ダイエットトレーナー就任

学校に着いた僕達は家庭科室に訪れていた。


「では、お疲れだと思うので、若菜と千尋は座って休憩していて下さい。すぐに作りますので」


杉崎さんは、二人に伝えると、僕の方を見て、口を開いた。


「そうしたら倉橋君はこのお野菜を洗っておいてもらえますか?」


そうして、杉崎さんは僕に野菜を差し出して来た。

二人との扱いに差を感じた僕は思わず口を開いた。


「杉崎さん、僕も走って疲れているんだけど……」


僕がそう伝えると杉崎さんは、「倉橋君ならこれくらい大丈夫です。このお野菜を洗っておいてもらえますか?」と、返してきた。


「いや、だから、立っているのも結構辛いんだけど……」


僕がもう一回訴えてみるが、「倉橋君なら出来ます。さぁ、このお野菜を洗っておいてもらえますか?」と、返ってくるだけだった。


「……前もそうだったけど、杉崎さんは不都合な事があると、こっちの話を聞いてくれなくなるんだね」


僕が項垂れていると、それを見かねたのか、三島さんが口を開いた。


「こうなった、葵は面倒臭いから言う事をさっさと聞いた方が早いよ」


すると三島さんの隣で机に突っ伏していた飯田さんも口を開いた。


「その通りだよ、倉橋君。そんな事より早くご飯を……」


声が弱々しくなってきていて、飯田さんの体力も限界のようだ。

確かに、これ以上やり取りをしても仕方がないと思い、僕は杉崎さんから野菜をもらうと洗い始めるのだった。


そうして、僕と杉崎さんが協力して作った料理は肉野菜炒めだった。


飯田さんは肉野菜炒めを見ると少し元気を取り戻したようで、「早く食べよう!」と、待ちきれない様子だ。


僕達は手を合わせ、「いただきます」と、言うと食事を開始した。


飯田さんは早速、肉野菜炒めを一口食べた。


「うん、美味しい! この味は、葵が味付けしたんだね」


飯田さんが当たり前の様に言った言葉に、「ええ、そうです。よく分かりましたね」と、杉崎さんが驚いて言葉を返す。


一口でよく分かったな、と僕も驚いていた。


そんな僕と杉崎さんの反応に、気を良くしたのか、飯田さんは上機嫌で、「二人には沢山食べさせてもらっているからね! いつもありがとう!」と、言うととても良い笑顔で再び肉野菜炒めを食べ始めるのだった。



食事が済むと話題は今後の飯田さんのダイエットの進め方についてになった。


ダイエットトレーナーの三島さんが口を開く。


「平日は学校があって大変だとから、取り敢えず、今日くらいの距離を土日で走れば良いんじゃないかな」


「えっ、それで良いの?」


毎日走らされると思っていたのか飯田さんは驚いて言葉を返した。


「千尋の場合、健康に害を及ぼす程太っている訳ではないし、どちらかというとやり過ぎて千尋がもっと運動を嫌いなっちゃう方が怖いから、これくらいで良いと思うよ。千尋には運動をする習慣を身に付けてもらいたいからね」


三島さんが思ったより説得力のある事を言うので、僕はとても感心していた。


飯田さんも同じ気持ちの様で、「おお!」と、嬉しそうな様子だ。


「確かにそれなら私でも続けられそう! ありがとう、若菜! 私のダイエットトレーナーは若菜しかいないよ!」


褒められた三島さんの表情はなんだか申し訳なさそうだ。


「あー、その事なんだけど、今日はたまたま休みだったから顔を出せたけど、いつもは土日に陸上部の練習があるから次から参加出来ないんだ」


三島さんは、そう言うと僕を指差した。


「というわけで、聡太を二代目ダイエットトレーナーに指名するよ」


そうして、僕のダイエットトレーナー就任が決まったのだった。




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