あなたと食べたい
僕と深雪さんが飯田さんの所まで行くと、飯田さんが静かに口を開いた。
「深雪、来てくれてありがとう。騙す様な形になってごめんね?」
「……別に。私も何も言わずに距離を置いてしまったし……」
「私、深雪にお弁当を作ってきたんだ。だから、こっちに座って一緒に食べよう?」
深雪さんの言葉に飯田さんは微笑みながら頷くと、自分が座っている隣をポンポンと優しく叩いた。
深雪さんがコクリと頷くと飯田さんの隣に座ると、飯田さんは深雪さんと僕にお弁当を手渡してくれた。
僕がそのお弁当を持って、飯田さんと深雪さんの隣にあるベンチに腰を下ろすと、飯田さんが手を合わせた。
僕と深雪さんも手を合わせると三人で、「いただきます」と、言った。
蓋を開けると、「あっ、ハンバーグだ」と、深雪さんが呟く。
「美味しそうでしょ? 中身も驚くと思うよ。食べてみて?」
飯田さんの言葉に深雪さんは頷くとハンバーグを一口食べた。
「美味しい。……あっ、野菜が入ってる」
深雪さんの反応に飯田さんが嬉しそうな表情を浮かべる。
「そうなの、野菜も食べれるし、野菜が入っている分、使っているひき肉の量が少ないからとてもヘルシーなんだ」
飯田さんが説明をしている間も深雪さんの箸は止まらない。
飯田さんがその様子を笑顔で見守っていると、深雪さんが口を開いた。
「……このハンバーグは千尋が考えたの?」
その言葉に飯田さんは首を横に振った。
「作ったのは私だけど、作り方を教えてくれたのは倉橋君だよ!」
飯田さんはそう言って僕に視線を向けた。
「お店のメニューを参考にしただけだよ」と、言うと、深雪さんは驚いた表情で僕を見た。
「君って料理が出来たんだね。ただの暑苦しい男子だと思ってた」
暑苦しい男だと言われ、どう言葉を返して良いか分からず、苦笑いをしていると、深雪さんが口を開いた。
「……千尋だけではなく、他の人も手伝ってくれたんだね」
「うん、皆、深雪に美味しくご飯を食べて欲しいって気持ちで手伝ってくれたんだよ」
「……少し食べる量を減らそうって何度も思った。でも、その度に上手くいかなくて、自制出来ない自分が悪いと思ってた」
深雪さんは俯くと静かに呟いた。
飯田さんはそんな深雪さんを静かに見守っている。
「運動も何回もチャレンジしたの。でも、その分食べてしまう自分が嫌だった」
そう言うと深雪さんは飯田さんに顔を向けた。
「私は千尋が羨ましかった。私とほぼ同じ量を食べているのに太らない。私は千尋に嫉妬していたのに、千尋は私に優しくしてくれた。それが、苦しくて、なんで私は心まで醜いのだろうと思った」
深雪さんはそこで言葉を切った後、大きく息を吐いた。
「だから、私は中途半端が駄目なんだと思ったの。好きな食事も大好きな千尋も自分から遠ざけてしまえば私は生まれ変われると思ったの。でも、残ったのは辛いって思いと、千尋に対する嫉妬の気持ちだった」
深雪さんが言い切った瞬間、飯田さんが抱き締めた。
「一人にしてごめん。辛かったね」
飯田さんの言葉に深雪さんは首を横に振った。
「千尋は何も悪くないよ。遠ざけたのは私だもん」
「深雪の心が弱っていたのは知っていたのに、最後まで向き合えなかった私のせいでもあるよ」
飯田さんは僕の方を見ると言葉を続ける。
「でも、今はこんなに素敵なメニューを教えてくれる人がいるし、私もご飯も運動もとことん向き合うよ! だから……」
そう言うと飯田さんはお弁当を少し上に上げた。
「また、笑って一緒にご飯を食べよう?」
「……うん!」
深雪さんはそう言ってハンバーグを一口食べると笑顔になった。
「……やっぱり、千尋と食べると美味しい」
「……私もそう思う」
そう言って二人は目を合わせると素敵な笑顔で笑った。
僕はハンバーグを口に入れた。
笑い合う二人を見ながら食べるハンバーグはとても美味しかった。
☆☆☆
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
今回で飯田千尋編は終了です。
複数のヒロインが登場する作品は初めてなので、感想を頂けると、今後の参考や励みになります!
「お腹を空かせた女子にご飯を作ってあげたら、僕の家の食堂の常連になった」は、まだ続きますので、今後も是非読んで下さい!
宮田弘直でした。
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