第14話
しばしの沈黙のあと、ため息と共に秀が「座ってください」とソファーをポンポン叩いた。葉月は首を横に振る。
「駄目だよ。明日も早いんだから、もう寝なきゃ」
「少し話し相手になってくれたらすぐに寝ます。少しだけ、駄目ですか?」
甘えるように上目遣いで言われたら、葉月は駄目と言えなかった。彼の隣に座る。秀は愛おしそうに葉月を見つめた。
「学生時代のことを思い出しました。変わらないですよね、源さんは」
「……なんの話?」
無防備なほど表情を緩める秀に対し、葉月が問いかける。秀は葉月を優しく見つめながら言った。
「俺が好きになった源さんのままだなと思ったのです。学生時代も源さんは周りをよく見ていて、他人を気遣い、俺に対しても優しく声をかけてくれました」
「そうだっけ」
「そうです。俺は小さな頃から学業以外にも、経済、経営、コミュニケーション、その他諸々の勉強をさせられていたので、学校では常にぐったりしていたんです。そんなとき源さんは決まって俺を気遣ってくれて、かなり助けられました」
言われてみればそうだった。
幼い頃の秀は病弱で、頻繁に具合を悪くしていた印象だ。そんな秀のために葉月は授業のノートを見せたり、体調を気遣ったりしていた。
「源さんのその優しさは、俺の救いです」
目を細めた秀の顔が葉月に近づいてくる。
「ちょ、上屋敷くん」
葉月が声を掛けるのと同時に、秀は目を閉じてそのまま葉月の肩に倒れこんできた。葉月の肩に頭を乗せ、寝息を立てている。
(寝落ち……!)
よほど疲れていたのだろう。最近の予定を思えば無理もない。
せっかく眠れた彼を起こすのも可哀想になって、葉月はしばらくそのままにすることにした。
規則正しく上下に揺れる秀の頭に、自分の頭をコツンとぶつける。
(上屋敷秀。真面目で一生懸命な人ではあるのよね)
葉月にとって彼は一家離散となった元凶だけど、だからといって彼が悪人かどうかと考えると、そうでもないよなと近頃の葉月は思っている。少なくとも、こうして彼と一緒に寝る事が嫌だと思わないくらいには、葉月も秀を人として認めていた。
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