杉崎葵編
杉崎さんへのお礼
「千尋の言った通り、美味しいね!」
「でしょ? 倉橋君の料理はどれも美味しいけど、ハンバーグは格別なんだ」
七月に入って段々と暑くなってきた、ある日の放課後、倉橋食堂に飯田さんと深雪さんが来店していた。
あれから、深雪さんは飯田さんとメニューに気を付けながらも食事を楽しんでいるとの事だった。
僕から見ても顔色が良くなったように感じる。
今日は二人が我慢し過ぎも良くないという理由で決められたという好きな物を食べる日らしく、飯田さんの提案で倉橋食堂に食べに来たとの事だった。
二人とも良い笑顔で食べ進め、食事が一段落すると、深雪さんが口を開いた。
「ところでさ、気になっていた事があるんだけど」
「うん、何?」
飯田さんが相槌を打つと、深雪さんは一呼吸置いた後、再び口を開いた。
「……二人って付き合っているの?」
深雪さんの突然の発言に僕と飯田さんは固まってしまった。
「……いやいや、付き合っていないよ!? どうしてそう思ったの?」
「どうしてって、言われても、二人はよく一緒にいるみたいだし、仲良さそうに見えたら、そう考えるのが普通じゃない?」
「確かに、最近は深雪さんのお弁当を作る為に一緒にメニューを調べに行ったり、買い物に行ったりしたよ」
「そうそう、深雪の為に協力してくれてたの」
僕に同意した飯田さんの言葉に納得したのか、「ふーん」と、つまらなそうに呟いた。
「千尋の恋バナが聞けると思ったのに」
深雪さんの言葉に飯田さんは頬を掻きながら、「ま、まぁ、そのうちね」と、言うと笑って誤魔化すのだった。
次の日の放課後、僕は家庭科室を訪ねた。
「あれ、倉橋君、今日はどうされたんですか?」
家庭科室に入ると、杉崎さんが不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「深雪さんの件でお礼を言わなくちゃと思って来たんだ」
「千尋にとても感謝されましたが、私は特に何もしてませんよ?」
「そんな事ないよ。栄養についての話がとても勉強になったよ。だから、何か出来る事があったら、お礼をしたいのだけど、僕に何か出来る事はある?」
杉崎さんは、「うーん、そうですね」と、しばらく考えると、「あっ、そうだ」と、言って手を叩いた。
「私、実は子ども食堂でボランティアをしているです」
「子ども食堂? ここら辺にあったんだ」
「はい。それで、人手が足りないので、可能であればお手伝いをお願いしたいのです」
僕は頷くと、「勿論、手伝うよ」と言った。
僕の言葉に杉崎さんは嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます! 今週の土曜日なんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」と、僕が答えると、「良かった! 子ども達も喜ぶと思います」と、言って微笑むのだった。
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