005 不服従ボッチもわからせたい①

まえがき

--------------------

いつもお世話になっております。

暁貴々です。

ここから先の話は主人公がかなりえげつない手を使います。

基本的にコミカル調で、

物理的な暴行を加えるなどの表現は一切ありませんが、

サブヒロインのメンタルへのダメージ量が高めなので、

あくまでフィクションとご理解いただけますと幸いです。

--------------------






 勝負の一日目。


 俺はさっそく、新垣にLINEを送った。


《今日の放課後、お前んち行くからそのつもりで》

《急になに? いきなりすぎてキモい。ウザすぎ》

《うるせえな。俺は今日からお前のカレシなんだろ? なら当然、お前んちに遊びに行ってもいいはずだ。異論は認めない》

《普通、自分の家に呼んだりする。この機会に乗じて私の家にアポなしで来ようとするのはがっつきすぎ》

《じゃ、そゆことで》


《話はまだ終わってない》


 よし、あとは放置だ放置。

 ドア側一番後ろの席、俺はスマホを机の中にしまい、黒板に向き直る。

 姫乃の視線を感じるが、まあ気にしない。


 どうせまたなんかアホなこと考えてんだろ、あの女王様のことだから。心配なんてなに一つしなくていいってのに。



    *



 そして放課後。

 新垣から《無視するな》などのメッセージが来ていたが、それすらも無視していたら、夕方頃になってようやく、自宅の住所らしき文字列が送られてきた。


 俺から家に行くと言ったので、これは呼び出しはカウントされない。


 てか、こういう時はグルマで送るのが定石だろ。

 俺はその住所をマップアプリに入力し、経路案内を開始する。


 しばらくして、古民家を改装した感じの、こじんまりとした一軒家に到着した。

 表札には新垣と書かれている。ここがあいつんちか。


 俺はそのまま呼び鈴を押す。


「はいはーい……あ、えーっと……紗綾ちゃんのお友達?」


「ああ、いや、一応、カレシです。武者小路と申します。新垣さん、いますか?」


「ご、ご丁寧にどうも。紗綾ちゃんなら二階にいるわよ」


 新垣のお母さん。なんというか、普通の、いやどちからと言うとちょっと内気そうなおばさんだ。この人からあの娘が産まれたのは、なんかちょっと納得いかない。


 俺がぺこりとお辞儀したタイミングで、どたどたと階段を下る音が。


「いやあ、お母さん。おきれいですね。今度、お茶でもどうですか? いい喫茶店があるんですよ」


 新垣が二階から下りてきたのとほぼ同時に、俺は新垣のお母さんにナンパしていた。


 まあ、これはあれだ。ちょっとした挨拶代わりのジャブってヤツだ。


「おい武者小路。お前なに人の母親口説いてんの?」


「よう新垣。お前家だとちょっと口が悪くのな。なにそれ内弁慶? お母さんをあんまり困らせるんじゃねえぞ」


「そういうのマジでいいから。ちょっとお母さん、この男になに話したの?」


「ちょ、ちょっと世間話をしてただけよ。さ、紗綾ちゃん。今晩はご飯、何食べたい?」


 お母さんは新垣をなだめるように、献立の話題へとシフトチェンジした。


「いらない」


 そう言うと思った。


「そ、そう。じゃあお母さん、買い物に行ってくるわね。食べたいものがあったら連絡して」


「新垣のお母さん。俺、お腹ぺこぺこなんで、あと家庭的料理に飢えてるんで、もしよければ俺に晩ご飯作ってもらえませんか?」


 新垣のお母さんを引き止め、家庭的料理に飢えていることをアピール。おそらく新垣はそれを許さないだろう。


「……なに勝手なこと」


「じゃ、じゃあカレシ君、よかったら食べていって。紗綾ちゃんもそれでいい?」


 そしてお母さんは許してくれる。

 俺に対して一歩引いた感じの新垣のお母さんではあるが、さすがに娘のカレシを無下にはしないらしい。


 新垣は大きくため息を吐いてから、無言で俺を家の中に入れるように顎をしゃくった。


 こういう家庭ってどこにでもあるよな。

 思春期、反抗期の俺と母ちゃんの関係もこんな感じだった。


 新垣、お前さては子供だな。



 *



 二階の部屋。

 姫乃以外の女の子の部屋。


 やはり新垣も女の子らしく、室内は全体的に整然としていて、いい香りがする。

 ベッドが端にあって、小物なんかも置いてあって、だがテレビやらPCやらの付近には様々なゲームハードやゲームソフトが。


 これはあれか、ゲームオタクの部屋ってやつか。こいつやっぱりゲーマーなんだな。いやゲーマーじゃなかったら、そもそも今回の勝負に俺が乗ることもなかったわけだが。


「どうして私の家? 唐突すぎだし。スキンシップはなし。そう言いだしたのは武者小路の方」


「恋人(仮)の家に遊びに行きたいと思うのは、別におかしいことじゃないだろ」


「狙いが読めない」


 スポーティなタンクトップにショートパンツ、エロイ太もも丸出しのラフな格好でベッドに腰かける新垣は、案の定不満げだ。切れ長の目がすぅと細くなっている。


 俺はタンクトップ越しの谷間をちらりと見てから、胸の前で組まれた腕へと視線を移す。


 腕はノーカン。

 ちょっと視界の端におっぱいが映るのはこれもう仕方ない。


 黒髪のロングを頭の後ろで結った新垣はなんというか、エロい格好でランニングしてるお姉さんの雰囲気がある。あれ普段からジム通ってますよみたいなオーラふりまいて、絶対男の目線意識してるだろ。俺、ああいう姉ちゃん好き。自覚のある無自覚ほど滑稽でエロいものはないから。


 ちなみに俺は制服。

 どうでもいいけど、新垣のポニテは制服を着ても似合いそう。


「いやお前、ゲーム好きだって言ってたし。ならゲームしに来れば、自然とスキンシップも増えると思ってな。お前の言うスキンシップって触れ合いだとか、ちょっとエロいこととか、そういうのだろ? なんていうか、その根底がズレてんだよな。別にしないならしないでいいけど、どうする? やることないなら俺は帰るが」


「する。やる。ゲームは得意」


 ……お、おう。

 こいつ食いつき半端ないな。どんだけゲーム好きなんだよ。


「なら、それでどうだ?」


 整然と積み重なったゲームソフトの山から少しだけはみ出した、大闘技場ファミリーコロシアム。

 そのソフトを指差し、俺は新垣の了承を待つ。


「私それ超強いけど? ランカーだし」


「ん? なんだって? ハンマーカンマー?」


「ランカー……。ハンデ戦じゃないと勝負にならないと思う。武者小路弱そうだし、多分、私に一勝も出来ない」


 おいおい、言ってくれるじゃないの。


「おう、そうかそうか。じゃあハンデくれ。一機ぐらい多めにライフくれるとありがたい」


「一機だけ? まあいいけど」


「お前どんだけ自信過剰なの……」


 やることなくてゲームばっかりやってた生粋の元ボッチなめたら、痛い目見るぞ。


 悪いが新垣、俺もゲームは超得意なんですぜ☆


 Eスポーツ部に入部してない理由は団体行動が苦手だからであって、一人でオンラインゲームをやる分にはプロ……とまではいかないが、そういう人種に近い腕前を持っている。


 そう自負している。


 ストリートパンチャーだとかグランドレッドファンタジーだとかの格ゲーに始まり、FPSも含めて、オンライン上では常に好成績。


 ランカー? ぶは。ランキングに乗るだけなら、そこそこプレイ時間費やして練習量増やせば誰だってなれるんだよ。トップランカーって言い切れないなら俺はランカーなんて言葉使わない。てか使ってたら、超ダサい。ファミコロに関して言えば、俺は上位の一桁に乗っている。


 オンライン上でしか名が知られてない一流ゲーマーなんざ、世の中に五万といる。俺の見立てが正しければ、こいつはその五万の中にも入れない。


 ゲームのうまさなんか、プロになれなきゃなんの意味もない。ただの暇人の自己満足。そう思うやつは多い。多分、新垣もそのクチ。ゲーム好きなんだろうけど、そのクチ。けど俺は違う。そういう自己満でしか自分の存在を確認できない人種のことをボッチと呼び、ボッチってやつは一つのことをやり出したら何かと形に残したがる。


 別にゲームじゃなくてもいい。それこそ音楽とか、絵とか、小説とか、ゲーセンのドラムの達人でもいいんだ。

 これぞ俺のボッチ・ザ・ロック。みたいなのを、ボッチってやつはなんか知らんけど胸に秘めてる。


 お前みたいなゲーマーの皮を被ったリア充に負けたら、ビゲストボッチゲーマーの名が廃る。それぐらいのプライドはある。


「女帝使い? 動きがのろいし、おすすめしない」


「いや、俺はこのキャラで行く。お前はキャットね。レーザー銃ぴょこぴょこ撃ってくるだけの雑魚キャラだろそれ」


「そんなことない。キャットは強い。武者小路、絶対勝てない」


 いわゆる、ぶんぶん飛び回るジュニアフライ級のキャラを選択する新垣。対する俺の女帝は、スーパーヘビー級。すべての攻撃が一撃必殺になるロマンキャラ。


 たしかにキャットは動きは速いし、飛び道具も持っているけど、所詮はその程度。カルマを感じちゃうぜ。


「ステージは終局の狭間でいいか?」


「私はどこでもいい。全部のステージに適応力がある」


「それキャラ選択で言えれば本物だったな。別に俺は女帝じゃなくても全キャラ使いこなせるし」


「……武者小路。もしかして自分が格上だと思ってる?」


「やってみないことにはわからんが、ハンデも貰ってるし、負ける気は微塵もしないな」


「口だけなら何とでも言える。ステージの選択権も武者小路に譲る」


「そりゃどうも」


 終局の狭間。

 障害物やらギミックやらが一切ない、超シンプルなステージだ。

 シンプルゆえに奥深い。純粋なプレイヤースキルが問われる。


 さて、ちょっと本気だそうか。



 *



 現実って残酷ですよね。うるうる。


「あ、わりい。またやっちまった。癖になってんだ。逃げ腰からのメテオ」


 新垣の操作してるキャットを女帝の空中回転蹴りで画面外に叩き落とす。


「あれこれ俺がハンデあげた方がよかった感じ? 卍ー?」


 ガンジー。


「……っ、絶対に許さない」


「俺もお前を許さないキック」

 

「っ……」


 女帝はパラソルとか持ってるくせして、ほぼ蹴り技しか使わない、なんか姫乃に似てるキャラ。一回、いや、何回かあいつと海に行ったんだけど、パラソルを立ててる時にナンパされた姫乃が両手塞いだまま蹴りかまして撃退したことがあってさ。水着が超エロくて、ナンパ師は蓑虫みたいに砂浜にうずくまってて。


 ぶっちゃけ、俺の恋人は世界一可愛いと思う。異論は認めない。


 あれ? なんの話してたんだっけ。


 ゲーム中はつい考え事があっちこっち飛んでく。


「お前、ちと追いすぎ。接近戦の読み合いが得意なんだろ? そっちに持って行きたいって気持ちが強すぎて、俺にいいようにやられてる。キャットの方が飛び道具豊富なんだから、もっと余裕ぶっこいて戦えよ」


「……ヒットアンドアウェイなんて男のすることじゃない」


「ああそう。じゃあちと接近してみるか。くんずほぐれつが好きなんて、やっぱビッチ脳なんだなお前」


「男はそうやってすぐにビッチって使いたがる。非モテほど使いたがる。経験豊富なカノジョと付き合ってみたい。本当はそう思ってる」


「……経験豊富とビッチは違うからな。認識を改めような。ああこいつ俺と付き合ってもどうせ他の男とパコパコやってるんだろうなーって、ちょっと地雷臭する女がビッチ。経験豊富ってのは姫乃みたいな女を言うんだ」


「姫乃だって昔はそうだった」


「今を見ろ。現実を見ろ。おい接近してやってんだからさっさと来いよ。ビッチのくせに逃げ腰かよビッチ」


「挑発に乗るなんてバカ。になに熱くなってるの? 女帝ののろさじゃ対応できない。今のファミコロは速度とコンボ」


 かっちーん。ボコす。


「よっと、ほい、ほい。お……なんかタメ蹴りが当たってしまった。こんなの当たるやつ実在したのか? あーそうか、だもんな。あるよな、あるある」


「………………」


 新垣の行動パターンはだいたい読めた。


 ここでコンボ繰り出したいんだなってところに、溜めに溜めた強攻撃を一発食らわせてやれば、そのまま場外。


 確かに昨今のファミコロはコンボゲー重視になったが、それでも一発逆転のロマン技ってのはあるもんで、タメ最大でダメージ45.8%の上コロシアム攻撃は、まあまず当たることはないが、新垣のキャットはそれに見事に引っかかった。


 俺は一発で決めることを重視してるので、それまでは無駄にコンボとか決めたりせず、最低限のダメージ量で場外まで追い込む。


 あとは意表を突くメテオ。

 こればかりは強いプレイヤーほど引っかかる。


 新垣は確かにうまい。


 ファミコロやり込んでるんだなってのはわかる。

 負けず嫌いなんだろうな、ってのもわかる。


 ただ勝ち気じゃない。俺は常に勝ち気。

 相手が姫乃だろうと新垣だろうと、オンライン上のどこぞの誰かだろうと、隙あらば平気で嫌なことだってできる。


 誰かに嫌われることだって怖くない。


 普通の男なら姫乃と交際しながら新垣とも……ワンチャン、ぐふふって、感じなんだろうけど、俺そういう下心ホントに一切ない。


 家族とか恋人以外はぶっちゃけどうだっていい。

 憎まれてもいい。

 

 つまりは最強の思考。


 だって俺は、そういう人間なんだから。にひ。


 


 ボッチのプライドはあるが、姫乃のためならそんなプライドだってすぐに捨てられる。対して、新垣は挑発一つで、俺の主戦場にほいほいついてくる、言うならば己の力を見せつけたい武将クラス。で、俺はそれを絡めとるちょっとずる賢い一介の武士。戦国時代にもそういう事例は腐るほどある。


 権力やら暴力やら能力やら、そういう力が蔓延した大道から横っちょにそれるための策を巡らすことに関して、俺の右に出る者はいない。


 我こそは、武者小路歩と書いて、小道己の道を歩むものなり。


 まあ、名前をつけたのは両親なんで、後付けなんですけどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る