子ども食堂 二

全員が席に着席した事を確認すると、高橋さんの、「じゃあ、皆、手を合わせて…… いただきます」という言葉に続いて皆で、「いただきます!」と、言って食事が始まった。


「私、カレーが好きなんだ!」


「そうなんだ。お代わりもあるから沢山食べてね」


「うん、後でお代わりする!」


燈ちゃんとのやり取りにほのぼのしていると、隣から杉崎さんの声が聞こえてきた。


「ほら、急いで食べると喉に詰まってしまいますよ」


声がする方を向くと、杉崎さんは隣に座った男に水を飲ませていた。

すると、今度は杉崎さんは振り返り、別の子に話し掛けた。


「サラダを食べると背が大きくなりますよ」


杉崎さんが子どものお世話をしている様子をしばらく眺めていると視線に気が付いたのか、杉崎さんがこちらを向いた。


「倉橋君、どうかしましたか?」


「いや、杉崎さんが子どものお世話が上手で、お母さんみたいだな、と思って……」


「そ、そうですか? お母さんみたいって言われると恥ずかしいですが、ここのお手伝いももう長いですから、慣れ、ですかね」


僕と杉崎さんのやり取りを聞いていた周りの子ども達が、「葵お姉ちゃん、お母さんだ!」、「葵お母さん!」と、盛り上がり始めた。


杉崎さんはその様子を見て微笑むと、「ほらほら、あまり騒ぎ過ぎないようにして下さいね」と、周りの子ども達を落ち着かせている姿を見て、改めてお母さんみたいだな、僕は思うのだった。



賑やかな食事が終ると子ども達はそれぞれ家に帰って行った。

子ども達が帰ると、僕達は役割分担をして、テーブルを拭いたり、皿を洗ったりして、後片付けを終わらせた。


「葵ちゃん、聡太君、お疲れ様! 聡太君、今日はどうだった?」


帰りの準備をしていると、高橋さんに僕は声を掛けられた。


「子ども達と関わる機会が今まで無かったので、とても楽しかったです。少し、あの元気には圧倒されましたけど」


僕の言葉に高橋さんは微笑むと、「子ども達は皆、新しく来てくれた人が大好きだからね。また、良かったら手伝いに来てね」と、言った。


僕は、「はい、是非」と、高橋さんに言葉を返すと、僕と杉崎さんは外に出た。


歩き出してすぐに僕は杉崎さんに声を掛けた。


「杉崎さん、今日はありがとう。とても楽しかったよ」


「お願いしたのは私ですからお礼を言うのは私の方ですよ。ですが、そう言っていただけると嬉しいです」


「杉崎さん、子どもの扱いが上手だったね」


「もう、お手伝いを初めて一年経ちましたからね」


「そんなに! すごいね」


「……私なんかまだまだですよ。未だに学ぶ事が多いです」


すると、杉崎さんはしばらく黙った後、静かに口を開いた。


「倉橋君、月曜日の放課後、家庭科室に来て頂けませんか? 相談したい事があるんです」


「相談? 分かった、良いよ」


そうして歩いていると分かれ道に差し掛かった。


「倉橋君、今日はありがとうございました。また明後日学校で」


「うん、またね、杉崎さん」


そうして、僕は杉崎さんの後ろ姿を見送ったのだった。

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