第15話

 出張先へ向かう新幹線の車内。いつも通り秀の隣に座った葉月は、どことなく漂う異変に気付いていた。


(なんだか上屋敷くん、そわそわしてる?)


 普段は車内に乗り込んですぐタブレットで情報収集を始める秀が、今日はまったく集中出来ない様子で顔を上げたり窓の外を眺めたり、落ち着きなく動いている。


「上屋敷くん、どうかした?」


 おかしなくらいもぞもぞと動き続けるので、葉月はたまらず質問した。問われた秀は、待ってましたとばかりにニヤリと笑う。まるで子どもみたいに無邪気な笑顔だ。


「楽しみにしていてください、源さん」

「……いや、何を?」


 それ以上は何を聞いてもニコニコ笑うだけで、秀は何も教えてくれない。あの秀がここまでウキウキする仕事とはなんだろう。葉月は期待半分、不安半分のまま目的地に到着するのを待った。

 それから二時間。

 たどり着いたのは田舎町のレトロな喫茶店だった。今日の予定は外部企業との面談のはずだが、待ち合わせ場所が喫茶店である事に少し不安を覚える。


「いらしたようですね」


 席に着き、窓の外を眺めていた秀が言った。喫茶店のドアが開く。入ってきた年配の男性を見て、葉月は息を飲んだ。


「お父様……」


 きょろきょろしていた入り口の男性が葉月たちに気付いたのと同時に、葉月は呟いた。

 そこに居たのは紛れもなく葉月の父だ。5年以上会っていなかった父。久しぶりにあった父はかなり痩せ、しわも深くなっている。けれど、凛々しい顔つきは変わっていない。


「お父様!」

「葉月」


 葉月たちのテーブルにやってきた父は、葉月を見て目に涙を浮かべた。年季の入ったパンツを履き、よれたシャツを着た父。その姿に昔の優雅さは微塵も感じられない。落ちぶれてしまった父の姿が葉月の胸に突き刺さる。


「元気だったか、葉月」

「はい。お父様もお元気ですか」

「葉月、『お父様』はやめてくれないか。若造にこき使われているようなジジイだ。もう敬われるような人間じゃあない」


 威厳なく自虐する父が痛々しい。葉月が何も言えずにいると、秀は「座りましょう」と促した。椅子に腰かけた父が口を開く。


「上屋敷専務、よく私の居場所がわかりましたね。それで、話とはなんですか」


 父の問いに、秀は穏やかな笑みを浮かべて言った。


「源さん、単刀直入に言います。弊社で働きませんか」

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