第27話
すみません、と頭を下げる秀に、葉月は思わず抱きついた。
「上屋敷くん、何も謝る事なんてないじゃない。私を守ってくれて、会社を守ってくれたのは上屋敷くんだよ。ありがとう!」
葉月にはもう、秀に対して感謝の気持ちしかない。
「おい! 抱き着くな!」
竹内が叫ぶ。
秀は軽く葉月の頭をなでてから、竹内に向き直った。
「竹内さん。不正をしたのはあなたです。俺や源さんを脅すのはお門違いですよ」
「うるさい、うるさい! ボクが『上屋敷は不正を知りながら、買収で全部もみ消した』とマスコミにバラせば、お前だってタダでは済まないんだぞ!」
竹内は性懲りもなく秀を道連れにしようとする。けれど秀は、気にも留めずに言った。
「どうぞご自由に。今の会話はすでにネットに拡散されていると思うので、今さらです」
「は? ……は?」
我に返った竹内は周囲を見渡した。ここは駅ビル内。多くの人が、大騒ぎする竹内と秀、葉月にスマホを向けている。
「だ、大丈夫なの?」
葉月はだいぶ前からこの状況に気付いていた。竹内の醜態は確実にネットに流れている。同時に、上屋敷ホールディングスが不正を無かった事にした事実も流れてしまっているはずだ。
「構いませんよ」
けれど秀はやっぱり気にしない。
「俺は不正を『もみ消した』わけではないので」
秀がしれっと言う。
「俺は不正な製品の製造を停止しただけです。事業にメスを入れ、当時の管理職――竹内さんはじめ株式会社竹内の役員全員を、すべて解雇しています。これは『もみ消し』ではなく『是正』であり、どちらかと言えば褒められるべき行為だと思います。違いますか?」
秀は自分たちを取り囲む通行人たちに問いかけた。カメラを向けていた通行人たちは、みな小さくうなずいている。
「ありがとうございます。そうですね、俺の行動に悪い所があったとすれば、それは葉月さんの家族を一家離散に追い込んでしまった事だけです。でもようやく皆さんに安定した生活を提供できた。これからは弊社の中で、ミナモトの皆さんにも一緒に成長していってもらうつもりです」
「上屋敷くん……」
秀は凄い。葉月はそう思った。
全部全部、会社のため、ミナモトのため、そして葉月のため。彼ほど周囲を見て、周囲の為に行動できる人はいない。彼ほど格好いい人はいない。
しかし竹内はいまだわめき続けている。
「認めない! 認めないぞ! なんでお前だけ善人ぶるんだ! 畜生!」
「はいはい、静かにしてください」
そんな時、人混みの中から男性の声が聞こえてきた。人混みをかき分け竹内の元へやって来たのは、制服姿の警察官である。
「すみませんね。騒いでる人がいるって通報があったので。ちょっと話きかせてもらえる?」
「え、え?!」
竹内は警官に囲まれ、急におとなしくなっていった。
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