第28話
それでも見物する人は減らず、無数のカメラが職務質問される竹内の様子をリアルタイムでネットに流し続けている。
それを横目に、葉月は秀に感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう、上屋敷くん。私の事も、会社の事も、ずっと守ってくれてありがとう」
ありがとうなんて言葉だけでは表しきれないくらい、葉月の胸は感謝の気持ちでいっぱいだった。伝えなければ破裂しそうなくらい、沢山の気持ちが葉月の胸の中にある。
「私、会社が倒産した時、上屋敷くんの事を恨んでいたの。なんて酷い事をするんだって」
それを聞いた秀が苦笑する。
「でも、違ったんだね。上屋敷くんは私の事を守ってくれていた。
秀の手が葉月の頭に伸びる。葉月の髪の上を、秀の手が滑り降りた。
「礼を言われると胸が痛みます。俺だって100%葉月さんのためだったわけではなく、自分の欲にまみれていたので」
「欲?」
髪の上を滑り降りた秀の手は、そのまま葉月の手を握った。両手で葉月の手を包み込む。
「言ったでしょう、俺。葉月さんが好きだと。盗られたくなかったんです、誰にも」
いつくしむような目をする秀。葉月はそのまま自分の体が溶けてしまうような錯覚を覚えた。
「俺は葉月さんと一緒に成長していきたいと思っています。一生。可能なら、公私ともに」
ふわりと暖かな風が葉月の頬をかすめた気がした。
秀が真剣なまなざしで葉月を見つめている。葉月はしどろもどろになりながら尋ねた。
「え……と、それは、その、秘書として?」
秘書である葉月はすでに秀の家で暮らし、秀を公私ともに支えている。秀は苦笑いをして首を横に振った。
「違います。伴侶としてですよ」
優しく笑む秀。
伴侶、と葉月は胸の中で繰り返した。
「なんか、今さらだね」
笑って言う葉月に、秀が目を丸くする。
「どういう意味ですか」
「なんかもう、上屋敷くんとずっと一緒にいるのが当たり前な気がするんだもん。仕事でも、家でも、ずっと一緒。このままずっと、死ぬまで、上屋敷くんと一緒にいたい」
そこまで言って、葉月は「言い過ぎたかしら」と少しだけ恥ずかしくなった。でも、目の前の秀が嬉しそうに微笑むから、恥ずかしさなんてすぐに消える。
秀が言う。
「じゃあ、約束します。一生離さないと」
秀の腕が葉月の背中に回って、葉月を力いっぱい抱きしめた。これからは抱きしめても良いんだなあ、と思いながら、葉月も秀の体に腕を回して強く抱いた。
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