第26話
父は目を見開いた。
『ふざけるな! 何故そこに娘が出てくる!』
だが竹内はニヤニヤと妄想を広げ続ける。
『いや、名案じゃないか? 罪を肩代わりしてくれたら、すぐにでもボクが葉月嬢と結婚して養ってあげよう。もし肩代わりせず倒産の道を選ぶなら、ミナモトを潰して葉月嬢だけ貰う。男として、葉月嬢を悲しませるのは不本意だ』
竹内はニタニタ笑いながら、『どうする?』と父に突き付けた――。
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「不正を肩代わりしなければ会社を潰す。肩代わりしてもしなくても、葉月さんを嫁にする。そんな無理難題を、竹内さんは源さんに提案したそうです」
その話を聞いて、葉月はゾッとした。この竹内という男、人の人生を勝手に決めておいて、運命だなんだと騒いでいたのか。怖い。怖すぎる。葉月は秀のスーツをしっかり掴んだ。
「その話は当時高校生だった俺の耳にも入ってきました。だから俺は決めたんです。――買収を」
買収と聞いて、当時の事が葉月の脳内でフラッシュバックする。突然何もかも失ったあの日。だけど、その実態は……。
「俺は買収で不正な事業を白紙にし、株式会社竹内の力も奪う事にしました。葉月さんを渡さないために」
そう。葉月を救うためだったのだ。
秀の話をさえぎるように、竹内が「このクソガキが!」と叫んでいる。
「葉月さんの家庭を滅茶苦茶にしてしまった事は、本当に申し訳なく思っています。ミナモトは倒産するかもしれない。そう思いながら無謀な買収をしました。葉月さんを嫁がせたくなくて、竹内を手中に収めコントロールしようとしたんです」
秀は後悔も決意も入り混じったような顔をして、淡々と当時の事を語った。騒ぎ続ける竹内を軽蔑するような目で睨みつけ、また葉月に優しい眼差しを向ける。
「本当はミナモトに対して、すぐ助け船を出す予定でした。万が一ミナモトが倒産なんて事になったら、ミナモトの社員皆さん、葉月さんも含めて、俺の所に来てもらおうと思っていたんです。……でも、5年もかかってしまいました」
ミナモトの倒産を聞いて秀が動き出した頃には、すでに源家は一家離散の状態だった。足取りを追えなくなった秀は、葉月たちを見つけ出すまでに5年もかかったと言う。
5年は、長い。
葉月が勝手に秀を恨んでいた間、秀は一生懸命葉月たちを探していた。それだけ秀は必死だった。
秀のおこなった買収は、会社の成長のためだけではない。葉月の将来や尊厳を竹内から守り、ミナモトを不正から守るための買収だ。色んなものを守るための、勇気ある行動。
(本当に、なんて人なんだろう、この人は)
こんな事を出来る人が、他にいるだろうか。
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