子ども食堂 一
子ども食堂に手伝いに行く当日、僕は学校前で杉崎さんと待ち合わせてからその場所へ向かった。
入り口から中に入ると、中年の女性が笑顔で迎えてくれた。
「葵ちゃん、いつもありがとうね。こっちの子が葵ちゃんが言ってた子?」
杉崎さんはその言葉に頷くと、「私の同級生の倉橋君です」と、紹介してくれたので、僕は、「初めまして、倉橋聡太です」と、言って頭を下げた。
「こちらこそ、始めまして。この子ども食堂『かがやき』をやっている高橋百合子と言います。聡太君、料理が上手なんだって?」
「杉崎さん程ではないですが、役に立てるよう頑張ります」
僕の言葉に杉崎さんは、「何を謙遜しているのですか」と、苦笑いを浮かべる。
高橋さんはそんな僕達のやり取りを見て、「二人とも仲良しね」と、言って微笑むのだった。
中に入ると様々な年代の男女が数人居て全員ボランティアだと杉崎さんに教えてもらった。
僕が、「よろしくお願いします」と、挨拶を終えると、高橋さんの号令の下、早速料理に取り掛かった。
本日はメニューはカレーライスとの事だった。
料理自体はそれ程難しい物ではないが、振る舞う人数が多い為、一つひとつの作業に時間が掛かる。
僕は今、大量のじゃがいもの皮を杉崎さんと剥いていた。
「これを杉崎さん達は毎回やっているのか。すごいね」
「そんなに頻度が多いわけではないですけど、この量は毎回ほぼ力仕事ですね」
確かに材料を運ぶだけでも一苦労だろうし、立ちながらの作業にもなるから、体力も必要になってくるるだろう。
「でも、どうしたら効率良く作る事が出来るかとか、味を均等にする工夫が学べるので、スキルアップに繋がっているとは思っていますよ。それに何より子ども達が笑顔で食べてくれる事が嬉しいですね」
「確かに、それなら子ども達の笑顔を想像しながら頑張るよ」
僕の言葉に杉崎さんは、「その意気です」と、言って微笑むのだった。
カレーライスが出来上がると、子ども達が来る時間が迫っていた。
高橋さんの指示で受付担当や子どもの対応の担当に分けられた。
僕と杉崎さんは受付を終えた子ども達の面倒を見る担当になった。
受付の時間が終わるまでは自由時間で、子ども達は遊んだり、宿題をしたり等して過ごすとの事だった。
やがて受付の時間になると子ども達が続々と訪れて受付を済ませていく。
子ども達は僕を見ると、「新しいお兄さんだ!」、「こんにちは〜」と、声を掛けて来てくれた。
僕は多少子ども達の勢いに圧倒されながらも、「今日から手伝いに来たんだ」、「こんにちは、よろしくね」と、言葉を返していく。
「ねぇねぇ、お兄さん、お名前はなんて言うの?」
すると、小学生低学年くらいだろうか、小さな女の子が僕に声を掛けてきた。
僕は視線の高さを女の子に合わせると口を開いた。
「僕の名前は倉橋聡太って言うんだ」
「颯太お兄さんって言うんだね! 私は立花燈って名前なんだ」
「燈ちゃん、よろしくね」と、僕が言うと燈ちゃんは、「宿題を一緒にやろう!」と、言って僕の手を引っ張ってきた。
僕は近くにいた杉崎さんに視線で、行って良いかどうかを尋ねると、杉崎さんは頷いてくれた。
僕は、「分かった、一緒にやろう」と、答えると燈ちゃんは嬉しそうな顔をして、「こっちこっち」と、案内をしてくれた。
席に着くと、燈ちゃんは鞄から算数ドリルとノートを取り出した。
「今日は算数の宿題が出たの」
そう言って見せてくれたページには掛け算の問題があった。
「今日、学校で七の段をやったんだけど、難しくて……」
「大丈夫、一問ずつ、一緒に解いてみよう」
不安そうな表情の燈ちゃんに、僕は明るく励ました。
「うん、頑張る」と、言うと燈ちゃんは問題に取り組み始めた。
「7×1が7で、7×2が14、7×3がえっと……」
「14+7だから?」
悩む燈ちゃんに僕はヒントを出した。
「……21!」
閃いたという表情で燈ちゃんは元気に答えた。
その調子で燈ちゃんは問題を解いていき、宿題を終わらせる事が出来た。
「終わった〜」と、疲れた様子の燈ちゃんに、「お疲れ様」と、労っていると、「ご飯にするよ〜」と、呼び掛けた。
「やった、ご飯だ!」と、喜ぶ燈ちゃんと共に僕はテーブルに向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます