9月20日 ノンちゃん(2)

 昨日の続きです。


「私ね、広瀬君のことが好きなの」


 昨日私はノンちゃんにそう告白しました。


 ノンちゃんは二人でいるときはひょうきんな一面を見せてくれますが、どちらかといえば奥ゆかしく、大勢の前では自己主張しないところがありました。


 それは美徳ではありますが、勝負の場においては欠点でもありました。私は今ひとつ真剣味に欠けて見えるノンちゃんに、新人戦で勝ちたいと思っていることを伝えるべく告白したのでした。


 しかしその実、いつかのあの日にノンちゃんの肌に触れ、胸を高鳴らせた自分への心の楔として宣言したかったのかもしれません。


「だからね、新人戦では、いいところを見せたいの」


 私の言葉を聞いたノンちゃんは、カッと顔を赤くし、もじもじし、「うん」と答えました。きっとノンちゃんの初恋はまだだったのでしょう。ノンちゃんは私の言葉に大いに照れて、ソワソワと私の顔を伺い見たのでした。


 私の親友のノンちゃんは、少し変わっているけれど、かわいくて魅力的で、とってもウブな女の子でした。


 そして、昨日はいつも以上に熱心に練習し、疲れて日記の途中で寝てしまったというわけなのです。

 今日もたくさん練習した帰り道のバスでのこと、


「好きになるってどういう感じがするの?」


 とノンちゃんに尋ねられました。

 ノンちゃんはそれを聞くのでさえやっとのことといった様子で、私は可愛いなあと思い、自分がノンちゃんより少しお姉さんになったような気がしました。


「あのね、私、広瀬くんのことを思うと、体がバラバラになりそうになるの」


「バラバラ?」


「会いたいし、話したいし、私のこと、好きになってほしいの」


 ノンちゃんは私の目をじっと見つめ、ゴクリつばを飲み込みました。


「でも、会わず話さずだと変わらない関係が、変わってしまうかもしれないでしょう。それが良い方に変わるか悪い方に変わるかわからないから、怖いの」


「難しいわ」


 ノンちゃんはそう言って、私の言葉を反芻するように黙りこくってしまいました。バスがいつもの段差で弾み、私達のお尻もポンと弾みました。


「新人戦、頑張ろうね」


 ノンちゃんはそう言って手を差し出し、


「よろしくね」


 とノンちゃんの手を握り返しました。ノンちゃんの手は暖かく、私に力を与えてくれました。そうして、ノンちゃんは停留所で降りていきました。


 明日はいよいよ新人戦です。

 今日は早く寝ようと思います。

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