第23話

「馬鹿なんですか」


 秀が呆れたように言う。

 それは葉月に対してではなく、竹内に対してだった。


「竹内さん。その話、どこから突っ込めば良いですか」

「な、なんだよ。突っ込めるもんなら、突っ込んでみろよ」


 竹内は一瞬ひるんだものの、強気に秀へと突っかかっていく。秀はもう一度ため息をついた。


「そうですか。では、遠慮なく」


 そう言うと秀は急に葉月へ顔を向け、「葉月さんもしっかり聞いていてくださいね」と念を押した。その顔はいつもと同じように穏やかで、安心感がある。


「う、うん」


 秀の穏やかな顔は葉月の緊張をほぐした。秀が言う言葉なら信じられる。きっと、大丈夫。葉月は秀のスーツを掴み、祈るように彼の話を待つ。

 葉月に優しく微笑みかけた秀は、今度は竹内を睨みつけて言った。


「不正の証拠なら俺も持ってます。竹内さん。あなたのやった事はすべて証明できます」

「は? はあ?」


 秀の言葉に竹内がたじろぐ。


「何を馬鹿な」


 竹内に反論させないほど鋭く、秀は竹内の持つUSBメモリを睨みつけた。


「それ、『ミナモトコーポレーションが材料不正をおこなった証拠』だと言いましたよね」


 秀が念を押す。


「具体的にはどんな証拠ですか?」


 冷たい秀の声が竹内を尋問する。竹内は血管が切れそうなほど顔を真っ赤にして、必死になって答えた。


「ちゅ、ちゅ、注文書だ! ミナモトがヤマト鋼業に樹脂材を注文していた注文書、5年分! ボクは樹脂材の使用を許可していない! 勝手に材料を変えた証拠だ!」


 竹内の返答に秀が小首をかしげる。


「では質問ですが、なぜ竹内さんは他社の注文書を持っているのですか」


 秀の指摘に竹内は口をパクパクさせた。


「どこから入手したのですか。それこそ、不正に手に入れた物では?」

「ち、違う! これはヤマト鋼業に託されたんだ!」


 言い訳する竹内に、秀が「はあ」とため息で返事をした。

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