少年と猫
@10688216
出会いと別れ
小学生の翔太は、どこにでもいる普通の男の子だった。彼は家から歩いて十分ほどの距離にある学校に通い、友達と遊ぶのが大好きだった。特にサッカーが好きで、毎日放課後には友達とグラウンドでボールを蹴っていた。
ある日の帰り道、翔太は家の近くで一匹の猫を見つけた。茶色と白のまだら模様の猫で、尻尾がふさふさしていた。猫は道端でお昼寝していたが、翔太が近づくと目を開けてこちらを見た。大きな青い瞳がキラキラと輝いていた。
「わあ、かわいい猫だなあ」
翔太は猫が大好きだった。彼の家ではペットを飼っていなかったので、外で猫に会うといつも撫でていた。この猫も例外ではなかった。翔太はそっと手を伸ばし、猫の頭を撫でた。すると猫は、ゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうに目を細めた。
「君、どこから来たの、飼い主はいるのかな」
猫は何も答えなかったが、まるで理解しているかのように翔太をじっと見つめた。翔太はそのまま猫としばらく遊び、それから家に帰った。その夜、ベッドに入った翔太は、昼間に出会った猫のことが頭から離れなかった。
「またあの猫に会えるといいな」
そう思いながら眠りについた。
その夜、翔太は不思議な夢を見た。夢の中で、彼はあの猫と同じような茶色と白の毛皮を持った猫になっていた。体が小さく、四本足で地面を歩く感覚がリアルだった。翔太は驚きながらも、夢だと思って楽しむことにした。
「すごい、猫の気持ちが分かるなんて面白い」
夢の中で翔太は、自分の家の周りを走り回った。普段とは全く違う視点で見える世界に興奮し、自由に飛び跳ねるのが楽しかった。家の屋根に登ったり、木の上に飛び移ったりして遊んでいるうちに、夢の中の時間はあっという間に過ぎていった。
しかし、ふと気がつくと、翔太は夢から覚めることができなくなっていた。
「どうしてだろう、早く目が覚めないと」
そう思った瞬間、翔太の体が急に重くなり、バランスを崩してしまった。気がつくと、彼は目を覚まし、自分のベッドの上に戻っていた。
「何だったんだろう、今の夢は」
翔太は少し戸惑いながらも、いつものように学校の準備を始めた。
学校から帰ってきた翔太は、またあの猫に会いたくて、昨日と同じ場所に行った。すると、驚くべきことに、猫がまたそこにいた。猫は翔太を見ると、まるで待っていたかのように駆け寄ってきた。
「君、また会えたね、今日も遊ぼう」
翔太は猫を抱き上げて、家の近くの公園に連れて行った。公園のベンチに座って、猫を膝に乗せながら撫でていると、ふとまた昨夜の夢のことが思い出された。
「本当に夢だったのかな」
その時、猫が突然翔太の手を噛んだ。驚いた翔太は、思わず猫を放してしまった。
「痛いなあ何するんだよ」
だが、次の瞬間、翔太の体が急に軽くなり、視界が歪んだ。気がつくと、彼はまた猫の姿になっていた。今度は夢ではなく、現実の世界で。
「え、ええっ、どうして」
翔太は驚きのあまり声も出なかった。彼の体はまさしくあの猫と同じ姿になっており、地面の近くから世界を見上げると、全てが巨大に見えた。公園のベンチも、見慣れた家の周りの風景も、まるで別の場所に来たかのように感じられた。
「これ、どうすれば元に戻れるんだ」
困惑した翔太は、猫の体で何とか元の姿に戻ろうとしたが、どうやっても人間に戻ることはできなかった。そうしているうちに、彼を噛んだ猫がそばに寄ってきて、優しく翔太の頭を舐めた。
「もしかして君が僕をこうしたの」
猫は答えなかったが、翔太にはそう感じられた。猫はまるで「安心して、すぐに元に戻れるから」と言っているかのように、翔太に寄り添ってきた。
猫の姿になってしまった翔太は、しばらくそのままで過ごすことにした。仕方がなかったからだ。しかし、猫としての生活は、想像以上に楽しいものだった。木に登ったり、小さな隙間に潜り込んだり、普段の自分ではできないことがたくさんできた。
翔太は猫の姿で過ごすうちに、見える世界が変わっていくのを感じた。普段は気づかない小さなものや、聞こえない音に敏感になり、猫としての自分を少しずつ楽しめるようになっていった。彼は自由に町を駆け回り、風を感じ、自然と触れ合うことの楽しさを知った。
そして何日かが過ぎたある日、翔太は再び元の自分の姿に戻っていた。まるで何事もなかったかのように、猫から人間の姿に戻っていたのだ。翔太は少し名残惜しい気持ちを抱えながらも、猫であった時間を振り返り、笑みを浮かべた。
「猫の視点で見る世界も、悪くないな」
それ以来、翔太は自分が見落としていた小さなことにも気を配るようになった。彼はあの猫とも友達になり、毎日その猫と一緒に公園で遊ぶようになった。翔太はもう、ただの「普通の男の子」ではなかった。彼は猫のように、自由で、好奇心旺盛な心を持つ少年へと成長していた。
少年と猫 @10688216
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