第22話

「上屋敷専務、邪魔しないで頂けるかな?」


 竹内がでっぷりした顔を醜く歪めて、秀と葉月を睨んでいる。秀は葉月を抱き寄せたまま、落ち着き払った声で言った。


「彼女は関係ありません」

「関係ない? 上屋敷専務、あなたこそ関係ないだろう。ボクはビジネスじゃあなく、葉月嬢と個人的な話をしているだけだ!」

「彼女が嫌がっています。お引き取りください」


 冷静に対処する秀は格好良かった。救世主だ。葉月はそう思った。だけど竹内は、秀を小馬鹿にしたように笑い飛ばす。


「へぇえ、上屋敷専務。良いのかなぁ、そんなことを言って。ボクを敵に回したら、困るのはキミの方じゃないのかい?」


 竹内はニタニタ笑いながら、胸ポケットから出したUSBメモリをちらつかせる。


「当時の材料不正の証拠はボクが持ってるんだぞ」

「……材料、不正?」


 何の話かわからず、葉月は秀を見上げた。秀は黙って竹内のUSBを見つめている。答えない秀の代わりに、竹内が「そうだよ、葉月嬢。あの不正は全部ミナモトが主導したんだ!」と自信満々に叫んでいた。


「あの不正って? お父様が……不正?」


 葉月にとってそれは初耳だった。そんな事はあり得ない。あの父が不正なんて、するはずが無い。

 けれどニヤニヤ笑った竹内は、ありえない話を続けている。


「そうだよ、葉月嬢。ミナモトは粗悪な材料を使って製品を作っていたんだ。利益のため、全世界を騙してきた!」

「……嘘」


 血の気が引いていく。ふらついた葉月に気付いた秀が、葉月を支えた。


「でも、だって、不正なんて」

「葉月嬢が知らなくても無理はないさ。ボクが不正をリークする前に、そこの上屋敷が買収という手を使ってすべて無かった事にしちゃったんだから」

「へ……?」


 見上げた秀は相変わらず黙っている。


「本当……なの?」


 思い返してみれば、父と秀は買収について「例の件」がどうとか言っていた。もしかしたら、それが不正の事なのかもしれない。


「噓でしょ?」


 嘘と言って欲しいのに、秀は答えなかった。葉月の中で全てが崩れていくような感覚になる。


「ねえ、上屋敷くん」


 返事が欲しい。本当に父が不正をしていたのか、秀がすべてもみ消したのか。

 葉月の問いに、秀はうんざりしたようなため息をついた。

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