第25話

「6年前、株式会社竹内の製品に不正疑惑が出ました。使用している部品の材質が、製品説明と違うという話です」


 株式会社竹内は、自社製品を樹脂素材不使用として販売していた。だが実際には、安い樹脂素材製の部品を使用していたのである。


「その樹脂部品を作っていたのはミナモトコーポレーションでした」


 そう言われて、葉月はドキッとした。不正な品物を作っていたのは事実なのか、と膝から崩れ落ちそうになる。


「ですが、安心してください、葉月さん。ミナモトに『樹脂製で』と指示を出していたのは竹内です」

「え?」

「源さんは注文通りの部品を作っていただけ。源さんは、不正を知らなかったのですよ」


 秀はタブレットを操作して、当時竹内がミナモトへ送った注文書や図面を表示して見せた。これらは父が秀に提供した物だと言う。

 竹内からの注文書には、はっきりと「樹脂部材」と書かれていた。父が注文通りに製品を作っていた証拠である。


「じゃあ、不正を指示していたのは、株式会社竹内?」


 葉月の問いに秀が頷く。


「そうです。しかし株式会社竹内は、すべての罪をミナモトへなすりつけようとしました」


 秀の指摘に、竹内は大きく騒ぎ始めた。秀に顔を近づけ、ツバを飛ばし続ける竹内を、秀はものの見事に無視している。


「竹内さんは5年前、源さんに対し、『お前が不正を主導した事にしろ』と肩代わりを要求しました――」



 当時、竹内は父に言った。


『不正を肩代わりしろ。非難の矢面に立てってくれるなら、万が一ミナモトが倒産する事になっても、立ちなおす為の資金援助をする』


 それを受けて父が言う。


『出来ません。我々は被害者です。不正はしていない』


 父は拒絶。だが竹内は諦めない。


『拒否するのか? だったら我々はミナモトとの取引を停止する。ついでに、ミナモトの取引先もすべて我々が奪ってやる。拒否したらお前たちは倒産するだけだ』


 反論できず唇をかむ父に、竹内は悪魔のささやきをする。


『倒産したくないだろ? 娘に苦労をかけたくないだろう。大丈夫、罪をかぶってくれれば助けてやる。あぁ、そうだ』


 話しながら、竹内がニヤリと笑った。


『ついでに、可哀想な娘……葉月嬢はボクが貰ってあげる。心配いらないよ』

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