ダイエット作戦

そんな騒動があった週の土曜日の朝、僕、飯田さん、三島さん、そして杉崎さんの四人はジャージ姿で高校近くの公園に集合していた。


目的は飯田さんのダイエットだ。

その為にダイエットのトレーナー役として三島さんが呼ばれ、杉崎さんは飯田さんがサボらないように監視する役だ。


僕には関係が無い事だと思っていたのだが、飯田さんに、「私をこんな風にした責任を取って下さい!」と周りのお客さんがギョッとしてこちらを向く様な誤解を招くような発言に加え、恐怖を感じる飯田さんの圧力に屈し、ここに来る事になってしまった。


まだ、何もしていないのだが、飯田さんの顔は既に沈んでいる。


「葵〜 やっぱり走りたくないよ〜」


飯田さんが駄々をこねるが杉崎さんは首を横に振って取り合わない。


「私も運動が得意では無いので千尋の気持ちはよく分かります。でも、これは試練なんです! これを乗り越えて美味しいご飯を食べましょう!」


「うう〜 美味しいご飯は食べたいけど〜」


「千尋、初日から飛ばさないから大丈夫、少しずつスポーツの楽しさを知っていこう。そうすれば、すぐにタイムが一秒縮まるよ!」


なお嫌がる飯田さんの肩に手を置いて、三島さんが明るい口調で励ます。


「何のタイム!? 若菜、私はそんなに本格的にスポーツを始める気は無いよ!?」


三島さんが、「えっ、そうなの?」と呟く中、飯田さんが、「それに……」と話を続ける。


「それにスポーツならもうしているよ! 食事という名のスポーツをね!」


「……思考がフードファイターだよ、飯田さん」


胸を張って言い切る飯田さんに僕は力無く言うのだった。



「これじゃ、いつまで経っても始まりません!」との杉崎さんの言葉で、ようやくダイエットの為の運動が始まった。


「いきなり動かすと怪我をしやすいから、しっかり伸ばしてね」


三島さん主導の元、僕らはまず準備体操から取り組んだ。

僕も運動が得意ではないから、怪我をしない為に念入りに伸ばしていく。

しばらくしてから、いよいよ走る時が来た。


「初日だからゆっくり走ればいいからね。辛くなったら休憩しても大丈夫! ただいきなり止まると良くないから、少しずつペースを落としていってね」


三島さんが注意事項を説明し終えると、杉崎さんが自転車を押して来た。


「あれ、杉崎さん、自転車に乗るの?」


僕が聞くと杉崎さんはコクリと頷いた。


「はい、私は水を渡したり、励ましたりしながら、応援します。それに皆疲れていたら何かあった時大変ですから」


杉崎さんの話を聞いていて、これは運動を回避するチャンスなのではないか、と思った。


「確かにその通りだね。そうしたら、家が近いから僕も取ってくるよ」


そう言って、動き出そうとする僕の肩に手が置かれる。

振り返るとものすごい圧力を身に纏って、ニッコリと笑顔を浮かべる飯田さんがいた。


「何故? 自転車の人は一人で充分だから倉橋君も走るよ?」


僕はその恐怖を前に頷くしか選択肢はなかった。



その後は途中休憩を挟みながら一時間程走った。

終わった後、僕と飯田さんは公園の原っぱで大の字になっていた。


「カロリーが足らない、カロリーが足らないよ〜」


飯田さんは言動がカロリーの妖怪みたいになっていた。


「少しずつ成果出てきて走る事がどんどん楽しくなるよ!」


三島さんは相変わらず元気そうだ。


「皆、お疲れ様でした。頑張ったご褒美にお昼ご飯を作りますので、学校に行きましょう!」


杉崎さんが言った瞬間、「カロリーだ!」と言って飯田さんが立ち上がった。


「さぁ、皆行くよ!」


その飯田さんの号令の下に僕達は学校に向かうのだった。

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