第4話代表戦や回想話などなど…
本格的なマシーンを使用したトレーニングが一日のメニューに加わりだしていた。
ジムなどに通いながら体を鍛えることに注力する日々だった。
自主練習や本格的なトレーニングを一人で行うことに少しだけ限界を感じていた頃。
そのお達しは俺のもとに届く。
偶然だがまさに待ち望んでいたような展開だった。
試合感覚が薄れる心配を解決してくれる。
そんなお達しだった。
それに一人での練習やトレーニングの問題も一気に解決してくれる。
そんな僕にばかり都合の良いお達しに思えてならなかった。
「神田吹雪殿。貴殿はU-15代表選手に選出されました。
日程、場所は…」
そこから長く続く文言を目にしながら…
俺はその日を心待ちにしているのであった。
U-15日本代表選手として招集されたことに喜びを抱きながら…
俺は代表専用グラウンドの前まで来ていた。
「神田!帰国してから一度も試合に出ていないのに選ばれたか!
流石の一言だぜ!」
僕の後方から須山剣がやってきていて…
お互いに思わず破顔していたことだろう。
「須山も選ばれたんだ。そっちこそ流石だよ」
「いやいや。俺はたまたまな気がするな。代表経験があるから…
しかもその時は主将だったし…
今回も経験者枠として選出されただけじゃないか?」
「そんなこと無いだろ。謙遜しすぎだ。萬田シニアは大丈夫か?
大会中に主力選手が抜けて…」
「あぁ。問題ないだろ。特に俺は進路が決まっているからな。
萬田シニアの正捕手であるけど…
来年以降の捕手も育てる必要があるだろ?
だから萬田監督は俺を快く送り出してくれた」
「そうか。流石は萬田監督だな。思い切りが良い選択をする」
「そっか。神田も萬田シニアで世話になっていた時期があるんだったな」
「そうそう。小学生の頃だけどね」
「たまに神田の話されたな。凄い選手だったって…
萬田監督も蒲田コーチも神田の話をする時は興奮気味に鼻息荒くしていたぞ」
「なんだよそれ。関わってきた大人たちのお陰で成長は早かったと思うけど…」
「そっちこそ謙遜するなって。
小一でホームラン打つやつがそこら中にいると思うなよ。
明らかに特別な選手だろ。
今の身体を見たら皆んな驚くだろうな…
俺も萬田シニアでは大きな方だが…
明らかに10cm以上の差があるだろ」
「須山は身長どれぐらいなの?」
「今朝測ったけど…182cm」
「十分大きいだろ。無いものをねだるのも良くないことだと思うけど…
あるものを必要以上に求めるのもあまり良いことでは無いんじゃないか?
現状持っている全てで立ち向かわなくてはいけないわけで…」
「ふっ。まさに持っているものの上から目線の言葉だな。
俺は絶対に後8cm以上は欲しいんだよ。
いつまでも上を先を求め続けることが良くないことだっていうのか?」
「いや…そうだね。そう言われると…向上心があるのであれば良いんだな。
さっきの発言は取り消すよ。申し訳ない」
「いやいや。神田なりに心配してエールを贈ってくれていたんだろ?
それなのにあんな言い方して…こちらこそすまない」
「良いって良いって。それじゃあ早速中に入っていきますか。
日本での代表は初めてだから…
色々と頼むな…」
「あぁ。分かっている。お前はチームメイトに誤解されそうなタイプだからな。
俺がどうにか橋渡し的な役割を担うさ」
「本当にありがとう。助かるよ」
俺達はグラウンドの入口で他愛のないやり取りを行うと中に足を踏み入れるのであった。
グラウンドに入ると俺はU-12の当時のことを思い出していた。
きっと空気感や環境面が似通っていたからだと推察できる。
ベンチに荷物を置いて道具をカバンから取り出しながら…
当時のことを振り返っていた。
日本で言う小学六年生の歳に俺は代表に選出されていた。
代表専用グラウンドと言う名の大きなスタジアムに降り立った俺は心を弾ませていたことだろう。
代表に選ばれた顔ぶれの中にはフェニックスで一緒にプレイをしていたアレックスの姿がある。
他にも後にアカデミーで一緒にプレイすることになるメンバーが揃っていて…
「フブキ!久しぶりだね!大きくなりすぎじゃない!?」
アレックスは俺に陽気なテンションで接してくれていた。
俺も嬉しそうに近くに向かい挨拶を交わしていた。
「本当に久しぶりだな!フェニックスを抜けてから何度か家でBBQしたけど…
最近は出来ていなかったもんな。
皆んな忙しくなってしまって…
再会できて本当に嬉しいよ!」
「本当にね!もっと頻繁に会いたかったけど…僕も自分の練習が忙しくて…
それにしても…身長いくつになったの?」
「えっと…180cmには届いていないけど…だいたいそれぐらい」
「デカすぎ!殆ど大人じゃん!身体もゴツくなっているし…
明らかに記憶の中とは別人というか…本当に凄いね…」
「もっと大きくなりたいけどね。まだ自分的には物足りないって感じているんだ」
「えぇー…求め過ぎじゃない?」
「そうかもだけど…世界一の選手になりたいから。
どうしても大きさやパワーを求めてしまうよ」
「パワーや大きさだけで世界一の選手になれるの?」
「いやいや。もちろん他の全ての要素を今の内から習得するつもりだよ」
「そっか…やっぱりフブキは向上心の塊だね…」
アレックスは少しだけ陰った表情を浮かべており…
それが少し気になったのだが…
当時の俺はあまり気にもせずにいたのだ。
「おい…あれってフブキカンダだよな?」
「でかすぎるな。ってか話しているのフェニックスのアレックスだよな?」
「あぁ。あの二人って…確かフェニックスで二遊間コンビ組んでいただろ?
ほんの一瞬だったけど。以前から知り合いってわけだな」
「なるほどな。でも…あの感じを見るに…
フブキカンダのレベルについていけなくなったんだな。
身体の大きさが違いすぎる。
大人と子供ぐらいの違いがあるだろ。
実力に差がつきすぎても…
誰も責めることは出来ないだろ」
「それでも代表に選出されているってことは…
やっぱりアレックスも凄い選手なんだろ」
「そうかもな。俺達もここで活躍して…
フブキカンダが所属しているアカデミーに声を掛けてもらおうぜ」
「だな。果たして…
最年少でアカデミーに声を掛けられた人物の実力はどれぐらいなものなのか」
「お手並み拝見と行こうぜ」
代表に選出されたメンバーは各々でアップを行っていた。
その日から代表合宿は始まって…
少しの期間だが俺達は代表チームになって何試合も共にプレイして…
当時の俺達は優勝を果たしたのだ。
「フブキ!お前って本当に凄いやつだな!何本ホームラン打つつもりだよ!」
「相手投手の驚きの表情見たか?フブキが打席に入っただけで嫌な顔していたぞ!」
「投手だったら誰でも嫌だろ…俺も敵チームの投手だったら対戦したくない」
「だよな。何処に投げれば良いのかわからないだろうな」
「本当にそうだな。何処に投げてもスタンドに運ばれる」
「凄い選手だ。今から楽しみでしか無いよ」
一時的に味方チームで一緒にプレイをしていた選手の絶賛する言葉を真正面から受け止めて。
この時の俺は心地のいい気分を抱いていた。
しかしながら現実というものは残酷で…
代表で一緒だった選手がアカデミーにスカウトされて入団してくると…
俺のフラストレーションや不満は次第に加速していった。
結果的にその後…
数年掛けて俺はアカデミーを退団したのだが…
「神田!アップ行こうぜ!他の選手にも声を掛けておいたから!」
須山剣の声で回想から現実に戻ってきた俺は…
笑みを浮かべて返事をするとベンチを出る。
そこから俺達は揃って外野に向かい…
入念にアップを行いながら…
お互いに自己紹介などをして過ごすのであった。
外野にていつも通りのアップを行っていると…
「神田!そんなにとばして走ったら…体力なくなるって…!」
後ろから須山の声が聞こえてきていて…
俺の集中は一瞬だけ途切れてしまう。
「そんなに早かったか?いつも通りのスピードだったんだが…」
「早いって!誰もついていけてないだろ!代表の少ない期間だけど…
一応仲間でチームなんだから!
足並み合わせようぜ!」
「だが…俺だけがペースを落として実力以下の力でアップするのか?
それだと不公平じゃないか?
十分にアップできないと怪我や故障のもとになるからな…
皆んなには悪いが俺はこのスピードで行くよ」
「おいおい!自ら溝を作ろうとするなよ!
お前は今まで海外に居て日本に居なかったんだ!
少しでも良いから味方に併せて近づこうとか努力しないと…」
「いいや。大丈夫。
帝位高校に入ったら今のお前らのスピードだとついていけなくなるし…
体力をもっと向上しておかないと後で痛い思いをするのは自分だぞ?
俺は下のレベルに合わせるつもりは毛頭ない。
申し訳ないな。
お前らを蔑んでいるわけではないのだが…
俺は俺のペースで…」
そこまで俺が言った所で須山は明らかに目に見えるほど大きなため息を吐く。
「皆んなはどう思う?」
周りに確認するように苦笑気味な笑顔を浮かべて問いかけている。
「今の話を聞くに…高校に行ってすぐに一軍に上がりたいって改めて思った。
俺は神田のスピードについていく」
「俺も…今までのままだと置いてけぼりを食らってしまう」
「ある程度は覚悟していたさ。神田吹雪に現実を突きつけられるって…
でもそれで諦めて腐る様な…
俺達はまだ逃げ出す段階じゃないって理解している。
諦めが悪くて負けず嫌いだからな。
俺も神田についていくぞ!」
代表チームの味方選手は全員が向上心を高い意識で持っていて…
続々と俺の後ろを全速力でついてきていた。
「なんだよ…皆んなそういうつもりなのか。
それなら良かったぜ!
俺が気を揉んでいたのは無意味だったわけね。
それなら先に言ってくれよな!」
須山剣も最後尾から一気に加速して俺達を追いかけている。
長い時間を掛けて全てのアップを済ませると…
チームメイトはどうにか俺の後をついてきて…
体力の限界を迎えたのか外野の人工芝の上で寝転んでいたのであった。
柔軟やストレッチを二人一組になって入念に行っている。
俺のペアは須山剣だった。
「神田。アカデミーでもああいう対応だったんだろ?」
須山は声を潜めて俺に問いかけていた。
何を言われているのか…
何を指摘されているのか理解していた。
「そうだな。野球のことになると譲れない性格をしていると理解している。
自分が低いレベルに併せて練習することが苦痛で仕方がないと思ってしまうんだ。
全員が高みを目指し続ける練習を行えば…
自ずと俺と同じ高みで取り組んでくれると思っている。
確かに理想論かもしれないが…
諦めて理想を追い求めるのを辞めるには…
俺達はまだ若すぎると思わないか?」
「そうだな。概ね神田の言う通りだと思うよ。
でもさ…全員が同じ気持ちを持って練習に取り組めるわけ無いよな?
俺達は別の人間で殆ど何もかもが違う存在だって言い切っても良い。
神田との間に意識の齟齬が生まれたとしても…
全員が何かを考えて感じて生きていると思えないのか?
皆んな何かしらの思いを抱いて練習に取り組んでいるはずだ。
神田とは違う何かを追い求めている可能性はあるよな?
それを神田の持論だけに焦点を合わせて話を展開するのは間違っているだろ?
確かにお前の練習は意味があるものなんだろうよ。
今のお前の身体や肉体を見れば十分に理解できるよ。
幼い頃から地獄のトレーニングや練習に取り組んできたんだろうなって。
だから自分のペースで…
独りで何もかもを行おうとしているんだろ?
ついてくれば俺のようになれるって。
でもそれは正しいとは言い切れないと思う。
人にはそれぞれに合ったトレーニングや練習があると思うぞ。
筋肉量や骨格からして何もかもが違う人間同士なんだ。
才能だって能力だって各々違う。
だから…」
須山はペアで柔軟を行いながら俺に長い話を展開していた。
俺は話を最後まで聞くつもりだったのだが…
「そうだな。人それぞれ違う。だから俺は申し訳ないけれど…
自分にあったアップをしていたわけだよ。
チームの平均値に併せた練習をしていると下手になる。
怪我や故障にも繋がりかねない。
俺達は野球というスポーツで繋がっているだけの…
本当にそれだけの存在だろ?
友人の様な付き合いではなく…
皆んな一斉にスタートを切って…
全く同じスピードで走り続けるような甘い世界じゃないのは分かっているよな?
いつだって誰かが誰かの席を奪うような…
誰かを押し退けて…
上に駆け上がっていく。
そういう世界だと認識しているが…
皆んなは違うのか?
ここは…
現地点はゴールでもなんでもないんだぞ?
この先にも道は幾らでもあって…
俺達は野球を続ける限り…
この道の上を全速力で進み続けないといけない。
誰かを追い越して…
押し退けて…
出し抜かれないように…
スピードを緩めずに…
いつまでも加速を続けていく。
仲良しこよしで…
甘い意識で全員で一緒にゴールテープを切るような…
そんな生易しい世界じゃない。
そうだろ?
だから俺は誰よりも上手くなるために…
自分に最適なメニューをこなしているんだ。
それに文句はないだろ?」
俺も自分の胸に秘めている思いをしっかりと伝えて見せていた。
須山は俺の思いを耳にして苦笑気味だったことだろう。
大きく嘆息するように息を吐いている。
「代表選手の中で神田の気持ちを理解できないやつが居なかったのは幸いだな。
でも来年の帝位高校ではわからないんだぞ?
少しはチームメイトと上手くやることにも意識を向けな。
チームスポーツなんだ。
味方に救われる場面は幾らでも来る。
例えいつも神田に救われているとしても…
味方の力が心強く思う瞬間は来るだろ?
お前に限って…
そういう瞬間が来るかは定かじゃないがな。
プロやメジャーに行けば…
いつかそういう機会が訪れるだろ。
だから今の内に少しずつ慣れていこうな。
俺だってお前の気持ちや思いを否定する気は微塵もないさ。
だから来年から入学する帝位高校で…
俺達をもっともっと高みへと引っ張っていってくれよ。
頼むな」
須山は最終的にその様な言葉を口にして微笑んでいるようだった。
俺達は柔軟やストレッチを終わらせると…
キャッチボールとバットコントールの練習に移行するのであった。
紅白戦や練習試合を幾らか行うと…
俺達はポジションと打順を発表されていた。
俺は当然のように四番ショートだった。
須山剣は三番キャッチャーだった。
スタメンに選ばれた殆どの選手が高い能力を持った選手と感じていた。
数日後から始まる公式戦を楽しみにして…
俺達は本日の練習を終えたのであった。
そこからも数日間練習は続き…
俺達は代表戦初日を迎えていた。
いつも通りのアップを行い。
この数日でチームメイトもどうにか俺に食らいついてきていた。
だがしかし俺は余裕を持ってアップを終えるのに対して…
彼らは中々の疲労感に包まれているようだった。
アップを終えるとベンチに戻り全員が水分補給や塩分糖分補給を行っていた。
試合が始まるのは二時間後を予定しており…
俺は休憩もそこそこにベンチを出ると素振りを行っていた。
誰に何を言われるわけでもなく…
選手たちは俺の後を追うように素振りを行っている。
バッテリーや控え投手はブルペンに向かって…
俺達は既にやる気十分だった。
お互いのチームの試合前ノックが終了して。
試合開始まで数分と…
刻一刻とその時は迫ってきていた。
審判が集まって整列の掛け声が聞こえていて…
お互いのチームは整列をして挨拶をすると…
俺達の先攻で試合は開始されたのであった。
一回表。
一番打者が開幕早々に初球打ちをして塁に出る。
ベンチに向けてガッツポーズを取る彼に皆が応えていた。
二番打者はベンチにいる監督に視線を向けてサインを確認していた。
ヘルメットのつばに軽く触れた彼はバントの構えを取っている。
相手投手はアウトカウントが増えるのであればと…
気の抜けた球を投げてしまい…
バットを引いた二番打者はそのままバスター。
センター前にヒッティングして…
ノーアウト一、二塁。
三番打者の須山剣がネクストに向かう俺を待っていて…
「お前の前でランナー全員帰すから。
良く観ていろよ?
俺の成長度合いを…」
彼は不敵な笑みを浮かべて左バッターボックスに入った。
警戒しながら投球するバッテリーだった。
クサイコースに…
ストライクゾーンギリギリに制球する投手は中々の実力だと思った。
フルカウントからアウトコースいっぱいに投げ込まれたフォーシームを…
須山は逆らわずにきれいにバットを繰り出してフルスイングしていた。
豪快な当たりはレフトスタンドに突き刺さるように入っていく。
「有言実行かよ。すげぇじゃん」
他人事のような感想が口から漏れ出ていて…
思わず苦笑してしまう。
「な?言った通りだろ?全員帰したぜ?次は神田の番な」
試合を行えていることに須山は本当に楽しそうな表情で野球をプレイしていると思った。
笑顔が溢れる彼を少しだけ羨ましく思いながら…
俺は左打席に入った。
相手バッテリーは一度タイムを取ってマウンドに集まっていた。
俺のことを知っているのだろうか。
ちらちらとこちらに視線を向けてきており…
何やら激しく口論をしているようだった。
俺は気にも留めずに豪快な素振りを繰り返していた。
やっと話し合いで解決したのか…
捕手が戻ってきてマスクを被った。
審判がプレイ再開のコールをすると勝負は始まった。
初球から明らかにアウトコースに外れるボール球を連発されていて…
これは敬遠だと瞬時に理解してしまう。
今回も対戦が出来なく物足りなさを覚えていた。
しかしながら敬遠だとしても投手の投球に併せてしっかりとタイミングを図っていた。
3-0と後一球でフォアボールになる場面だった。
投手が投げた球がすっぽ抜けたのか…
はたまた故意死球だったのか…
俺の顔面めがけてボールが投げ込まれてきていた。
危機を感じた俺は…
遅くなった様な世界で…
避けることに思考を割いていた。
どの様に正確に避けるべきか…
変な態勢で避けて怪我や故障をしたくない。
そんな思いが瞬時に脳内や心で浮かんでいる。
急に世界が加速するように投手の投球が後数mまでやってきていた。
俺が取った選択が正しかったどうかは後になればわかるだろう。
何を考えていたのか…
危機的状況に俺の本能は滅茶苦茶な姿勢でバットを繰り出していた。
今まで投げられていたボールは全てアウトコースで…
いくら踏み込んでもバットに当たらないコースだった。
しかしながら投手が偶然でもわざとにしても…
インハイに投げてくれたのだ。
俺は本能のままにバットを繰り出して…
明らかに詰まった当たりがして…
俺は自らの行動が過ちだったのかもしれない。
と自分を軽く責めていた。
しかしながら…
詰まった当たりは高く上がりぐんぐんと伸びていく。
伸びて伸びて…
ライトがフェンスまで到着してしまい…
打球の行方を天を仰いで眺めていた。
それを確認して俺は本塁打だと理解する。
ダイヤモンドを一周しながら…
「詰まったのに結構飛んだな。儲け物だった」
そんな感想を抱きながらホームベースを踏む。
五番打者とハイタッチをしてネクストの六番打者ともハイタッチを行う。
ベンチに戻るとチームメイトは苦笑気味だった。
「あれは普通避けるだろ…なんで打てるんだよ」
須山剣は呆れたような表情を浮かべて俺の尻を軽く叩いた。
「何処も怪我していないな?故障はないな?」
須山に問いかけられて俺は体中を触ったり腰や上半身を捻ってみる。
けれど何処にも不調はないため返事をしてグラブを手にしていた。
「須山。軽くキャッチボールしようぜ」
彼はそれに返事をして…
投手を含めた三人で俺達は一回裏の守備の準備をしていたのであった。
一回裏は思いの外すぐに終了してしまう。
まさに打たせて取る投手は低めに制球を集めて相手打者を打ち取っていた。
守備を守る俺達はしっかりと捕球をしてファーストへ返球。
三人の打者を三球で終えてしまった投手はベンチに戻ると給水を行っていた。
俺達の打線は二回表以降も爆発してしまい…
相手先発投手をすぐに降板させていた。
攻撃の手を緩めるほど俺達は甘くなく…
九回までに24得点を奪っていた。
俺を含めた代表選手はかなりの数の本塁打を放っていて…
当然のように二打席目から俺には敬遠が続き…
しかしながら三番打者の須山や五番打者を務めたチームメイトが勝負を挑まれて…
何本も打つという状況が続く。
守備の時間は極端に短く…
攻撃の時間がかなり長い。
俺達は試合を終えると相手チームの睨みつけてくるような視線に気付きながら…
そっぽを向くのであった。
そこからも代表戦の日々は続き…
俺達は決勝まで駒を進める。
相手は俺が以前まで所属していた代表チーム。
中にはアカデミーの連中の姿も発見していた。
「俺が抜けて…皆んな伸び伸びプレイできるようになったんだな…
やっぱり抜けて正解だった…」
そんな独り言が口から漏れてしまう。
「なんだ。連中を見返したいのであれば…俺も協力するぜ?」
須山剣は心強い言葉を俺に投げ掛けて…
試合が始まると彼は有言実行するように何本もの安打や長打を重ねていた。
俺を知り尽くしている相手は当然のように全打席申告敬遠を行う。
それでも俺は俺のために毎回三盗まで行い。
しかし俺を知り尽くしているバッテリーは気を抜かない。
今回ばかりは五番打者に頼る形になってしまう。
しかしながら五番打者の彼は全ての期待に答えるように。
毎打席で俺を帰塁させてくれた。
心強いチームメイトに感謝の念を抱きながら…
俺達は代表戦決勝戦を快勝。
優勝で代表戦期間を終わらせるのであった。
「助かったよ。お前らのお陰で決勝戦も快勝だった。
ありがとうな」
俺は自分で言うのもあれだが…
珍しく味方に感謝を告げていた。
「いやいや。神田の厳しい特訓についていけた自負があるからさ。
俺達でも出来るって思えたんだ。
俺達の方こそありがとうな。
お前のお陰で自分に自信を持てたし…
この先の目標と言うか…
進むべき高みに触れることが出来た気がするよ。
本当にありがとう」
「本当だよな。神田の実力はマジで頭何個も抜けていて…
相手は殆ど敬遠だったし…
これで俺達が負けたら神田が敬遠されたからって言われると思ったよ。
危機感感じてさ…
しっかり打てて良かったぜ」
「そっか。本当にありがとう。来年からは敵同士だと思うけど…
次のU-18でも同じメンツが多く集まることを期待しているよ」
「ははっ。神田…
それだとお前は既に招集されることが決まっているみたいな言い方だぞ!?」
最後に須山が場を和ませるような言葉を口にして…
俺達は笑い合っていた。
「でもまぁ。神田なら招集されるだろ」
「だな。俺達もこの数年でもっとレベルアップしようぜ」
代表の仲間は一致団結して声を上げると…
監督や指導者…
上層部の奢りで打ち上げに向かったのであった。
代表戦が終わり…
暑さが厳しい夏が過ぎて…
涼しい秋の中で自主練に励みながら…
寒い冬の期間で身体をもう一回り大きくするようにトレーニングを行い…
そんな充実した日々を殆ど一年間過ごして…
俺は明日から…
帝位高校に入学する。
再びの帝位高校野球部で…
俺の高校生としての充実した野球生活が始まろうとしていたのであった。
次回へ…!
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