第1話 その日、人生のヒカリに出会う
『うん、そうなんだよね。
ネットじゃネタシーンとか言われてるけど、私は普通に好き。
迫真の演技だったと思うんだ』
私・
綺麗な――女性の声だった。
なんと言えば良いんだろう。
すごく聞き取りやすくて心地良い、穏やかな日の光を思わせる声音だった。
直後視界に入ったのは、金と白が混ざり合う長髪の少女。
その頭上には天使の輪っか――とは形状が違う、似たようなニュアンスの多角形が重なり合った光輪が浮かんでいる。
白いコートを纏った彼女は時折表情を変えて、感情豊かに語っていた。
表情の滑らかな変化という意味ではヴァーチャルのアバターゆえの限界はある。
だけど目を輝かせたり、ハートマークにしたり、光輪の回転が早まったり、と感情表現の幅は普通の人よりも広い。
コロコロ変わるその様子を見てるだけで結構楽しいなぁ。
そんなVTuberの女の子の名前は――
どこかで名前は聞いた事があるけど、どこだったかなぁ。
まあ、それはさておき――ううっ、分かりみがスゴイっ!
私は好きな特撮作品の話をしてるから、
という理由でこの人の配信を見に来たんだけど……共感出来る所だらけ過ぎるぅっ!
『宿敵を封印した後の残心めいた余韻、いいよね』
うん、良過ぎです。
『飛び降りながらの変身がすごく良くて』
わかりますわかります。
『あのフォームかっこいいからもっと活躍見たかったなぁ。
劇場版ですごくよかったから尚更にね』
ううっ、私もそう思ってたんですよぉ!
そうして私はパソコン内で繰り広げられるトークに、うんうん頷いておりました。
リスナーさん達もノリノリで頷いたり質問したり……うう、楽しそう。
いや、その、今も私は楽しんでるんですが。
光莉さん、トークがすごく上手なんだよね。
拾ったコメントから展開して、リスナーさんに意見を聞いて共感して……。
リスナーさん達もそれが楽しいからか、我先にと興味を惹くようなコメントして、それがまた配信を盛り上げてる。
う、うーん、私もちょっとコメントしてみようかなぁ……。
恥ずかしいというか、そもそもこれまでこういう配信でコメントした事ないんだよね。
で、でも、こんなに意見が合う人ってリアルじゃ遭遇しないし、う、うううっ。
『初見です。女性で同好の士がいるとは思わず、思わずお邪魔させていただきました』
気づけば、私はいつの間にかそんな文章を、カタタッ!ターン!と勢いよく送信しておりました。
恥ずかしながら鼻息も荒かったですね、ええ。
いや、うん、かなりのコメントが溢れてるし、私のコメントなんて埋もれるよね。
なんとなくの気恥ずかしさもあって、そんな事を思っていた瞬間だった。
『あ、初見さん! いらっしゃいませ!
私も中々同じ趣味の女性に逢わないんですよ。
だから嬉しいなぁ、仲間ですね!』
光莉さんが、凄く嬉しそうにそんな言葉を口にした。
コメントの流れ、凄く速かったのに、私のコメントを拾ってくれた――?!
し、しかも、そんなに嬉しそうに笑ってっ……!
――ふふふ、布教しようとした妹・
「いや、私見ないから、そういうの。――はあ」
なんて、溜息と一緒にすげなくあしらわれたんで……
うう、涙が出て来たけど、思い出して悲しいのか嬉しいのかよくわかりません。
そこから光莉ちゃんは特撮番組のおすすめの仕方について話題を展開、
共通の趣味を語り合える人がいると幸せだよね、だから私も今幸せ、と笑顔で語っておりました。
『さっきの初見さんもそうなってくれてたら嬉しいな。』
「ぐふぉっ!?――な、なんて、優しい言葉を……って、え、えええっ!?」
直後、コメント欄に流れていくのは光莉ちゃんへの『投げ銭』。
この動画サイトでは配信者にコメントと一緒にお金を贈れるシステムがあるんだけど……。
今まさにそれが怒涛の勢いで展開されております。
金額は幅広く、高いものになると数万円で、うわ、うわぁ……け、経済が回ってるぅ―!?
こういう文化というか世界というかがあるのは知ってたけど、実際に見るとすごいなぁ。
そうして私が圧倒されていると、いよいよ配信は締めに入っていた。
『じゃあ、今日はこの辺りで。
もし良ければ高評価とかチャンネル登録をお願いしますね』
そう言うと画面の中の光莉ちゃんが可愛くウィンク。
それは他でもない、私に向けられてるような気がして(錯覚)――ゆえに、私の取るべき行動は一つだった。
「高評価とチャンネル登録しますぅ―!!」
我ながら思う……超絶ちょろい、と。
でも、そんな人間が世界に一人くらいいてもいいのではないでしょうか私は良いと思います(早口)。
こうして、この日私は光莉ちゃんのリスナーの一人となった。
そして、これが私の人生の転換点になったんだよね……奈落的な意味でも、天国的な意味でも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます