第2話

 今日はクリスマスイブだった。


 ホワイトクリスマスにはなりそうになかったけど、街は活気に色付いていた。


 青い幻想的な光が、祝福の色をしていて、その眩しく光るイルミネーションをくぐり、僕は愛しいフィアンセの元に向かっていた。


 約一年半ぶりの日本は、真夏のクリスマスと違って、すごく華やかに見えた。


 なぜなら世界中の人が思い描く「クリスマスらしさ」は、オーストラリアにはなかったから。


 海産物に溢れているクリスマスディナーはやっぱり違和感があったし、比較的無神論者が多いと言ってもやはりキリスト教は息づいていた。


 美味しいけど、面白いが勝っていた。


 まあ、季節が真反対だから仕方ないけど。


 だから帰って来たんだなってすごく実感できた。


 こんなに寒かったんだなぁって。


 本当は25日のクリスマスデーに帰国予定だったけど、一日ずらしてもらった。


 このサプライズに、沙耶香の驚く顔が見たかったのもあるけど、向こうで出会った銀細工職人に惚れ込み、頼んだ一品を早く渡したかった。


 相談して決めることを信条としていた僕が珍しく自分で全て決めた指輪だった。


 本当は自分で作りたかったんだけど、壊滅的なセンスだったから諦めた。教室に通い、何回かチャレンジしたんだけど、やっぱり職人はすごかった。


 積み上げた修練が違っていた。


 それもこれも経済成長のおかげだろうけど。


 不況の日本ならまず職人さんが貧困化していく。それは嗜好品から無くなっていくからだ。


 一度失った技術は取り戻せないのは刀剣の世界なら割と有名な話だ。そんな事をオーストラリア人に言われて恥ずかしかったよ。ははは。


 身の回りが外国製品しかなくなった時、初めてこの異常に気づくんだろうなと、外国に行ったからこそ如実にわかる。


 その時は中小の企業はほぼ無くなっているか、外資に買われた後だろうな。


 まあ、僕にどうこうは出来ないし、仕方ないけどね。ゾンビゾンビって批判するけど、好景気ならゾンビどころか優良企業。だから格安で買いたい人達なんだろうとは部長の談。


 大人になってそんな人の醜い部分を知った時、僕は大切な二人を思い浮かべることにしていた。


 そういえば、リングだけど、呪い師の家系だから上手くいく願いを込めたよ、なんてジョークを後で聞かされたけどね。


 フィアンセに贈るんだって言ったのに。ははは。


 割と泣き虫なところもある彼女に、漸く出来たこの指輪を早く渡したいって気持ちが強かった。


 いや、単純に会いたくて仕方なかった。


 リモートはやはり限界がある。


 沙耶香は慣れない一人暮らしのせいか風邪をよく引いていた。でも、助けにいけやしないし、心配が募るばかりだった。


 離れていたからか、妙に色っぽかったけど、それは内緒にしておこう。多分、それくらい愛しい沙耶香と会えないことが、僕は辛かったんだ。



 同棲してる僕らのマンションに着くと、沙耶香はいなかった。おそらくまだ仕事中で、でも何故かクリスマスの飾りつけがされていた。



「お皿まで…ははは、気が早くないかな」



 多分僕の好きなロールキャベツを盛り付けるお皿だろうけど、ダイニングテーブルにはすでにカトラリーもグラスも用意されていて、彼女のワクワクとした気持ちに嬉しくなってくる。


 室内は整理されていて、彼女の普段からの真面目で几帳面な姿が浮かんで、辛くなる。


 わずか半年ほど一緒に暮らして、すぐに海外だった。


 一人では寂しいだろうな。


 でも、ようやく二人で過ごせるんだと、報告して喜びを抱き合いたい。


 まあ、思いの外重宝されて、まだ三年伸びそうになったけどね。頼られると嬉しいって言うのは、豪志が僕によく言ってくれたことだった。


 ようやく彼と同じような立場に並べたのかっなって思えて嬉しくなって向こうで頑張ってきたよ。


 その時ガチャリとした音が聞こえた。


 沙耶香が帰ってきた。


 僕は驚かそうと、靴も含めて一切の荷物を隠して電気を消していた。


 また子供の時のように叱られるかもしれないけど、彼女の驚く顔が見たくてクローゼットに隠れていた。



「あれ…? 暖房、付けっ放しだったかしら…?」



 そんな声が聞こえて、節約に勤しむ彼女に悪いなって気持ちになった。寒かったら可哀想だし、なんて考えて点けたのが悪かったかな。


 でも、早く誤解を解かなきゃって思った僕に、思ってもみない声が聞こえた。



「助かったからいいだろ。急に極寒だったし」



 それは豪志の声だった。

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