第17話

 買収も倒産も、会社経営の中では極々自然な出来事だ。秀の胸の内にあったのは源家に対する悪意ではなく、自社の純粋な経済成長を望む、会社役員としての正しい判断である。


(だから上屋敷くんを責めることも恨むことも、お門違いなんだよね、本当は)


 だが無知な葉月は秀を恨み、責め続けた。秀にとってはそれこそ理不尽な出来事だっただろう。それでも秀は葉月を受け入れ、仕事を与え、家に住まわせ、罪滅ぼしのような事を続けている。


「ありがとう、上屋敷くん。そして、ごめんなさい」


 葉月は今までの無礼を詫びた。自分のことばかり考えていた葉月と違って、秀は常に周りを見て、周りのために決断し行動している。

 そう、彼は悪くなかったのだ。

 彼のそばで彼を見つめ、彼の働きぶりをみて、ようやく葉月もその事実に気付けた。


「上屋敷くんは凄いと思う、本当に。本当に、ごめんなさい」

「源さん、謝るのは俺の方です。すみませんでした。あなたを傷付けたくなかった。本当に申し訳ありません」

「謝らないで上屋敷くん。上屋敷くんはきちんと仕事をしていただけじゃない」


 そう言った葉月の肩に秀の両腕が回る。

 ぎゅっと抱き寄せられ、葉月は秀の胸元にすっぽりおさまってしまった。


「すみません、源さん。今度は絶対に俺が守り抜きますから。あなたを傷付けることは絶対にしませんから。だから俺のそばに居てください」


 秀のハグは強引なくせに優しく、どこか弱々しかった。まるで壊れやすいガラス細工に触れるように、葉月を柔らかく抱きしめる。

 心地よい。

 葉月はそう思った。


「上屋敷くんのこと、信じていい?」

「当然です。俺はいつだって源さんの事を想っています。俺にあなたの事を守らせてください」

「……ありがとう、上屋敷くん」


 上屋敷秀を恨む葉月はもういない。ただただ彼を社会人として尊敬し、人として好意を持っているだけだった。

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