第2話

私は急いで逃げる。

そのままダンジョンの転移門に到着し地上へとワープする。

ついでに配信も切り、二本目の剣をアイテムボックスに戻す。そして他の冒険者に見つからないよう帰路につく。


「ちょっと!そこの貴女!」


誰かが引き留めてきたが私は無視してそのまま自宅へと向かった。


「あの子よね?」


「そう…ね。ミカの配信で見た子よ。あのフードに剣に。」


きっと私を呼んでいる訳では無いだろう。多分きっと。

「謝礼金も取りにいけないし…くたびれ損だよ…ハァ。」


私はため息をつく。

ギルドに謝礼金を取りに行く時、冒険者カードというのを提示しなければいけない。

冒険者カードには様々な便利機能があったりするのだがその一つに「救難信号を出した人間を助けた場合その助けた人間の名前が謝礼金を受け取るまでずっと出続ける」というのがある。

これは救難信号を出した人間を救った証明になるので普通なら便利な物なのだが目立つのを避けたい私に取ってはただ邪魔な機能なのだ。


「まぁ命優先だよね。」


私はそう割り切り、どうせならとスーパーで炭酸飲料を買い家に帰る。

貯蓄は後十数年は贅沢して暮らせる程あるのでお金はそこまで気にすることでもないだろう。


漸く自宅に着いた。私の自宅は築七十年のポロアパートだ。

ジュースを飲みながら自身の長い髪の毛を弄る。

数年前、私は朝目覚めたら超ロリ銀髪碧眼美少女になっていた。本当に、いきなりだ。普通なら病院か何かに駆け込むだろうけど、人体実験とかされそうで怖かったしなにせ身分を証明するものが無いときた。おかげで病院だの色々な所に行けなくなってしまったわけだ。

このまま会社に行っても自分がここで働いてるんですと言っても信じて貰えないだろう。だって以前とはまったくと言って良い程別人だし。

そこで以前から憧れていた冒険者に成ろうと思ったのだ。

いや最初は本当に苦労した。こんな美少女なので目立つ。とにかく目立つ。私はなるべく目立ちたくないタイプの人間だ。しかも初級ダンジョンでしかレベルを上げれないんだから人が多いのなんの。

まぁ今はレベルも152になり安定した生活を送れてたりする。というかむしろ会社に勤めていた時よりも稼げている。

配信の収益は微々たる物だが、やはり素材売却が大きい。

私が倒していたコウモリ一匹で10万とか稼げてしまう。あれは上級ダンジョンの最下層で湧く上質な素材なので需要も高いお陰もある。


「やっぱり二刀流は目立つよな。」


私はテーブルに置いた二本の剣を眺めそう思う。

私の本来のスタイルは二刀流と言ったがそれには訳がある。私が初めて初級ダンジョンに入った際目の前にこんな画面が出てきた。


『ユニークスキルを獲得しました!

ユニークスキル「二刀流」が解放されます!』


とかいう訳の分からない謎テロップが出てきた時は自分の目を疑った物だ。

本来ユニークスキルは一億人に一人発現するかどうかとかいうクソ運ゲーであり日本にもユニークスキル持ちは私を除き三人しかいない。


そのユニークスキル持ちは一人は国お抱えの冒険者だったり、一人はダンジョン配信者事務所の会長を勤めていたり…とまぁユニークスキルを手に入れるとそれはもう薔薇色な人生を送れる。


でも私はこのスキルを人前では基本出さない。

目立つからだ。私は別に国お抱えの冒険者になりたいとかそういう欲望はない。偶に美味しい物を食べてゆっくり自分の時間を過ごすのが好きなのだ。



「ミカって人、無事に帰れたのかな。」


ダンジョンに潜る場合は四人くらいのパーティーを組むのが当たり前である。

多分一人だけトラップにひっかかったのだろうが無事なのか心配だ。折角助けたのに死なれてしまってはくたびれ損になってしまう。


そういえば、二刀流を人目がある所で使ってしまった。完全に戦いに集中して忘れていたが多分ミカはライブ配信をしていた。即ち大勢の人間に私の二刀流がバレてしまったと言う事だ。


「あー……」


完全にやらかした。いや多分大丈夫だろう。

でも明日からは念の為色の違うフードを被ろう。

ふと私は嫌な予感がして先ほどの自身のライブのコメント返信を見る。

場面は私が二刀流で戦い出した辺りだ。


【ロイちゃんやばくない?】


【これ間違いなくユニークスキルだよな】


【でもなんで隠してるんだろ、こんなん持ってるってだけでもいろんな所引っ張りだこなのに】


【おーすミカたんの配信から来たー】


【待って同接人数エグいことになってる】


【やっば!?いつものロイちゃんなら十数人とかなのに今一万人超えてるって!】


【二刀流トレンド入りしてるぞ】


【ミカたんのピンチもトレンド入りしてる】


【おいこのライブ急上昇一位のライブなんだが


【おい特定班求む】


【ミカたんの配信に声入ってる】


【まじで?】


【ちょーロリ声でくっそ可愛かったぞ】


【いやショタかもよ?】


【いやいや……】


そこで見るのを辞めスマホを置く。

チャンネル登録者数もいつの間にか一万人を超えている。前まで十人とかそこらだったのに。


「…-これからどうしようかな…」


私はこれからの事を考えて酷く陰鬱な気分になった。



♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

謎の二刀流の少女について語るスレ


匿名08

【おいお前らミカたんの配信見たか?】


匿名82

【見た見た。あのくそ可愛い声してる子だろ】


匿名11

【それでいてあそこまで強いっていうな】


情報提供05

【情報提供、あの二刀流少女、「ロイチャンネル」って名前でヤーチューブで毎日配信してるらしい】


匿名42

【でも二刀流使ったのあれが初めてだったらしいぜ】


匿名08

【にしてもレベル100クラスの鎧騎士をあそこまでボコせるのはヤバすぎる】


匿名42

【間違いなくレベル100は超えてるだろうな】


匿名82

【あんなのが無名かつ正体も分からないなんてな】


匿名11

【特定班さえまだ掴めてないらしい】


匿名55

【今分かってるのはロリかショタな事と多分「二刀流」みたいな感じのユニークスキルを持ってる事くらいか】


匿名46

【ミカたんとかそのパーティーメンバーたちが

情報提供呼びかけてるってさ】


匿名96

【なんで?】


匿名46

【お礼がしたいんだとさ、でもミカたんの様子がちょっとおかしかった気がする】


匿名97

【偽物とか出そうだな】


匿名81

【事務所も総出で情報とか掻き集めてるらしい】


匿名54

【だって超希少なユニークスキル持ちだもんな

ほとんどユニークスキル持ち確定だろうし】


匿名41

【しかもロリだからな、あの声なら間違いなく売れる】


匿名46

【じゃあまたロイが何か動きを見せたらここに集合ということで】



【【【了解した】】】


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「やっぱり情報は何も……?」


「あぁ、いくらなんでもここまで情報が無いなんてな。」


私は思わず手に力が入る。

所長に頼んで情報を集めてもらっていたのだが

一切情報が集まらないという異常事態に陥っている。


「ミカ、落ち着け。こちらとしてもあのユニークスキルらしき物に興味もあるしあのフードの子はロリだったのだろう?」


「えぇ、間違いなく売れるわ、あのロリ声に美しい銀髪、透き通るような碧眼にまさかの本物のロリ!!!是非是非お嫁に…ではなく助けてもらったお礼を…!」


「ちょっとミカ、落ち着いてって。焦る気持ちも分かるけどしょうがないでしょ。」


「サーヤ!で、でも…」


「その子なら私も見かけて追いかけたけど一瞬で見失ったわ。」


「サーヤとたまちゃんでも見失うレベルなの!?」


「たまちゃん言うな、たまさんと呼べーい。」


たまちゃんと呼ばれた女性は手を上げて抗議の意思を示す。

女性というにはかなり貧相だが、これでもこの事務所でトップの売り上げと人気を誇っている。


「まぁまぁたま先輩はまだしも私の「敵察知」スキルでも直ぐに見失っちゃあんだから追いようがないわよ。」


「所長〜なんとかしてくださいよ〜私ーあの子を嫁に〜ゲフンゲフン、お礼がしたいんです!」


「あ、あぁ、分かったから泣きつくなって。なら、一つだけ手がある。」


「一つだけの手!?」


待ってましたと言わんばかりに目を輝かせるミカ。


「ただし、次会うときに絶対に彼女をこの事務所に来させる事、もしくは最低でも連絡先くるいまでは聞き出せ。」


「勿論ですとも!」


「でも所長はなんであの子を…?」


所長は自信満々に足を組み


「決まっているだろう、彼女はヤーチューブ、そしてアイドルで絶対売れる。それに貴重なユニークスキル持ちときた。それだけでうちの事務所パワーは一気に上がる!!」


「うわー相変わらずゲスいな所長。」


「ま、まぁまぁ。たま先輩もそう言わず…」



一方その頃。


「ぶぅえくしょっい!……誰かが私のことを噂しているぶあっくしょん!……嫌な予感がする…」


くしゃみが二連続で出て危機感を覚えたロイであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る