなんてどうかなぁ。
しかも初めて推しって言える存在になった、光莉ちゃんの配信を見てとか――あああ、ダメ人間ですみませんっ!
ただ、お金稼ぎが不純、という訳じゃないので、そこは悪しからず。
だって生きていく為にお金を稼ぎたいって考えるのは間違ってないと思うのです。
私の好きなヒーローも『お金は大事』って言ってたしね、うん。
「ううっ、ダメだぁ……」
思いを巡らせれば巡らせるだけネガティブな要素しか見つからない。
ふふふ、まるでブラックホールに飲み込まれてるみたいだなぁ……うふふふ。
やっぱり、私がVTuberなんて……そう思ってた時だった。
『ただ、星を追いかける』
ずっと再生されてた光莉ちゃんの配信アーカイブからそのセリフ――私の知っているセリフが聞こえてきた。
他ならぬ光莉ちゃんの声で。
「そ、それは!
『私の好きな特撮ヒーロー、星灯ステラマクスの中のセリフでね。
今も大好きで、ずっと大切にしてる言葉なんだ。
夜の闇に迷った時、寂しくても辛くても、そこに立ち尽くしたままじゃ何も変えられない、だから――』
「『顔を上げて、自分が一番綺麗だと思った星を、ただ只管に追いかける』!
ですよねぇ! うひょぉぉぉ!」
今! まさに! 星が見えましたよ!
自分も大好きなセリフを推しが語る――そこにある共感はまさしく、私に差し込んだ一筋の星光でした。
ですよねぇ! ですよねぇ……!
カァーッ! テンション上っがるぅー!(陰キャなりに)
たまたま飛んだアーカイブで、こんな状況にピッタリな言葉を聞けるなんて。
こ、これは運命なんじゃないでしょうか――!
動機とかそういうのは後で考えろ、
光莉ちゃんが指し示してくれた星を追いかけるんだ、という……いや、光莉ちゃんこそが私の星ッ!
それを目指せって事に違いない――これはもう挑戦するしかないですね、VTuberに。
瞬間、私の脳裏に光莉ちゃんから手を差し伸べられて、同じステージに立つ私の姿を幻視した(完全妄想)。
「ふふふ……はーははははは――ハーッハッハッハげほっごほぉっ!?」
「……紫遠ちゃん――お母さんはいつでも紫遠ちゃんの味方だからね……」(ホロリ)
ちなみにぶち上がり過ぎたテンションに私の陰キャ力が付いてこれずむせちゃって。
結果、私の奇声を心配して部屋を覗いた(勿論ノック済み)母様に気づきませんでした。
私がその事を知るのは随分先の話でございます、はい。
そうして、私はVTuberへの挑戦を決意した。
いや、まあ実際は我に返ると滅茶苦茶不安なんですけど……
それでも、こんなに色々重なるとやるしかないよね――不安だけど。
で、早速私はおっかなびっくり調べてみた。
配信用のソフト、マイク、Webカメラなどなどの、配信に必要な最低限のものを。
私が現在使用しているノートPCは結構最新なので、普通に配信するだけならこれ単品でも一応可能みたい。
仮に、ゲーム配信とかするのなら、そのゲーム……パソコンへの負荷次第で可能不可能が変わるだろうけど。
そういう基礎的な環境回りも多分凄く重要だよね、うん。
でも、VTuberになるなら、なにより優先して準備しなければならないものが一つある。
「うん、VTuberとしての姿、どうにかしないとね……」
云わばもう一人の自分、あるいは普段の自分とは違う『仮面』。
できれば拘りたいよね――そう思ってたんだけど。
『――ひとまずは2Dモデル、その後次第で3Dモデルを無料で作ってもいい。
だけど条件が一つある……【アストラ】を、源光莉を叩き潰してもらう』
「えええええぇっ!?」
その拘りの果てに、まさか、そんな事を要求されるなんて――世の中一体どうなってるんでしょうね、ええ。
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