第13話
葉月に声を掛けられた秀はチラリと葉月を見て、またタブレットに視線を戻した。
「源さんは先に休んでください。俺はまだやる事が終わっていないので、しばらく起きています」
「でももう1週間以上3時間くらいしか寝てないでしょ。明日だって始発で出張に行くんだから、もう寝た方が良いよ」
葉月はソファーに座る秀の足下まで行って、目線の高さを合わせるようにしゃがみ込んだ。タブレット越しに秀と目が合う。秀は葉月を見て目を見開いた。
「もしかして源さん、俺のこと心配してるんですか」
「それはまあ、当然でしょ」
彼の生活を見ていたら、流石に葉月だって心配になる。いっそタブレットを取り上げてやろうかと思った時、秀は自らタブレットをソファーに置いた。
「ありがとうございます。嬉しいです。俺、源さんに心配してもらえるとは思いませんでした。……ふふ、嬉しいな」
秀が照れたようにはにかむ。彼の言葉に、葉月の胸はチクリと痛んだ。
(思いませんでした、か)
彼は自分のした事を理解している。葉月に優しい言葉をかけてもらえる立場ではないと、彼は認識しているのだ。
(それはそうだけど、でも……)
葉月は不思議とその距離感をもどかしく感じてしまった。心配すら出来ない仲だと秀に突き付けられたみたいで、なんだか気分が悪い。
「でも私、倒産に追い込まれたことを許したわけじゃないから」
許したわけではない。けど、だからといって、心配にならないわけでもない。どちらの感情も葉月の中にしっかりとある。
(じゃあ私は、この男にどんな感情を向けるのが正解なのよ)
答えのわからない問いが葉月の頭を駆け巡る。
眉をひそめる葉月と同様に、秀もまたソファーの上で眉をひそめていた。
「あの買収は……」
秀は何か言おうとして、「いえ、なんでもありません」と口を閉ざしうつむた。言いたいことがあるなら言えば良いのに。葉月は冷めた心でそう思った。
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