フードファイター飯田
放課後、僕と飯田さんは二人で倉橋食堂に向かっていた。
「倉橋食堂にはどんなメニューがあるの?」
「唐揚げとかハンバーグとか良くある料理かな。でも、リクエストがあったら作ったりもしているよ」
「良いね、想像したらお腹が空いてきたよ」
「父さんと母さんは料理が上手だから、期待して大丈夫だよ」
「昨日の倉橋君のチャーハンを食べたら他のメニューも美味しいのは分かっているから期待しかないよ」
話していると倉橋食堂に着いた。
扉を開けると、「いらっしゃいませ!」と声が聞こえ来る。
「聡太、おかえり。……おっ、昨日のお嬢ちゃんか。どうした? また飯を食べられなかったのか?」
飯田さんは父のその質問に首を横に振った。
「いえ。まず、昨日はありがとうございました。それでお礼に今日はご飯を食べようと思って来たんです」
それを聞いた母が声を上がる。
「そんな気を使わなくて良いのに、わざわざありがとうね」
すると、飯田さんは頬を掻きながら口を開いた。
「正直に言うと私が食べたいという気持ちが強くて…… それで、まずはハンバーグ定食を頂いて良いですか?」
その声に父が反応をする。
「勿論、少し待っていてくれ」
父はそう言うと調理に取り掛かった。
僕は飯田さんが言った、「まずは」が気になったが、笑顔で父の調理の姿を見ている飯田さんを見て、今質問をするのも野暮だろうと思った。
「はい、おまちどおさま」と言って、カウンター席に座った飯田さんの目の前にハンバーグ定食が置かれた。
飯田さんは手を合わせて、「いただきます」と言うと早速ハンバーグに箸をつけた。
「ハンバーグは身がぎっしりなのにデミグラスソースとしっかり絡み合っていてとても美味しいです!」
コメントがまるで食レポのようだ。
しかし、それよりも僕は別の箇所に注目をしていた。
飯田さんはとても美味しそうに食べるのだ。
まるで一口一口心の奥底から食事を楽しんでいるかのようだ。
かつてこんなに楽しそうに食事をする人を見た事がない。
その姿に僕はつい見惚れてしまう。
僕の両親も満足そうな表情で飯田さんの食事の様子を見守っていた。
美味しそうにハンバーグ定食を食べていた飯田さんだが、次の瞬間驚くべき事を口にした。
「そうしたら、次に唐揚げ定食をお願いします」
飯田さんがそう言った瞬間、僕と両親は一瞬固まった。
僕は恐る恐る口を開いた。
「飯田さん、念の為に確認をするけど、唐揚げの単品ではないよね」
僕の質問に飯田さんは笑顔で頷く。
「お米は全部食べてしまったし、お味噌汁も美味しくてもう一回飲みたいから定食でお願いします」
その余裕な表情から察するにまだ食べられるのだろう。
父も同じ様な判断なのか、一つ頷くと口を開いた。
「残さないなら問題は無い。美味しく沢山食べる事はとても良い事だ。少し待ってな、すぐに作る。聡太、手伝ってくれ」
僕は頷くと厨房に入った。
しばらく時間が経った時、「はい、おまちどうさま」
「ありがとうございます! この唐揚げ、衣がサクサクで美味しい!」
そう言って、ハンバーグ定食と変わらない早さで半分程食べ進めた時だった。
「すみません、焼き魚定食をお願いして良いですか?」
僕と両親は流石に慌てた。
「飯田さん、流石に止めておいたら?」
それに対して、飯田さんは笑顔で首を横に振った。
「全然大丈夫だよ。むしろ、まだ食べたいくらい」
その発言を聞いて父は黙って魚を焼き始めた。
結局、飯田さんは焼き魚定食もペロリと食べ終え、ようやく食事が終わったのだった。
飯田さんは最後までとても美味しそうにご飯を食べていて、僕はとても嬉しく思った、しかし、それと同時に飯田さんの謎のポテンシャルの高さに恐怖を抱くのだった。
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