三島さんとお約束
飯田さんと三島さんが訪れた次の日の夕方。
僕がお客さんに料理を提供していた時、お店の扉が開いた音がした。
僕が、「いらっしゃいませ」と、言いながら振り返るとそこには疲れた様子の三島さんが立っていた。
取り敢えず、三島さんをカウンター席に誘導すると、僕は水を提供した。
「三島さん、疲れた様子だけど、どうかした?」
すると、三島さんは大きく息を吐いた。
「テスト勉強をしていたんだけど、全然分からなくて、疲れちゃったから休憩しに来たんだー」
「それは大変だったね」と、僕が労うと三島さんは、「うん」と頷き、メニュー表を指差した。
「昨日、千尋が食べていて美味しそうだった生姜焼き定食を注文しても良い?」
「勿論、今すぐ作るね」
そうして、「おまちどうさま」と言って生姜焼き定食を提供すると三島さんは、「いただきます」と、言って勢い良く食べ始める。
その美味しそうに食べる様子を嬉しく思いながら眺めていると、一つ気になった事を思い付いた。
「三島さん、テスト勉強が大変だったら、飯田さんに教えて貰えば良いんじゃないかな?」
飯田さんは学年トップの学力があるから教えてもらえるはずだ。
しかし、その言葉に三島さんは首を横に振った。
「千尋はね、教え方が感覚的というか、とにかく下手なの。しかも、千尋の部屋にはお菓子が常備してあって、つい食べちゃうから全然テスト勉強が進まないの」
沢山食べる飯田さんの事だ、お菓子が常備してある部屋の様子は簡単想像出来る。
すると、僕らの会話を見守っていた母が口を開いた。
「それなら、聡太と勉強すれば良いじゃない」
その言葉に僕は驚いた。
「でも、店の手伝いが……」
「何を言っているの、学生の本分は勉強でしょ? テストの一週間前くらい勉強しなさい」
僕が話している途中で母がピシャリと言い放った。
そのやり取りを見ていた三島さんは僕に視線で、どうすれば良いのか、と訴えかけていた。
ここは母の言う通りにするしかないだろう、と思った僕は三島さんの方を向いて口を開いた。
「三島さんが良かったら、一緒にテスト勉強をしようか」
「良いの? ありがとう!」
「場所は聡太の部屋を使って良いからね」
母の一言で僕の部屋で勉強会が開催される事になった。
「聡太、行こう!」
次の日の放課後、三島さんが僕のクラスに迎えに来た。
その言葉に反応したのは飯田さんだ。
「あれ? 若菜、今日は倉橋君の所へ食べに行くの?」
三島さんは首を横に振った。
「行くには行くけど、勉強しに行くんだ」
飯田さんの目が光った。
「成程、その手があったね。勉強を頑張った後に美味しいご飯、最高だよ。私も行く!」
一人だけ目的が違うような気もするが、こうして勉強会のメンバーが三人になったのだった。
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